第9話 探偵団、結成?

午後の3時。

桜花堂はいつもより賑わっていた。

今日は三枝子も作業場に入っていて、バックヤードも賑やかである。


そんななか、しおり、美奈、善太も店内でまったりとしていた。

今日は畳部屋でなく、桜が良く見えるテラス席だった。


美奈は桜花堂の定番、桜餅を頬張り、善太はタブレットを見ながらお茶を飲む。

しおりは席から立って桜を眺めている。


すると、店の戸が開き、3人は同時に戸に視線を向ける。


「あ、あの……」


「「「葵ちゃん」」」


お盆を持った葵と舞が立っていた。


善太はタブレットを閉じる。


「あ、あのね、おばあちゃんにおねがいして、いっしょにおはぎをつくったの。だから、あげる」


「いいん!?!?ありがとうー!!」


真っ先に受け取ったのは美奈だった。

そんな様子を善太はあきれながら見ていた。

しかし、美奈が持つお盆を見て、少しだけ目を見開く。


3つの小さなおはぎが皿の上にちょこんと乗っけられていた。

しおり、美奈、善太の3人はそのおはぎをしばらくの間見ていた。


「3人とも、本当にありがとうね。おかげで三枝子さん、すごく元気になったの。今なんか夫と騒いでいるんだもの」


そう言われ、3人は耳を澄ますと、「こら、隆!!」と、三枝子の怒鳴り声が聞こえ、今度は「はいいいい!!」と、隆の怯え声が聞こえ、苦笑いになる。


「ありがとう。お姉ちゃんたち」


葵は嬉しそうに言う。


「それじゃ、ゆっくりしてね。小さな探偵団さん」


そう言って舞と葵はテラス席から出て、店内に入った。


3人はしばらく店の戸をきょとんと眺めていたが、同時に顔を見合わせる。


「今、探偵団って言うてたよな!?」


先に声を上げたのは美奈。


「うん」


「それってうちらのことよな!?」


「他に誰がいるんだ」


善太が呆れながらツッコむ。


「よーし!今日からうちらは探偵団や!」


「はぁ?」


「名付けて……幼馴染み探偵団や!!」


しーん、と静まるテラス席。


「なんか反応してや!!」


しおりと善太は不思議そうに顔を見合わせる。

そして、憐れな視線を美奈に向ける。


「何でそんな目で見るんや!!」


「いや、別に……」


美奈は不満そうだったが、キラキラした目でしおりを見る。


「うちらにはしおりがおるし、絶対大丈夫やし、無敵や!!」


「だから何でも藍原さんに頼るなって」


「何でや!?しおりやで!?」


言い争う2人をしおりは無表情で眺め、桜の木に視線を向ける。

枝は風で揺れ、花びらが無常に舞い降りていく。

よく見ると、ところどころ緑の葉がついていて、葉桜の時期が近づいていることにしおりは気が付く。


「本当、なんだね。歴代店長がにいるのは」


しおりの問いに答えるように桜の枝が風で揺れた。


「目には見えなくても、すぐ近くにいる。孤独ひとりぼっちじゃない。そうだと良い、な」


ぽつりとつぶやいたしおりはまだ争っている美奈と善太を横目で見た。

そして、ようやく小さく笑う。


すると、善太のタブレットの画面がつき、通知が来ていた。

善太はそれに気が付いていない。


しおりは気になったのか画面を見る。

そこには、



『城川みどりが丘緑地の誘拐事件・女児発見か』



とあった。

記事の題名を見て、しおりの目が大きく見開き、揺れていた。


「しおり、どしたん?」


美奈がしおりの様子に気が付く。


「……ううん。それより、」


しおりの声色が急に変わり、善太が顔を上げる。

瞳の色まで変わり、完全に探偵のしおりになっていた。


「な、何、しおり。また事件!?」


「違う。探偵団、悪くないって思っただけ」


しおりの意外な発言に美奈と善太は固まる。


「……何よ」


しおりが不思議そうに固まる2人を睨む。


しばらくその場に硬直していた美奈は急にしおりに飛びつく。


「わっ、な、何!!」


いつものしおりに戻り、急にくっついてきた美奈に驚く。


「良かった。しおりならそう言うてくれるって思った」


美奈は嬉しそうにニカッと笑うと、しおりも小さく笑った。


そんな微笑ましい様子を善太は全く見ずにタブレットを見ていた。

先ほどしおりが見ていた記事の内容が気になった様である。

最初は厳しい目で見ていたが、最後には安心したような表情でタブレットを閉じた。


「ほら、善太。何しとんや」


2つの視線を感じて、善太は女子2人に視線を走らせる。


「……で?」


「で?やないわ!しおりが探偵団入りたい言うて、あとは善太だけや」


えー……と、ドン引きの善太。

しかし、しおりの方を見ると、純粋は瞳でこちらを見ており、うっと善太は迷い始める。


「角野くんがいてくれたら心強いんだけどな……」


と、しおりはわざとなのか本気なのか、か弱い声で言う。

善太は顔を真っ赤にし、あたふたする。

美奈に関しては笑いをこらえている。


「ダメ、かな……?」


元々大きいしおりの瞳。

無意識に上目遣いになっていることに気が付いていないようだ。


「わかった!!わかったから!!」


顔を真っ赤にしながら善太は大きくうなずいた。

ついに笑い転げた美奈に対し、しおりはぱぁと目を輝かせた。

これは間違いなく純粋に喜んでいるだろう。


善太は深くため息をついた。

しかし、たまになら悪くないか、と心のどこかで思っていた。



「幼馴染み探偵団、結成やー!!!!」



美奈はしおりと善太の肩を組んで、思い切り叫んだ。


「よろしくな。しおり、善太」


美奈が明るく言うと、しおりは小さく笑い、善太はしぶしぶ頷いた。



こうして、城川に小さな3人組の探偵団が誕生したのだった。

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