第6話 トリオ作戦
「ああーもうーむかつくーー!」
「周りに迷惑かかるから騒ぐな」
「むかつくもん!」
ここはハンバーガー店。
ちょうどお昼の時間だ。
善太に注意された美奈は黙々とハンバーガーを食べ、善太としおりは飲み物を飲む。
ちなみに3人とも美奈チョイスのテリヤキバーガー、フライドポテト、選べる飲み物の「テリヤキバーガーセット」。
美奈と善太はコーラ、しおりはカルピスウォーター。
「角野くん、すごかったな……」
しおりの一言に美奈の動きが止まり、善太はむせる。
――結果、時間内に善太は列を作り終え、2回目の大コンボとなった。
コンボ数は驚異の300、スコアは200万。
ランキングはぶっちぎり1位になり、2位とはだいぶ差があった。
そのあと、美奈と善太は3つのゲームで対決をしたが、すべて善太が勝ってしまったのだ――
「次は……負けんから……」
「コホっコホっ、がん、ば、れ」
ダメージを食らった美奈。
まだむせる善太。
状況に戸惑うしおり。
……普通に見たらカオス。
そしていつの間にか全員、黙々とハンバーガーを食べていたのだった。
テリヤキバーガーは、人気メニューの1つ。
甘辛いソースとマヨネーズのコントラストが絶妙だと評判。
美奈はとにかく、善太としおりは気に入ったらしい。
「あっ、そうや!」
急に起き上がった美奈に2人はぎょっとする。
「何だ急に」
「ふっふーん。今日のメインがこのあとあるんよね~」
何やら楽しそうな様子。
さっきの落ち込みはどこにいった。
「……メイン?」
「またゲームじゃないだろうな」
「そんなわけないやろ!」
善太は心の奥でほっとする。
「もしかして……あれ?」
しおりが自分の後ろにあるポスターを指さす。
美奈と善太はそれを見る。
……アイスクリームの店のポスターだった。
それも可愛らしい。
「何で分かったん!?」
「いや……さっきからあれ見てたから」
「そ、それでわかるんか……ま、そういうこと。このあとあのポスターの店行きたいんけど、良い?」
「「うん」」
2人は同時にうなずく。
3人は食べ終え、1階にあるというアイスクリームの店に向かう。
店の名前は「フローズン・ナイト」。
SNSでは話題になっているらしく、ウェイアではリニューアルオープンしてからできた。
種類も多く、追加料金を払えばトッピングも可能。
季節限定のフレーバーも出るので、子供から大人まで人気だという。
しかし、まだ全国にはなく日本ではまだ10店ほど。
……その中に、ウェイアがあるのだ。
「ウェイアにあるって知った時はめっちゃびっくりしたんよ」
「そうなんだ。京都にはなかったの?」
「ないんよなー。まだ関東にしかないもん」
「まあ、いつかはそっちにもできるとは思うけど」
午前よりのんびりした雰囲気で会話をする3人。
しかし、明らかに人は多くなっている。
お昼目的に人の移動が増えたのだ。
「1階やからあのエスカレーター使おか」
3人がエスカレーターに向かおうとしたその時だった。
「ママぁー!どこぉー?」
子供の泣き声が聞こえた。
一瞬だけ静かになったが、すぐまたにぎやかになる。
「迷子……!」
状況をいち早く察した美奈は泣き声が聞こえた方に駆け出す。
「ミィナ!」
「おい!」
美奈を見失わないように2人は美奈を追いかける。
「ったく……」
考えるより行動派の美奈。
また運動神経が良いため、人混みをうまく避けることができた。
しかし、人混みに流されてしまい、美奈の姿も見えなくなってしまう。
善太はしおりの腕を掴む。
……バラバラにならないように。
最初は戸惑ったしおりだったが、すぐに無表情になる。
2人はタイミングを計って、人混みから抜けることができた。
気がつけば泣き声はもう聞こえない。
人混みから抜けることはできたものの、小さい子供と大人では子供の方が見つけにくい。
「あの子、どこに行ったのかしら……」
「……えっ?」
しおりの達の後ろから女性の声が聞こえ、善太が反応した。
