第3話
「ふぅ……」
白衣の男は無人となった室内を見回し、椅子に腰掛け一息吐く。
“如月動物病院”
都心の外れに構える、新規開拓したばかりのこの小さな病院。
此方を一人で切り盛りする獣医基、院長である如月 幸人(キサラギ ユキト)は、まだ齢25の新米獣医だが、既に評判の名医として忙しい日々を送っていた。
“何故新規の筈なのに、ここまで評判が良いのか?”
それは従来の平均より、半額近い破格ともいえる診察料金に加え、幸人の親身なまでに労るその人柄も大きい。
それは損得勘定等、最初から頭に入っていないかの振る舞いに。
「ジュウベエ?」
一人で切り盛りする幸人にとって、助手では無いが、病院のマスコット的存在に、彼はそっと呟いた。
反応したのか幸人に向かって、とことこと歩み寄って来る黒猫。
ジュウベエと呼ばれた黒猫は幸人の膝の上に飛び乗り、身体を丸める。
左目の傷が印象的な片盲眼の黒猫だが、それがかえって目を惹くらしく、このジュウベエと名付けられた黒猫に会いに、足を運ぶ客もいる程だ。
「まったく……」
ジュウベエは幸人に“さっさと撫でろ”ジェスチャーでせがみ、口ではそう呟きながらも、幸人はジュウベエの咽元を撫で続けた。
ジュウベエもゴロゴロと、咽を鳴らす事でそれに応えている。
それは一時の休息の空間であった。
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