第8話 画面の写真 〈Side 善太〉

刑事さんに対してもため口で話す藍原さん。

……旧華族ってすごいな。

いや、それどころじゃないけど。


「なぜ、そう思われるのですか?」


「食中毒なら被害者はもっと多く出ているはず。それから、食べてすぐ症状が出ることはほとんどない」


……たしかに。

有名な食中毒と言えばサルモネラ菌、黄ブドウ球菌などがある。

今のところはまだ他に倒れた人はいない。

同じ入れ物に入ったアイスなのだから、仮に食中毒だったとして、透さんが食べたアイスと同じ味を食べた人からも被害者は出てくるはず。

けど、ウイルスには潜伏期間というウイルスが体に入ってから症状が出るまでの期間がある。

ウイルスにもよるけど、それは数分も早いものではない。

最低でも三時間、遅くて一日はかかる。

たぶん、このことを言っているんだと思う。


「毒は……」


藍原さんは鑑識の人を見る。


「毒の反応はありません」


「……そうか」


カップから毒が出てこなかった。

毒の可能性もないなら他に何があるのだろうか。

小山が少しだけ藍原さんの方に近づく。


「何をする気だ?」


「しおりの力になりたいからできるだけ話が聞こえるように近づくんやって」


「……そうだな」


俺らが力になれるかは分からない、けど。


「……被害者はアレルギーをお持ちでした?」


藍原さんは男性に、ではなく女性2人に聞いた。

女性2人は少しだけ考え、顔を見合わせる。


「無かったと思う」


と、ミキさんが答えた。

藍原さんは怪訝そうな表情になる。


……えっ?


「何で、今あっちの人が……」


ずっと黙っていた小山が口を開く。

たぶん、俺も同じことを思ってる。


「あなたは、ミキさんですよね」


「そう、だけど」


「どうしてあなたが答えたのですか?」


「何でって聞かれたから、だけど」


「そういう意味ではないです。ミキさんはわけではない。そうですよね?」


「そうよ」


「では、どうして透さんがアレルギーを持っていないということをミキさんは知っているのですか」


「それはマキから聞いたのよ」


藍原さんはちらっとマキさんを見る。

なぜかマキさんは少し驚いていた。


「……そうですか。ミキさんは事実はない、ということですね?」


藍原さんはマキさんのことを気にせず質問を続ける。


「……ええ」


ミキさんの表情が微妙に変わったがすぐに戻った。

藍原さんの瞳が鋭く光る。


「本当ですか?」


「何よ、疑ってるの?」


「いえ、気になることがあるのでそれを聞いているだけです。あなたは透さんとどういうご関係なんですか?」


「だからさっきわたるが言っていたじゃない。あいつとは高校が同じだったって」


「「……あいつ……?」」


藍原さんと刑事さんの声が揃う。


「ミキはよく透のお世話をしていて、喧嘩もしょっちゅうだったからね」


男性、渉さんが説明をする。


「そうよ。……本当、世話が焼ける人だった」


懐かしい過去を思い出したのか、渉さん、ミキさん、マキさんの表情が少しだけ和らいだ。


「君たちは仲が良いんだね。もし良ければ、4人が写っている写真を見せてくれないか?」


「ええ、もちろんですよ」


渉さんがスマホを取り出した。

藍原さんがハッとしたような表情になる。

刑事さんは意味ありげな表情を浮かべながら藍原さんを見る。

……何かあったのだろうか。


「ああ、これとか」


渉さんは藍原さんたちに写真を見せる。

この距離では見えない。

小山と視線を合わせ、写真が見えるところまで近づく。


「ほら、君たち何してるの。子供には関係ないよ」


鑑識の人が僕らの前に立つ。


「うちら、しおりの友達で力になりたいんです」


小山が少し子供っぽい声で言う。

……やっぱこうなるか……


「それでもダメだよ。ほら、離れ、」


「—―鑑識さん、私は別に気にしないというか、2人がいる方が助かるので一緒に捜査させてくれませんか?」


あの大人っぽい声とはまた違う声。

鑑識さんが振り向くと、藍原さんが無表情でこちらに来ていた。


「あ、藍原さんが言うなら、ど、どうぞ」


……マジかよ。

一体藍原さんの家はどんなことになっているんだよ。


「ありがと、しおり」


「……うん」


捜査に集中したいのか、藍原さんの態度はそっけない。

そして、渉さんのスマホに映る写真を見る。


「これは……飲み会かな?」


「はい」


渉さんの隣にはミキさん、透さんの隣にはマキさんが座っている。


「あれ、透さんの隣って、?」


……えっ?


「ああ、よくわかったね。この時は2人とも似た髪型だったから見分けがつかなくてちょっと大変だったんだよな」


たしかに2人とも似てる。

今も似てるけど今は髪型が違うから分かる。


こいつよくわかったな。

俺なんか逆だって思ってた。

……って、違う。


「そんなこともあったよね」


マキさんが少し笑いながら言う。


「透くん、私のことミキって勘違いして、」


「マキ、やめて」


ミキさんがマキさんを睨む。


「ご、ごめん」


「その時、ミキさんってまだ渉さんと付き合ってなかったんよね?」


今度は小山からの質問攻め。


「そうだね。僕とミキ、透とマキは最近付き合い始めたからね」


それなら……ミキさんが透さんの隣に座っておいてもおかしくはない、か。

藍原さんの目が光る。


「なんか変なことを聞いてすみません。あともう一つ、透さんだけ飲み物違いますね」


透さん以外の3人はたぶんビール、透さんはオレンジ色の飲み物だ。


「たしかにそうだな」


刑事さんがうなずく。


「これって……オレンジジュース?」


大きなグラスに入っているオレンジの液体はきっとオレンジジュースだろう。


「たしかっていうか、毎回オレンジジュースだったよ。何でかは分からないけど。透、よく遅れるから頼むときはミキがいつも『あいつはオレンジジュースで良い』って言ってたよね」


「……そうだったっけ」


飲み会にお酒を飲まない人っているのだろうか。

お酒に弱い、とかならまだ分かる。

でも、透さんは絶対にお酒を飲まず、オレンジジュースを飲んだ。

……いや、飲まなかった、じゃなくて、飲めなかったのか?


横を見ると、いつの間にかいなかったらしい藍原さんが店のバックヤードから出てきたところだった。

……まさか。



「—―ご協力ありがとうございました。それでは……謎解きを始めましょうか」

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