第4話

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穏やかな室内に、突如静寂が破られる。



「こっ……この子を助けてあげてっ!!」



その動揺に満ちた声と共に、一人の女性が舞い込んで来たからだ。



両手には白い仔犬が抱えられている。



左前脚には白い毛並みに映える程の、夥しい出血が見られた。



「お願い! 助けて!!」



半場泣き叫ぶ様な彼女の腕の中で、仔犬はぐったりともたれている。



「落ち着いて。大丈夫ですから……」



幸人は動揺を与えないかの様に、優しく穏やかに諭しながら、そっと女性から仔犬を受け取った。



「痛かったね……。もう大丈夫だからね」



その有無を言わせぬ安心感のある声と共に。



************



――1時間後。



診察室の白い小さな動物用ベッドの上には、左前脚にしっかり包帯が巻かれた、先程の白い仔犬が鎮座していた。



傷自体は深くなく、数針縫う事で事無きを得た。



「もう心配ありません。ただ少し衰弱しているので、充分な栄養と安静で、すぐに元気になりますよ」



「良かった……」



幸人の診断に、女性は安堵の吐息を洩らす。



幸人は女性から仔犬に目を向ける。



“この子の飼い犬だろうか?”



だが仔犬に首輪は無かった。しかも毛並みの薄汚れ方から、捨て犬である事を幸人は推測する。



元はスタンダード・プードルの一種だろう。

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