第31話
“有り得るはずが無い”
「なっ……何でぇえぇっ!?」
背後からならまだしも、前方から来る等、仮に先回りしたとしても、時間系列的に間に合わないはず。
「くっ……来るなぁあぁぁぁ!!」
しかし現実に目の前に“居る”のだから、それがどんな理解を超えた事でも、受け止めせざるを得ない。
市岡は尻餅を着いたまま後ずさりしながら、声無き声を絞り出す。
恐怖と混乱のあまり、腰が抜けてもはや立つ事も不可能。
絶体絶命。蛇に睨まれた蛙の構図。
「……逃走も抵抗も無意味だ」
後ずさる市岡にゆっくりと歩み寄る『雫』は、まるで全てが手遅れ、とでも言わんばかりに宣告し、右手を掲げる。
その手に煌めく、冷たくも蒼白い輝き。
「やめっヤメェエッ! 助けッ! 殺さないでぇエェェ!!」
市岡の言語不明な必死の懇願。命乞い。
“死にたくない”
願うはただそれのみ。
その顔面はこの世のものとは思えない程に歪み、涙やら鼻水やら涎やら、毛細から噴き出るあらゆる液体で、市岡の表情は面影も無い程変貌している。
また極度の恐怖から失禁したのか、ボトムスからは染みと共に湯気が立っていた。
『雫』は市岡の顔面に右手を伸ばし、その表情を覆い隠す様に掴む。
「お前達は俺にとって、只の“消去”する対象に過ぎない」
そこに一切の感情は無い。
「50万……それがお前達の命の価値。そしてその金額に込められた恨みの重さ……」
“ただせめてもの情けなのか?”
最期に“消去”される理由の一部を、冥土の置き土産として囁く様に呟いていた。
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