第4話 帰国祝いへGO
翌日の9時55分。
しおりの家の前には既に善太がいた。
いつも通り爽やかな、少しクールな表情。
白いパーカーに黒いスキニーパンツ、黒いサコッシュ。
その時、黒い門が開いた。
音に反応した善太が門の方を見る。
そして、目を見開いた。
「あっ……」
門から出てきたのは黒髪の少女、しおりだった。
黒のフリルがついた薄いピンクのワンピースを着ている。
相変わらずの無表情。
しおりは善太と目が合うと、すぐにそらしてしまった。
善太も慌てて目を逸らす。
……頬が少し赤いのは気のせいだろうか。
そのまま数分、沈黙が流れる。
「わっ、もう2人とも来てるやんっ」
9時58分。
しおり、善太の2人は同時に声が聞こえた方を見る。
視線の先には茶髪の髪を2つくくりにした少女、美奈。
膝より上のオレンジのニットワンピースに膝より長い黒のロングソックス。
軽く走りながら2人の方に向かっている。
善太は昨日と違う髪型、声色の美奈を見て、一瞬怪訝な表情になったがすぐにいつものクールな表情に戻った。
しおりはというとまだ無表情。
「しおり~!久しぶり~!」
美奈はしおりに飛びついた。
「きゃっ」
小さい悲鳴を出すしおり。
それでも表情は和らいでいる。
その変化に善太は少し驚いていた。
「しばらく会ってない間にめっちゃ可愛くなってるやん~」
一度離れ、しおりのサラサラの髪を触りながら美奈は言う。
その瞬間、しおりの頬が少し赤くなる。
「そ、それはないよ」
「いやいやめっちゃ可愛いから!」
「ひゃっ」
またしおりにくっつく。
急な状況にだいぶ驚いているしおりだったが、久しぶりに美奈に会えたのが嬉しいのか、少し笑っていた。
そんな微笑ましい(?)様子を見て、善太も少しだけ笑っていた。
しかし、すぐクールな表情に戻る。
「……で、どこに行くんだ?」
美奈がしおりから離れると、善太を軽くにらむ。
しおりがスッと無表情になる。
「今感動の再会をしてたんやけど!」
「それはそうだけど、藍原さんが少し困ってた」
しおりが微妙に反応する。
「ちょっと強引やったのは反省してるから!」
……だいぶ強引だった気もする。
「ちょっとどころじゃないだろ」
「あーもう細かいことはええの!」
お互いにらみあう2人をしおりは無表情で見ていたが、その視線が何となく痛い。
その視線に気づいた2人が急に黙り込む。
「そ、そそそそっか、ま、まだどこに行くかしおりは知らんかったよな、ごめんごめん」
「……僕も知らないけどね」
美奈は焦りながら善太を無視する。
「今日はうちとしおりの帰国を祝して、懐かしの城川巡り、やで!」
びしっと決めた美奈。
あの勝気な、明るい表情で2人を見ている。
「懐かしの……」
「城川巡り……」
しおりと善太はぽかん、としていた。
善太はすぐに違和感を感じた。
(……帰国したのは藍原さんだけなのに何でこいつも……?)
そして、表情が暗くなる。
「……それ、俺まで行く必要ないと思うけど」
善太の声が低くなる。
さっと視線をそらし、下の方を見る。
それに気づいた美奈の表情が昨日のような、怪訝な表情になる。
「すぐ気づくと思う。うちらにはアンタが必要やって」
声色も変わっていた。
それはさっきよりずっと優しい声だった。
重い雰囲気、さっきと何かが変わったこの状況にしおりの瞳がまた変わる。
美奈の言葉に善太は少しだけ顔を上げる。
「最近会えてなかっただけで、うちらが『ずっと幼馴染み』ってことは変わらんやろ?」
『ずっと幼馴染み』。
その単語に善太だけでなく、しおりも反応する。
「……それは……そうだけ、」
「じゃあ、決まりや!!」
重い雰囲気を吹き飛ばすような美奈の大きな声に善太はぎょっとする。
美奈の表情はまたあの勝気な表情、というよりは満面の笑みを浮かべていた。
「今日は、めーいっぱい楽しむでー!」
……と、いうわけで。
やってきたのは城川市中部にあるショッピングモール、「WAYUP」。
通称ウェイア。
「城川駅」という、大きな駅のすぐ近くにある。
飲食店はもちろん、スーパー、服屋、雑貨屋、スポーツ用品店……と、馴染みのある店から地元限定の店がそろっている、城川市では有名なショッピングモール。
隣町からの利用者も多い。
「なんか、前とだいぶ変わった?」
「うん。きれいになったというか」
久しぶりにウェイアに来た女子2人は建物中に入る前からワクワクしている様子。
「……最近リニューアルオープンしたからだと思う」
「え、そうなんだ」
善太の小さいつぶやきにしおりが反応する。
意外な反応に善太は少し焦る。
リニューアルオープンした、ということは善太しか知らない。
「う、うん。中も変わってた」
「へえ~、ミィナも早く入ろうよ」
「おっ、行く?」
珍しくしおりが乗り気だ。
少しだけ瞳がキラキラしている。
そして、3人は中に入る。
美奈がニヤリと善太を見る。
相手をするのがめんどいのか、善太はさっと視線をそらした。
……が、しおりを見た。
美奈と会話をしている。
待ち合わせの時よりずっと表情が明るくなっている。
(……元気そうで、良かった)
自然と善太の表情も明るくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます