第33話

『雫』の背後から殺意を以て放たれる改造スタンガン。



「なっ!?」



その背に届くまで、その間約三十センチメートルにまで迫った時の事。




――かっ……身体が……動かない!?




届く直前に自我とは関係無く、突然金縛りに遭ったかの様に停止した己の肉体に、市岡は疑問を抱かざるを得ない。



「何で? 何でぇえぇぇ!?」



押せども引けども動かぬ身体。まるで全身の筋肉が固まったかの様な感覚。



焦りは次第に恐怖へと。



「お前は自分の愚かさを噛み締める必要がある」



驚愕に引きつった表情の、冗談の様に固まって動かない市岡に向けて、『雫』は振り返る事無く、そう呟いていた。



そして何故『雫』がその手を離し、背を向けたその本当の理由を。



「お前の身体には既に氷の“タネ”を植え付けてある。全身の筋繊維凍結から硬直。やがて拡大する氷は内部から外部へ向けて……」



“ボン”



『雫』は市岡へ向けて握り締めた右拳を開き、その経過の過程後を朧気なジェスチャーで顕していた。



「ひっ! ヒィィヤァアァアァァッ!!!」



その意味を理解した市岡は、この世のものとは思えない絶叫を上げる。



見逃した訳では無かった。



「お前の様な“屑”を、俺が見逃すとでも思っていたのか?」



『雫』が背を向けたのは、ただ“消去”が終わっただけ。



半分だけ振り向いた『雫』の銀色の片眼には、市岡を“命”として見てはいない。



「いやあぁアァァアアァアァアァ!!!!!」



ただの無機質な物。消去対象としか認識していない、有象無象の冷酷さがあるだけ。



「絶望の獄土に散れ……」



恐怖と混乱に喚き続ける市岡をよそに、『雫』は無慈悲にもそう告げながら、再び背を向けていた。

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