第20話

「貴方も御存知の通り、通常は狂座へアクセスする事は不可能となっております。幾重にも張り巡らされた、電脳精神回路の厳重包囲網によって」



琉月は事もなげに話を進めていく。



都市伝説とされた殺人サイト“狂座”



アクセス出来ないのなら、それは只の噂に過ぎない。



だが“火の無い所に噂は起たない”



必ずベースとなった基があるからこそ、都市伝説として確かに存在する。



「だが憎悪の感情、その精神が臨界値を超えた時、初めてその道が開かれます」



そして狂座は確かに存在した。



琉月は其処に到るまでの経緯を説明している。



俄には信じ難いそのアクセス方法。



「貴方には分かるでしょう? この意味が、そして狂座という組織が持つ、その力の本当の意味を」



琉月の言葉の意味には、ある種の含みがあった。それは“知ってて敢えて”確認しているかの様に。



「今回のクライアントが、狂座へのアクセスを開く鍵となったのは、性的暴行を受けたのみではありません」



「…………」



「どういう事だ?」



ジュウベエは疑問を口にする。それがアクセスポイントとなる、最大の鍵としか思えなかったからだ。



「……最大のターニングポイントとなったのは、彼女の傍らにあった仔犬の死こそが、その臨界値を超えた事を管理部門より確認されています」



「あの仔犬がっ! 殺された……だと?」



ジュウベエはその事実に声を上げた。勿論その言葉は幸人以外に通じる事は無い。



ジュウベエもよく覚えていた。その仔犬の存在を。



「彼女の苦悩は如何程のものだったのでしょうね……」



表情こそ伺えないが、琉月は何処か遠い口調で紡ぎ出す。



まるでその気持ちが、手に取る様に分かっているかの様に。

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