第22話

「この目で見るのは初めてですが、本当にお美しいですね。冷酷な迄に……」



表情こそ仮面の裏で伺えないが、琉月の声からは恍惚の感情さえ滲み出ている。



何故なら幸人が銀縁眼鏡を外した瞬間、その姿が変貌を遂げていたのだから。



「狂座の誇る、最高のエリミネーターが一人。コードネーム『雫』……」



その漆黒の瞳は銀の眼(まなこ)へ。



そしてそれに呼応するが如く、その艶やかな黒髪までもが、燃える様な煌めく銀髪へと変貌を遂げていた。



琉月でなくとも、その至高の存在に誰もが魅入られてしまう程の。



「今宵、死神による正義の裁きが下される……ですか……」



表の顔から裏の顔へ。



幸人から『雫』へと移行した瞬間だった。



「正義? 人殺しに正義等あるはずが無い。狂座も俺も、金で悪を裁く極悪でしかない」



幸人、否『雫』は琉月の正当を一蹴に処す。



「だがどうしても晴らせぬ恨みがある。晴らしたくとも行き場の無い恨みが……。それを代行する為に、必要悪として俺達は存在している」



それは殺人を正当化するつもりは毛頭無い、という信念の顕れか。



『雫』は消去代行、その遂行へと赴く為に、琉月に背を向け歩み出す。



「……事後処理はこちらの方で万全を期しておりますので、消去方法はご自由に。ただ今回、クライアントへの証拠提出の為、ターゲットを全消去してしまわないよう、配慮の方をお願いします。まあ貴方には必要無い、過ぎた助言でしたがね……」



琉月の声が聞こえるか否かの間には、『雫』の姿はジュウベエと共に、既にその室内には無かった。

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