第34話
突如、静止した市岡の身体に異変が起こる。
「――ひぎぃっ!!」
内部から“何か”が競り上がって来る感覚に、市岡は絶叫する。
不規則な表皮の膨張と収縮。
目を背けそうな“何か”が外へ出ようとしている。
「痛い痛いいだいイダイイダィイダイィィィ!!!!!」
胎内を蠢く得も知れぬ感覚と、神経を逆撫でする想像を絶する激痛に、悲痛な絶叫を上げ続ける市岡の哀れな姿。
その姿は偽善でなくとも、思わず助けたくなる程の。
その痛みと身体の膨張、収縮は臨界点を超え、やがて――
「だっ……だずけっ――!!」
“ボン”
圧縮した空気を破裂させた様な不協和音が、内部から外部へと向けて鳴り響いた。
その音と断末魔を最期に、市岡の五体は十六分割に破裂。
内部の中心点から競り上がり、咲き誇るは枝分かれした氷の華。
路地裏に咲いた“それ”は、幾多ものパーツで赤く彩られ、それはさながらモズの早贄の如く。
それは美しくも凄惨な“死”のオブジェ。
分離した生前の一部が、その恐怖を物語る様に見開いていた。
その瞳孔が動く事は二度と無い。
「市岡 明。消去完了」
『雫』はそのオブジェに一瞥する事も無く、無慈悲なまでの終焉を告げていた。
そこには一欠片の情けも慈悲も無い。
「お前達の“闇の消去”は終了した……」
誰に聞かせる訳でも無く、ただ対象を消去しただけかの様な、感情の無い『雫』の声が闇の静寂に溶け、消えていった。
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