女性はキョロキョロしながら不安そうな表情だった。
しおりと善太は顔を見合わせる。
「あの、何かお困りですか?」
善太が女性に話しかける。
「え、っと、あなたたちは……」
「たまたま通りかかっただけの小学生です。もしかして、迷子のお子さんを探してますか?」
「え、ええ、そう、なの」
何でわかったの?という表情になった女性。
「今、僕のもう1人の友人がその子のところにいると思います。僕らはその友人を探しているので一緒に探しましょう」
「わ、わかったわ」
自分よりずっと年上の大人に会話をしていた善太にしおりは驚いていた。
それはとにかく、この階は飲食店が多く、移動だけでなく行列も多い。
……迷子になりやすい状況だ。
「厄介だな……」
美奈ならどうする。
こんな人の多い場所で小さい子供と……
「人が少ないところにいるかも」
しおりは静かに言った。
「……えっ?」
「人が多いから邪魔にならないように移動してると思う。例えば、エスカレーターの近くにあるベンチとか」
「……それはそうかも」
思いついたのは自分たちが向かおうとしていたエスカレーター。
人混みに流され、少し離れてしまったがここから1番近いのはあのエスカレーター。
「行ってみよう」
「うん」
飲食店の前を通り、下り側のエスカレーターのすぐ横にあるベンチへ大回りをする。
……乗り場が反対方向だったのだ。
「「あっ!」」
女性の声ともう1人、子供の声が重なった。
小さな子供がこちらに向かって走っていた。
その後ろには……美奈がいた。
子供は女性に抱きつく。
また泣き出してしまう。
「もう、どこに行ってたの。心配したんだから……」
「ごめんなさい、ママ……」
昼間は人が多い。
迷子になってもおかしくはない。
「藍原さんの予想、当たってて良かった」
善太も親子の再会を見て、ふっと安心したよう。
「しおりの?」
「うん。お前なら人が少ないところに移動するだろうなって」
「さすがしおり!うちの考え読んでるやん!」
「えっ、あぁ、うん……」
少しぼんやりしていた様子だが、美奈と善太に褒められ、嬉しそうだった。
女性は3人の方を見て、
「本当にありがとうございました」
「おねえちゃんたち、ありがとう!」
と子供とお礼を言った。
「いえ、そんな、人を助けるのが好きなだけで当たり前のことをしただけです。……もうお母さんから離れたらあかんよ?」
「うん!」
「それと、お礼にこれをどうぞ」
女性は美奈に何かを渡した。
「え、ええっ!?良いんですか!?」
しおりと善太はそれを見る。
……「フローズン・ナイト」のクーポンだった。
しかも3枚分。
100円引きクーポン3枚分。
「もちろん。この子を見つけてくれたお礼に」
「わぁ、ありがとうございます!!」
すごく嬉しそうな美奈。
しおりと善太もありがとうございます、と言う。
「おねえちゃんばいばい!」
「本当に助かりました」
3人は親子2人に向かって手を振る。
子供はちゃんと、手を繋ぎながら。
この時、善太はしおりの違和感に気づいた。
(……あ、藍原、さん……?)
しおりはあの親子を寂しそう、というより悲しそうな表情で見ていた。
「うちらも行こっか」
「うん」
美奈の声と同時にしおりの表情は無表情に戻った。
そして、念願のフローズン・ナイト。
青と金色の文字の看板で、店内は黒や紺を基調とした落ち着いた、夜空のようなデザイン。
机椅子も黒。
店内はアイスを食べる人、写真を撮る人で賑わっていた。
「わぁ、すごい……!」
美奈は大興奮していた。
善太も店内のにぎやかさに驚いていた。
しおりはというと、そんなに反応していない様子。
それに気づいた善太が心配そうな表情になる。
しおりに話しかけたようとしたその時、
「キャアァァァァ!」
女性の悲鳴が店内に響いた。
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