第30話
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「はぁはぁはぁ……」
入り組んだ建物群の路地裏を、息を切らせながらも必死に走り続ける。
――何だよ! 何なんだよアイツはっ!?
「――何で俺らがあぁっ!?」
市岡 明は岩崎が『雫』に“消去”された直後、その場から一目散に駆け出していた。
――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
脳裏に焼き付くは二人の無惨な死。
心臓を抉り出された園田。
頭部が破裂し無くなった岩崎。
――死にたくねぇ死にたくねぇ死にたくねぇ!!
“何故こんな事態になったのか?”
今の市岡に冷静な思考力等、有るはずも無い。
「くそったれがあぁっ!!」
ただ意味無き雄叫びを断続的に上げながら走り、逃げ続けるしか無い。
“この悪夢の様な現実から”
「はぁ……ひぃ……」
“逃げ切れる?”
市岡は不意に希望の念を抱く。背後から追って来る気配は無い。
何よりこれだけ暗く入り組んだ、狭い路地裏をこれだけ全力で走っているのだから、一度見失ってしまえば追跡はおろか、探す事も出来るはずが無いとしか思えないからだ。
――たっ……助かった?
市岡は走りを緩める。既に息切れも限界にきていた為、“一息吐きたい”と思った刹那――
「――うぼぁ!?」
前方を見ていなかったのか、何か壁の様な感触に阻まれて、市岡は弾ける様に尻餅を着いた。
「いってぇ…………!!」
目を凝らした市岡の瞳が、驚愕に見開かれる。
「ヒッ……ヒィィギャアァァァァッ!!!」
そして恐怖の余り、言葉にならない絶叫が吐き出された。
何故ならその眼前には、待ってましたと言わんばかりに、黒衣に両手を突っ込みながら立ちはだかる『雫』が、その無機質な銀色の輝きを以て、市岡を見下ろしていたのだから。
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