第2話 名付けて……探偵団?

「……それで、何で呼び出したの」



お昼ごろ。

壁にはアニメやら漫画のポスター、棚にはアクリルスタンド、本棚には漫画やCD。

明らかにアニメヲタクだろう、美奈の部屋にしおり、善太は呼び出された。


しおりはこの部屋については何とも思っていないようだが、善太は完全に呆れてドン引きしていた。


「まず、この記事読んで見て」


美奈は自分のスマホを2人に見せる。

相変わらずしおりの表情は変わらなかったが、善太の瞳が少し揺れた。

その画面には、



『城川のシンボル桜、切断脅迫』



と、大きく書かれたニュース記事だった。


「これ、今日の朝に通知着たんよ。脅迫の内容は公表されてないけど、切断するみたいなことが書かれてたらしい」


美奈の声がいつもより低い。


「……うん。それ、僕も見たし、昨日近所の人が噂してた」


タブレットを開きながら善太が静かに言う。

瞳は厳しい色をしている。


「き、昨日!?」


「うん。で、この記事が何?」


「ここの桜って、うちらからしたらめっちゃ大事やん? 城川のシンボルやで?」


城川、という言葉にしおりが反応する。


城川市の市木は桜の木で、全国有数の桜の名所の1つにも選ばれており、昔から城川市の桜の木は愛され続けている。

特に1番綺麗と言われているものは、城川のシンボルの木とも呼ばれており、城川市民にとって大切なものなのだ。

そんな木が切断されるという、ニュースが昨日から話題になっていた。


「どーゆう意図なんか知らんけど、切るとか絶対許さん」


美奈の瞳がわずかに揺れていた。

そんな美奈をしおりはまっすぐな目で見ている。


「……だから、わたしたちで止めるってこと?」


ようやくしおりが口を開いた。

善太の瞳が大きく見開く。



「そう。名付けて……探偵団や!」



ぱっと立ち上がり、誇らしげに宣言した。



「……」

「……」


沈黙が流れる。

しおりも善太も、「は、はあ?」みたいな表情。


「な、何やその反応は」


半眼になりながら美奈がツッコむ。


「探偵団って……アニメみたいなこと言うなよ」


善太があきれたようにツッコむ。

しおりの目が座り始める。


「アニメやないもん! 前、ウェイア行ったとき、うちらで犯人逮捕できたやん!」


座っていたしおりの目が元に戻る。


この前、しおりの帰国祝いで城川のショッピングモール、ウェイアップ(通称ウェイア)に行った際、SNSで話題のアイスクリーム屋、「フローズン・ナイト」で人が倒れるという事件が起きた。


「でも、それほとんど藍原さんが解決したでしょ」


しおりの家系は旧華族かつ、代々探偵の家柄。

その力を発揮し、見事犯人を見破ったのだ。



「—―わたしだけの力じゃなかったけど?」



一瞬だけしおりが探偵の顔になり、静かに言った。

さっきとは違う、大人びた声。


「よな!? うちら、力になれたよな!?」


顔を輝かせる美奈を見て、しおりは探偵の顔で少し微笑む。

探偵の顔になったしおりは声色、表情、口調、性格まで何もかも変わってしまう。

その様子は前回の話を読めばわかるが、全く小学生には見えず、大人まで圧倒される。

それを見て美奈はさらに嬉しそうな顔になる。


「力になる、か……」


善太がぽつりとつぶやく。

長い前髪で目が隠れ、下を向いてしまう。


「そうや。しおりがおったら無敵や!」


女子2人は期待のまなざしで善太を眺める。

そして、顔を上げた善太。



「……それ藍原さんが必ずいるというか、解決する前提になってないか?」



美奈がハッとして固まる。

しおりも探偵の顔のまま固まる。


裏を返して言えば、しおりがいないと何もできない、もしくはしおりに頼りきってしまう。

そう言いたいのであろう。


「べ、別にええやん! だって、しおりやで?」


むきになる美奈になぜか善太は反論できない。

しおりの実力を信用していないわけではないが、善太はいろいろ心配なことがあるらしい。


「……『藍原探偵事務所公式サイト』に桜花堂の人から依頼来てたし、最初から行く予定だけど」


しおりが思い出したように言う。


「……はっ!?!?!?」

「……えっ!?!?!?」


善太と美奈は同時に突然のしおりの発言に慌てる。


「うん」


何でそんなに驚くの?と言いたげの表情でしおりは2人を見ている。

美奈と善太の2人は顔を見合わせ、



「そ、そっ、それを早く言わんかーい!!!!!!!」

「それを早く言ってよ!!!!!!!」



と、同時に声を荒げた。


しおりは何とも思っていないようだが、心の底ではかなり呆れているよう。

なぜなら顔に出ているからである。


「依頼が来るのは当然よ。町の噂になってるのだから」


小さくため息をつくしおりはさっきと様子が全く異なる。

これは完全に探偵モードになっている。


「そ、それはそうやな」


ようやく美奈は座る。

そして、意を決したまっすぐな瞳でしおりを見つめる。


「ま、まあともかく、うちと善太は助手として、しおりの力になりたいねん。うちらはそんなしおりみたいな推理はできへんから情報集めとか、体力戦くらいしかできへん。これはうちらが幼馴染みやからってのもあるけど、何よりしおりには一人で抱えてほしくない。家系やとしてもや」


善太は一瞬嫌な顔をして美奈を睨んだが、すぐにしおりに視線を向けた。


「それは僕も同感だよ。できれば、少しでもいいから頼りにしてほしい……かな」


しおりは2人を見て、一瞬戸惑ったが探偵の表情が抜け、いつものしおりの顔になっていた。


「ありがとう、2人とも。すごく嬉しい。2人がそう言うなら、私は全然いいよ。その方が心強いから」


そう小さく笑って告げたしおりを見て、美奈の目が輝き、善太は嬉しそうに小さく微笑んだ。


「頼りにしてるね。えっと……助手、さん」



「よっしゃ!これで探偵団結成や!!!」

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