妖具 妖怪の力を武器とする

前てんパ

第1話 妖怪研究所

 資料を散らかし、ビールの缶が転がっている机に向かい、唸っている女性


「むむむむ……こうなるといいかもしれないが……しかしそうなると負荷が強すぎる……」


 彼女はこの妖怪研究所の代表の塚井 奈美子つかい なみこである。ハカセと俺は呼んでいる。


「ハカセ、また唸ってますが大丈夫ですか?」


 俺、伏木 海ふしぎ かいは彼女の助手であり、妖怪研究の一員の一人だ。今は一人しか居ない。


「いや、この前君と出会った時のカラスの妖怪の活用方法が浮かばなくてね……」


 そう彼女は言う。


「とはいっても最近根詰めすぎですよ。ここ1週間ぐらい酔いつぶれながら唸ってばかりじゃないですか。気分転換に外行きませんか?」


 俺はそう提案してみるが……


「嫌だよぉ!外でたくなぁい!」


 と子供のように駄々を捏ねる。うーん弱ったなぁ。何というか普段が有能なだけに度々幼児退行してポンコツになるんだよなぁ


「うわぁ」


 俺はちょっと引いてしまった。


「ねええぇ引かないでよおおお!」


 まあとりあえずどういう感じになってるのか一応聞いておくか。


「ところでカラスの【妖力ようりょく】とかはどうなってるんですか?」


 【妖力ようりょく】、それは妖怪の持つ力、魔法なんかで言う魔力の妖怪版である。


 そもそも現代人は妖怪と言われても都市伝説だとか迷信だとかいう感じで相手にはしないだろう。


 妖怪はこの世に起こる科学では説明できない不可思議な現象を引き起こしたりする力を持ってる化け物みたいなものだ。


「あぁ、問題なく解析が終わって今妖具ようぐのデザイン案を練っているところだ。」


 その妖怪の力をこのハカセは謎科学を応用して妖怪の力を【妖具ようぐ】という名の武器として扱えるようにできるのだ。


 俺は主に妖怪を倒して妖怪の持ち物、肉片等の素材を集めるために妖怪と戦っている。


 ハカセがいうには妖怪の力……すなわち【妖力ようりょく】とは電気のようなものらしい。



「お疲れ様です。妖具の完成楽しみにしていますね。もちろん、体調には気を付けてくださいね!」


 ハカセの目的は妖怪のことを全て調べ上げて科学で完全に再現することが目的なんだそうだ。そのために武器を作り、妖怪を倒し、更に解析することをしている。


「あぁ……あ、そうだ。君の意見を聞かせてくれないか?」


「と言いますと?」


 突発的に意見を聞かれる。


「あーそうだな。わかりやすく言うならどんな妖具が欲しい?」


 !?


「ま、まさかそれって!!」


「あぁ、そのまさかさ。君専用の好きな武器を作って上げようって話だ。」


 前に素材が足らないからということでお預けになっていた固有妖具、それを作ってもらえるのか!


 固有妖具、特定の人物しか使えない代わりに強力な力を持った妖具。


 ハカセ自身は腕輪型の固有妖具を使い、昔俺を助けてくれた。


 あの時はハカセはカッコ良かったなぁ


「おい、なんか失礼なこと考えてないか?」


「いいえ?何も?」


 この人たまに勘が鋭いからなぁ普段は有能なポンコツだけど


「絶対考えてるだろ!ポンコツだとか!」


「自覚あったんですか?」


「よーし!わかった!固有妖具の作成はなかったことに」


「あー!あー!すいません。すいません。後でハカセの好きなモンブラン買ってきますから!」


 ご機嫌を取ろうとすると笑顔で言った。


「よし、許そう!」


 ちょろい。




 ―――――――――――――――――――――――――


 これは2か月前、ハカセと出会ったときの話。



 俺、伏木 海ふしぎ かいは大学の帰り道を歩いていた。1か月前に引っ越してきたこの場所、ナナシ町の住宅街だ。


 1か月も経つと流石に毎日歩く道を覚え、いつも通りに感じるようになった。


「ガァ!!」


 巨大なカラスが曲がり角から現れるまでは


「んぇ?」


 間抜けな声を出して尻持ちをついた。


 その巨大カラスは自身の2倍ほどもあり、漆黒の翼を携えこちらをじっと見つめてきた。


 くちばしをゆっくりと開き、こちらに顔を近づけ、喰らいつこうとしてきた。


「(逃げなきゃ!逃げなきゃ!!)」


 そう思うが地面に腰をつけ、足は震え立ち上がれず、くちばしが海の頭にかじりつくのは時間の問題だった。


「ッ!」


 恐怖でそのカラスを見ないために目を閉じた。


「おっとぉ?いけないなぁ。カラスくん」


 そんな声が聞こえた。


 目を恐る恐る開けると目の前には白衣を着た女性がいた。


 長髪の髪を後ろに流し、白衣にあるポケットに右手を深く突っ込み俺の前にたたずんでいた。


「そんな悪い子にはお仕置きだよ」


 その女性は灰色をした腕輪のついた左手を前に突き出し、指パッチンをした。


 その途端地面が黒い沼のようになり、その黒い沼から一つ、腕ができた。


 黒い腕だった。その見た目はおどろおどろしく、恐怖を抱くほどだった。


 先ほど対峙していたカラスと同じかそれ以上に。


 その腕はカラスに向かって伸び、ぐるぐる巻きにしていった。


 カラスも身体を動かそうと抵抗しているのだろうが、巻取られた身体は少しばかリ動く程度でそれ以上は効果がないかのようにできないようだった。


「元気だねー?じゃじゃ馬、いや、カラスだからじゃじゃ鳥か?」


 そんなことをつぶやきながら彼女はもう一度指を鳴らした。


 パチン、そんな乾いた音が鳴り、カラスの下に現れた黒い沼に引きずり込まれていった。


 白衣の女性はこちらに振り返りこういった。


「大丈夫かい?」





 あの時のハカセはそれはとても綺麗な笑顔だった。







 ――――――――――


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