第3話 城川みどりヶ丘緑地 〈Side 美奈〉
「……結局、三人で行くのか……」
善太のどんよりとした声。
もう、せっかく探偵団で動くねんからそんな態度にならんといて欲しいなぁ。
「じゃあ帰ったら?」
「お前が藍原さんについていくと嫌な予感しかしない」
その瞬間、イライラしてきた。
「な、何やそれ!人を疫病みたいに!」
うちは善太を睨む。
善太はちらっと横目で見ただけで余裕そうな感じ。
あーもうムカつく!!
いつの間にこんな生意気になったんや!?
小さい時はもっと可愛かったのに!!
可愛かったの、マジの話。
アルバム見たらわあ、可愛い!ってなる。
「今、何でこんなに生意気になったんやとか思ってるだろ」
善太が呆れながら言う。
「はっ!?!?何で分かったんや!!」
心読むとか怖い。
気持ち悪い。
関西弁まで真似してくる。
「顔を見たらわかる」
「え、キモ……」
「お前は言ってることが顔に出てるんだよ。言いたいことはちゃんと言葉で言え」
うっ……正論かもしれない。
口論だけはいつも負ける。
すると、前を歩いていたしおりが振り向き、こちらを見る。
「仲いいよね、2人とも」
しおりの静かな一言。
「どこがやねん!!」
「どこがだよ!!」
な、なぜか善太と揃った!?
「ほら、そういうところ」
しおりはくすりと笑う。
見た瞬間恐怖感が襲う。
そ、そそそそその笑顔が怖いです……!!
口だけ笑ってて怖い。
目が……笑ってない。
ひいっと身を縮める。
やたら視線を感じると思ったら善太が呆れ顔でこちらを見ていた。
「な、なんやっ」
「別に」
「それやったらこっち見んなや」
「はいはい。見る理由なんかないし」
「この……!!」
「そろそろ着くけど」
前から聞こえたしおりの低い声。
ハッとして周りを見ると、広い公園が広がっていた。
遊具はないけど、芝生が広がってて、周りに木が生えている。
小さい子が遊んでる。
別の場所では小学校低学年の子が走り回ってる。
……公園の真ん中に、一個だけ特に大きい木、桜の木が聳え立っている。
あれが、城川のシンボル。
薄いピンクの花が風に揺れている。
小さい時はすごくおおきいって思った。
けど……近づくと、今も大きくて、綺麗。
前におつかいで来た時も思った。
しおりと善太もこの木に見とれている。
……こんな綺麗な桜が切られるなんて、絶対嫌や。
「そろそろ中に入ろっか」
「「うん」」
この桜のすぐ前に和菓子屋・桜花堂がある。
桜を見ながら和菓子を食べられるという、和菓子好きにはたまらないお店。
たしかめっちゃ歴史が長い老舗って昔聞いたことあるし、ここの店と、看板メニューの桜餅がテレビに取り上げられたこともある。
花見にあの桜餅食べたら最高なんよぉ……
中に入ると、普通のテーブル席、奥に畳の席があり、平日にしては少し混んでる。
春休みだからってのもあるか。
「いらっしゃいませ」
レジの奥から着物を着た店員さんが出てきた。
あ、店長の奥さんだ。
舞さんって言うんよ。
私たちを見ると、目を少し見開いて、嬉しそうに笑った。
「わあ、三人とも大きくなったね!美奈ちゃんは2日ぶりね!」
「はい!一昨日ぶり?ですね」
昔と変わらず綺麗な人だ。
おつかいに行ったとき、うちが美奈ってわからんかったらしくてめっちゃびっくりされてたなぁ。
「しおりちゃんもさらに可愛くなってすっかり城川ジェンヌじゃない~善太君もカッコよくなっちゃって~」
「「え、えっと……」」
あはは、2人とも人見知りが発動しちゃってる。
……てか、城川ジェンヌっていう言葉あんの!?
パリジェンヌは分かる。
タカラジェンヌ(※宝塚歌劇団の俳優さんたち)も分かる、京都おった時に知ったから。
うちが城川におらんかった間に新しい言葉生まれてる。
たしかにしおりは超可愛いし、美人よ?
そうやな、そう考えたらしおりは城川ジェンヌやわ。
舞さんも綺麗やし、城川ジェンヌなのでは……!!
「舞さんも城川ジェンヌやないですか!」
「えー、嬉しいこと言ってくれるじゃない~」
「……なんじゃ、こんな時間に騒がしい」
店の奥から出てきたのはお婆さんだった。
この人は三枝子お婆ちゃん。
桜花堂の店長さんのお母さんなんだ。
前に行ったときは散歩に行かれてて会えなかった。
「この子達、あの三人組ですよ三枝子さん」
「……三人組?」
お婆さんは首からかけていた老眼鏡をかけると、くわっと目が大きく開いた。
「まあ、あんたら大きくなったね~!」
そう言って、しおりの手を握る。
わあ、お婆ちゃんニコニコやし、嬉しそう……!
昔からお婆ちゃんはうちらを本当の孫のように可愛がってくれたんだよなぁ。
しおりはびっくりしてるけど、そこからだんだん表情がほぐれて……少し笑った。
しおりが、笑ってる。
善太もその変化にびっくりしてる。
「しおりも美奈も美人じゃし、善太も迷うじゃろ」
「……な、何がですか!?」
善太が動揺する。
「善太もええ男になったのう……」
と言って、うちとしおりを見るお婆ちゃんは何だか楽しそう。
善太は動揺してるのか、反応に困ってるのか珍しく表情豊か。
「今日は嬉しい日じゃ。舞さん、桜餅とお茶の用意を頼む。一番奥の畳の席にお願いじゃ」
「はい。ただいま」
舞さんは急いで、でも嬉しそうに店の奥へ行った。
お婆ちゃんは、
「ほれ、こっちに来なさい」
と、優しい声でうちらに言った。
「「「はい!」」」
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