第4話 看板メニュー、桜餅!! 〈Side 美奈〉


「懐かしいなあ」


一番奥の畳席。

木造だからすごく歴史を感じる。

畳の良い匂いもする。


「はい、お待たせしました」


舞さんがあたたかいお茶と桜餅を持ってきてくれた。


「ありがとうございます!」

「「ありがとうございます」」


机に置かれた桜餅を見て、あってなる。

クレープみたいに薄い生地が塩漬けの葉に巻かれていて、中にこしあん。

こっちのは関東風で、長明寺って言うねん。


京都におった時は関西風の道明寺。

生地がつぶつぶもちもちしてる。

道明寺粉っていう粉を使ってるからあーいう食感になる。


どっちも美味しいねん、結論は。


お茶を一口飲む。

あ、これは煎茶や。

さっぱりしてる。


そして、桜餅を食べる。

桜の香りとあんこの甘さと葉の塩辛さ。

はあ、もう最高や……


「本当に美味しそうに食べるねえ、あんたらは」


三枝子おばあちゃんが笑いながら言う。

しおりも善太も表情がやわらかくなってる。


もう、当たり前じゃないですか!!

ここの桜餅は本当に美味しいんですから!!


口に入れた瞬間、ふぁ……ってなる、ほんまに。

京都に和菓子屋はいっぱいあるけど、やっぱここのが一番。


お茶をまた飲んで、ほわあと春に満たされほっこりする。

桜餅を食べたら春に包まれる感じになるの分かる?

ほんまに幸せや……


「おい、目的忘れてないよな」


横から善太に話しかけられはっと我に返る。

しおりも既に完食していて、うちを見ていた。

あ、そうや、桜餅食べて満足してた。


ここであの話をするのは抵抗あるけど。


「……それで」


うちらから言い出す前に三枝子お婆ちゃんから口を開いた。

表情が険しくなっていた。


「あの件のことを聞きに来たんじゃろ」


うちらは思わずかたまった。

何でって、三枝子お婆ちゃんの顔が怖いから。

うう、一気に話しづらくなった。


「切られたくないのであれば、私から警察に頼んで警固することは可能です」


探偵モードが少しだけ入った様子のしおりが静かに言った。

いったい警察とどんな関係持ってるんやろ、しおりは。


「警固はいい」


「な、何で!?そしたら切られるやん!!」


三枝子お婆ちゃんの表情は少し暗くなる。


おおごとにはしたくないんじゃよ。公園に警察がうろうろしていたら子供たちも不安になるじゃろ?」


「それはそうやけど……」


「……既に街中の噂になっていますし、地元のニュースにも取り上げられていましたよ。脅迫状を出した犯人もそれを見て早く切断してしまう恐れもあると思います」


善太が低い声で言った。

けど、三枝子お婆ちゃんは何も言わない。


「わしも、あの木は切られたくないと思っとる。わしにとってあれは大事な、思い出木じゃからのぉ」


「じゃあ、何で……」


どよーんとした空気が流れ、沈黙になる。


あんな綺麗な桜の木が切られたらどうなるんやろ。

公園の中でも一番大きくて、綺麗で……


「脅迫状を見せてほしいです」


ずっと黙っていたしおりが口を開く。

三枝子お婆ちゃんは少し考えたけど、「いいじゃろう」と言って畳の部屋から出て行ってしまった。


「警固をしたくないってことは、警察に言ったわけではないんかな」


「どうだろう……近くの警察は知ってるかもしれないな。マスコミもだいぶ反応しているみたいだし」


「最初に聞くべきやったな」


机に突っ伏すと、三枝子お婆ちゃんが戻ってきた。

持っていた一枚の紙をしおりに渡した。


上の部分に縦長の穴が空いたり、ところどころ折れてたり、しわになっていたり。

「近頃、この木を切る」と、大きい文字。


「これを見つけたのは何時ごろですか?」


完全に探偵モードのしおり。

声がまた変わってる。


「朝の5時くらいじゃったな」


早起き!!!!

うちまだその時間寝てるわ。


「木のどの部分にこの脅迫状があったのですか?」


「見に行けばいい」


しおりは立ち上がり、うちらに視線を送った。

そうやな、うちらも行かなあかんな。

畳の部屋を出て、通路を通る。


店の中は相変わらず賑わってる。

子供連れに、高校生、おじいさんやおばあさん。


舞さんが少し慌て気味に和菓子とお茶を用意したり、注文を聞いている。

さっきよりお客さんが増えてるもん。

そりゃ忙しくなる、よな。

もちろん、他に店員さんはいるけどね。


店を出て、すぐ横の桜の木を見る。

たぶん、この木にあの紙をナイフかなんかで刺したんやろうな。


「あれ、かな。あそこだけ穴が空いてる」


善太が指さす。


「ほんまや」


ちょっと高めのところ。

縦長に穴が空いてる。

何でやったんやろ。


「桜って硬いとは聞くけど、あの高さに刃物で刺すって難しくないか?穴もだいぶ深いし」


「たしかに。あれって高さなんぼなん?」


「170センチ以上はあるね」


170センチ。

木のすぐ近くに立って、身長170センチ以上はある人。

ってことは……


「「男性の可能性が高い」」


しおりと善太が同時に言う。

男性、かあ。

絞られたような全くそうじゃないような。


「うーん、脚立を使ったのは無理なん?」


「自分の家から脚立持ってきたってこと?」


横目でしおりに見られる。


「……ないか。トラック使ったとしても公園中なかにトラック入られへんし」


家から持っていたら重くて運ぶだけでしんどいしな。


「うん。それに、根があるから置こうとしても難しい」


善太が太い根を指さす。

たしかに、地面から根が出てる。

置いたら不安定で倒れてケガどころじゃなくなる。


しおりも善太も考え込んでる。

これは、かなりの難問、では……!?!?

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