第10話

幸人はクローゼットを開け、そこに掛けてある一着のコートを手に取り、それをおもむろに羽織る。



足首まである長いコートだった。至る所まで漆黒に彩られたそれは、さながら黒衣の様であった。



「ジュウベエ……留守を頼む」



全身黒模様の幸人は、飼い猫にそう告げながら歩み、玄関のドアノブに手を掛ける。



「何言ってやがる……。お前を最後まで見届けるのも、オレの役目なんだよ」



“いつもそうしてんだろ?”とでも言わんばかりに、ジュウベエは幸人の左肩に飛び乗っていた。



「ふっ……そうだな」



幸人はジュウベエの言葉の意味に、不意に少しだけ微笑みの表情を見せた。



「何笑ってんだよ気持ちわりぃな……。オラ! やるんならさっさと終わらせようぜ。外は寒いからよ……」



人と猫の奇妙な対図。そして二人は外へ。



無人となった部屋に立て掛けられた、何の変哲もない丸い掛け時計は、丁度午後十時を指していた。

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