第26話

「消えた……?」



「どうなってんだ!?」



三人は先程まで目の前にいたはずの『雫』の姿が何処にも無い事に、戸惑いながら辺りを見回している。



しかしその姿は眼前には無い。まるで煙の様に消えていたのだ。



しかし人が忽然と姿を消す等、通常有り得ない。



そう、あくまで“通常”なら。



「うっ! 後ろだぁっ!!」



突然張り上げた一人の声で、ようやく事態を呑み込み振り返る三人。



『雫』の姿を見失ってから、この間約七秒経過。



三人の背後から約五メートル程離れた位置に、『雫』は背を向けて立っていた。



「驚かせやがって!」



何故突然消えたのかに対して、疑問を抱かないかの様に声を上げるが、三人はすぐに“ある違和感”に気付く。



「あぁ?」



「何だ……あれは?」



その疑問の矛先は、『雫』の右手に向けられた。



三人は目を凝らす。



掲げられた『雫』の右手に掴まれていたのは拳大程の、否もっと大きいであろう赤黒い“何か”。



その赤黒い物体は、まるで生きているかの様に蠢いている。



掌を伝って地面に滴り落ちる液状。



「なっ……」



三人はその物体、見てはいけないおぞましい“何か”を目の当たりにし、金縛りに遭ったかの様に立ち竦むしかない。



“まさか?”



それは俄には受け入れきれない事実。



現実と悪夢の境界線。

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