第5話 折られた枝
次の日の朝。
いつもと変わらず美奈はベッドに寝転がって「少年探偵ハル」の漫画を読んでいた。
すると、枕元に置いていたスマホに通知が届き、美奈は何となくスマホの画面を見た。
通知バナーにあったのはニュースアプリのものだった。
その題名を見た瞬間、美奈の瞳が大きく揺れた。
「嘘、やろ……?」
美奈は涙目になりながらベッドから跳ね起き、部屋から大急ぎで出た。
「ちょ、美奈?どうしたん?」
美奈の母親が不思議そうに聞く。
「で、出かけてくる!!」
美奈は走りながらスマホを操作する。
そして、電話をするために耳に当てた。
「みっ、みどりが丘に集合や!早く!!」
美奈の目から涙が一粒零れた。
電話の相手はもちろん、あの2人。
彼女が城川みどりが丘に着くと、いつもは子供の声で溢れているのに今日は不穏な空気が流れていた。
それもそのはず。
――美奈が見たニュースの通知は『城川みどりが丘のシンボル・枝切断か』とあったのだから。
少しして、しおり、善太とも合流した。
「桜花堂」の前には人が殺到している。
地元の人、マスコミ、警察、それから公園関係の人。
店の看板には「臨時休業」の看板がかかっている。
「三枝子おばあちゃん、大事にはしたくない言うてたのに」
美奈がぽつりとつぶやく。
「詳しいことは聞いてみないとわからない。けど、この感じじゃ……」
善太の目が厳しい色になり、桜花堂に集まる人を見る。
「……仕方ないわね」
しおりの表情が一瞬にして変わり、人ごみに近づく。
「し、しおり!?」
2人もしおりの後についていく。
「迷惑になるので通してください」
しおりはそこまで声を張り上げていないのに、急に静かになった。
最初は怪しい視線で見ていた者もいたが、彼女の正体がわかるとすぐに道が開き、3人は何事もなく通っていく。
「何あの子たち」
「知らないのか?あの探偵組じゃないか」
「真ん中の子ってまさか……」
「藍原様じゃない!?」
しおりが手に持っているのは「特別捜査許可証」。
これを見て、騒いでいた人はぎょっとしたのだ。
……美奈に関してはドン引きしていた。
すると、桜花堂の戸が乱暴に開いた。
「何度も言わせないでください!今日は休業です!!早く帰って下さ、」
出てきたのはガタイのいい男性で、イライラしながら怒鳴ったが、目の前にいた3人組を見て目をぱちくり。
しおりは急に怒鳴られたにも関わらず、冷静に「特別捜査許可証」を出した。
「初めまして、藍原です。依頼を受けたので捜査に来ました」
男性はぽかーんとしおりを眺めていた。
……しおりの後ろにいた2人は半分呆れていた。
実は、「藍原探偵事務所」の公式サイトに新たな依頼が来ていたのだ。
「発見したのは通りすがりの人で時間は午前5時ごろ。そして、通報」
『シンボルの桜の枝が何者かによって切られた、その犯人を捕まえて欲しい』
との依頼だった。
切られた枝は細くも太くもない枝だったそう。
「脅迫に続き、切った犯人もずいぶん早起きやな」
美奈が桜を見上げながら言う。
「人目がない時間の方が好都合だからな」
善太が、切られた枝をじーっと見る。
枝分かれしたところにはまだつぼみのものもあれば、咲きかけているものもある。
善太の横に美奈がやってくる。
「切られても良い枝、ではないねんな」
「太さ的にそうね。それに、
しおりが切り口を見ながら言う。
「じゃ、じゃあ、この木は……」
「微妙、といったところね」
「そんな……」
落ち込む美奈を複雑な表情で見るしおり。
「何で切られたとかは切り口で分かるの?」
善太が厳しい目で聞く。
「素手ではないのは確定だと思う。ただ、切った人は道具に慣れてないみたい」
「どういうこと?」
「ほら、切り口が右に曲がっているでしょ。チェーンソーか何かで切ったのだろうけれど、かなり曲がっているから道具に関しては素人じゃないかな。労働以外・個人で使うなら免許は必要ないし」
美奈と善太は桜の木の切り口と、切られた枝を見る。
たしかに、かなり右に曲がっている。
「チェーンソーなら刃に問題があったりするけれど、あんなに曲がって切るのは相当下手なのかわざとなのか……でも、脅迫状と同様、地面は根で不安定、地面から約170センチ以上はあるから脅迫状と同じ犯人で間違いなさそう」
「どうやって、犯人を捕まえるん?」
「そう、だね……防犯カメラを取り付けるか、朝の5時あたりに待機してそのままやる、くらいしか方法は思いつかない」
うーんと3人で考えるが、何も思いつかない。
しおりも複雑な表情で桜を見たり、考え込んだり。
「そういえばさ」
沈黙の中、美奈が口を開いた。
「何でそもそもこの木を切りたいん?」
突然の質問にしおりと善太はきょとんとする。
美奈は桜を見上げる。
「うちは、小さい時しかここに住んでないし、戻ったばかりやけど、うち含めて城川の人たちからしたらこの木は城川のシンボルや。大切な桜の木や。……それを切るって、相当この木に何かしらの恨みがあるってことなんかな」
風が吹き、桜の花びらが散る。
「うち、いろんな話を聞いてん。ずっと昔からこの木は大切にされてきたんやって。桜花堂ができる前からずっと。戦争であたりは焼き野原になったけど、この木だけは無傷で『奇跡の桜』」って呼ばれたり、この木には神様がおって、大切にしてくれたお礼でたくさんの人の願いを叶えて『幸せの桜の木』なんて呼ばれたり……」
風がやみ、あたりは静かになる。
「そんな木が何で切られなあかんねんって話!うちはそんなん絶対許さんから!何が何でも、犯人は捕まえる!絶対!!」
半泣きで美奈は2人に向かって言う。
すると、しおりが小さく笑い、美奈の前に立つ。
「そんなの、決まっているじゃない。ここで立ち止まるわけにはいかないでしょ」
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