第15話
「ん? いつもの奴と違うな……。また変わったのか?」
囁く様に呟くジュウベエのそれは、目の前の人物に見覚えが無い事を意味している。
「……新規か?」
それは幸人も同感だったらしく、警戒心を解かないかの様な口調で訊ねていた。
その顕れとして、その間には約二メートルもの空きがあった。お互いすぐに手を出せる距離には無い。
「この業界での御仕事は大変ハードなものですし、前任者は一身上の都合により解任と“なりました”」
解任したでは無く、なりましたと。
そう意味深な説明口調で呟きながら、机上のノートパソコンを開き、目まぐるしく操作している女性と思わしきその人物。
机から垣間見える組み込んだおみ足は、見事な曲線美を描くだけでなく、妖艶な淫靡さまで醸し出している。
ビジネススーツを着用し、パソコンに向かうその姿は一流のキャリアウーマンを連想させた。
だがその口調とは裏腹に、幸人達を認識しているのか皆目伺えない。
何故なら。
「なあ幸人……なんか胡散臭くねえか?」
その人物は操作していた手を止め、液晶画面を注視していたと思わしき顔を上げる。
「あぁ申し遅れました。私(わたくし)……今回より後任として仲介役を務めさせて頂きます――」
艶やかで直線的、腰まで届きそうな長い黒髪。
だがその妖艶かつ、蠱惑的な出で立ちには余りにもそぐわない――
「消去代行請負組織“狂座”仲介部門所属。コードネーム『琉月(ルヅキ)』と申します。以後お見知りおきを……」
琉月と名乗り出たその人物の表情を覆い隠す様な、無機質な笑みの白い仮面が印象的だった。
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