第6話 会議!!
次の日。
3人組は桜花堂に来ていた。
今日から営業再開したらしい。
畳の席で和菓子を堪能……というわけではなかった。
「昨日調べてみたんだ」
善太がタブレットを開き、何かの図が出てくる。
画面をしおりと美奈がのぞき込む。
「昨日小山が『桜の木に対して何か恨みがあるんか』みたいなこと言ってたから、あの木付近に起きた事故とか事件を調べたんだ」
「おー!」
美奈が期待の目で見る。
「ただ何もなかった」
「何やねん!!」
美奈が机の上にずっこける。
「ただ公園付近の事件・事故は何件かある。8年くらい前に4歳の女の子が誘拐されて未だに行方不明とか」
「だいぶ物騒な事件やな!?」
「それから横断歩道に子供が飛び出して車にひかれた、とか」
「今度は事故……」
善太は息をついてタブレットの電源を消す。
「結論、あの木に関する事故・事件はゼロ。だから、恨みがあって切断するというのはちょっと考えにくいと思う」
「じゃあ、誰が……」
3人はまた考え込む。
「あ、あの……」
突然聞こえた声に3人はハッとして、声の方を見る。
畳の席にはふすまがついており、人目を気にせずに過ごすことができる。
そのふすまが少し開いていて、誰かが3人を見ていた。
「えっと、どうぞ……?」
美奈が不思議そうにふすまを開けると、そこには小さな女の子がいた。
幼稚園生くらいの女の子で、髪をハーフツインにしている。
「だ、誰……?」
美奈は2人の方を見る。
「「葵ちゃん……!」」
しおりと善太は知っているらしい。
美奈は両ひざをついて、葵の身長に合わせる。
「あ、葵ちゃん?どしたん?」
「そ、その……はんにんは、みつかるの……?」
美奈は「え」とその場に固まり、「何でこんな小さい子が……!?」と、助けを求める。
「ミィナ。葵ちゃんが依頼主なの」
しおりが説明をする。
「えっ!?この子が!?」
「そう。三枝子さんのお孫さん」
「マジ!?」
「あのね、葵ちゃん。まだ見つからないからもう少しの間待っててくれる?必ず私たちが犯人を探すから」
しおりが無表情で葵に言う。
「う、うん……」
「こら、葵。勝手に入ったらダメだろう」
また襖が開き、今度はがたいのいい男性が入ってきた。
茶色の和風ユニフォームを着ている。
「パパ!で、でも……」
「ぱ、パパ!?」
また美奈が驚く。
葵の父は目を細くして3人をチラッと見る。
かなり鋭い視線だ。
「邪魔してすまんな」
と言い、葵を連れ、ふすまを閉めて出て行った。
「び、ビビった……あの人、目つき怖すぎ……」
美奈がへなへなと寝転がる。
「……あまり良く思われていないみたいだね」
善太がお茶を一口飲んで言う。
「—―こうなったらこっちから動くしかないわね」
しおりの声色が変わり、2人は肩を震わせる。
美奈はサッと姿勢よく座り、善太は再びタブレットを開く。
「条件が少ない中で犯人が誰なのかを絞るのは難しい。なら、私たちが監視して犯人が来るのを待つしかない。三枝子さんたちも、ずっと私たちがここにいるのも気がかりだし、さすがに迷惑だから」
しおりの表情はどこか悔しそうだった。
美奈が少し考えて、おそるおそる手を上げる。
「ってことは……うちらが朝の5時に桜の木の近くにおって、監視して、犯人が出てきたら突撃!ってこと?」
「そういうこと」
しおりは小さく笑う。
「知り合いに頼んで、防犯カメラを取り付けてもらうつもり。もちろん、三枝子さんたちには許可を取って」
「エッ」と、2人はその場に固まるが、気まずそうにうなずく。
訪販カメラをつけてくれる知り合いとどうやってしおりは繋がったのだろうか。
善太はタブレットで地図を開き、桜の木があるところに赤く点をつける。
「カメラを取り付けたとして、どこで様子を見るんだ?」
「征太さんの車は?」
「さすがにバレないか?黒とはいえ、リムジンだぞ」
「みどりが丘って広いからどこか隠れそうなところはないん?」
善太は地図を動かす。
「……あ、ここの雑木林」
みどりが丘の北。
そこには木が集まっており、夜にはほぼ真っ暗になる。
「いいやん?ここの道路に止めて、防犯カメラの映像を見る。それで、犯人が出てきたら急いで犯行現場に向かう。どうやしおり!」
「うん。ただ、朝の5時より前にはそこにいないとだけど」
善太と美奈は同時にうなずく。
「任せてや!」
「なら、明日から朝の4時半に私の家の前でね。車はお願いしておくから」
<Side しおり>
「三枝子さんに言ってくるね」
ふすまを閉めて、三枝子さんを探す。
いつもカウンター席にいるからそこに行ってみようかな。
通路を出ると、賑やかな声が聞こえた。
高校生くらいの人、カップル、家族連れ。
席はほぼ満員で、お客さんは和菓子を食べて、笑いあっていた。
見ていてものすごくあたたかいこの光景。
けど、どこか寂しく見えるのは……何で……?
すると、舞さんがバックヤードから出てきて、私を見る。
やはり着物を身にまとっている。
「あ、しおりちゃん。どうかしたの?」
「三枝子さんはいっらしゃいますか?」
今確認したけれど、カウンターにはいなかった。
「あーテラス席かな。あの人、同級生の方とよくいるのよ」
「そうですか。ありがとうございます」
テラス席はたしか店の東側。
お店を出ると、シンボルの桜の木が聳え立っていた。
風で枝は揺れ、花びらが散り、どこか儚い。
そんな桜が見えるように、桜の反対側にテラス席がある。
けれど、そこにも三枝子さんはいない。
「一体、どこに……?」
店に戻り、お店を見渡す。
すると、レジの後ろの壁に視線が行った。
「賞……?」
「第○○回和菓子世界大会準優勝 如月文隆」、「第○回和菓子世界大会団体3位 如月文隆 如月三枝子」……たくさんの表彰状が壁に飾られている。
城川の名物にもなるくらい、桜花堂の和菓子は美味しいけれど、こんなに賞を取っていたのは初めて知った。
文隆さんって、桜花堂の店長さんだ。
小さい時、和菓子を作っているところを目の前で見たことがある。
……あれ、いや、待って。
この前三枝子さんに会った時、名札に「店長」と書いてあった。
それに、ここに戻ってきてから文隆さんとはまだ会っていない。
まさか、文隆さんは……
ハッとして、店を見渡す。
舞さんがにこやかにお客さんにお茶を渡していて、その後ろに葵ちゃんが和菓子を持っている。
バックヤードから葵ちゃんのお父さんがチラッと見える。
そして、いつの間にいた三枝子さん。
腰をさすりながらカウンター席にゆっくりと座り、首にぶら下げていた老眼鏡をかけて、賑わう店内を見つめる。
その瞳はなぜか、寂しく、悲しそうで……
三枝子さんに声をかけたかったけれど、私は一歩足を踏み出せなかった。
作戦は……変更よ。
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