①性格バラバラ裏アリ探偵団、誕生?

1章 バニラアイス中毒事件

第1話 城川市の旧華族

城川しろかわ市。



かつては多くの華族たちが住む街で栄え、現代は大企業が集まり、子供から大人まで住みやすい、と人気の街。

そこにはもうほとんどいない華族の1つ、旧華族・藍原あいはら家が住んでいる。



彼らは街の中部に住んでいる。

3階建ての一軒家。

家を囲む頑丈な黒い囲いと門。

壁は白く、最上階は屋上。

部屋それぞれにはバルコニー。

そして、広い庭。

庭の真ん中には噴水がある。

……まさにお金持ちが住む家だ。

最近までは誰も住んでいなかったのだが、今日はひとが見える。


「ここがお嬢様の部屋になります」


2階の奥の部屋。

1人の少女が白髪交じりの男性に案内されていた。

お嬢様、と呼ばれている少女は艶のある長い黒髪に、白い肌、整った綺麗な顔立ち、細い華奢な体つきをしている。

……まるで、お人形のような容姿。

しかし、顔は無表情で……目が何となくおかしい。

まだ小学生だろうか。

そして、男性の方は背が高く、60~70代あたり。

少女の執事らしい。

少女に案内された広い部屋には家具等もまだ何もない。

窓から差し込む光が部屋を少し明るくしている。


「では、失礼します。もうすぐ近所の方々へ挨拶をするので、しばらくここでお待ちください」


少女は軽くうなずいただけだった。

執事は少女の部屋から出て行った。




〈Sideしおり〉


執事の柊さんはわたし――藍原あいはらしおりの部屋から出ていった。

彼が出てから、わたしは部屋を見渡す。

まだ何もない。

ただ、窓から光が差し込んでいる。


「……はあ」


思わずため息が出てしまう。

自分が生まれた故郷、城川市に戻れたのは嬉しい、と思う。

ここに戻る前はお父さんの仕事の都合でイギリスに住んでた。

たしか……6歳の時から。

英語は小さい時から習ってたから別にそこまで困ることはなかった。



お父さんはわたしのおじいさんと大手企業で働いていて、かつ藍原家の現当主。

藍原家はだいぶ昔、わたしのひいおじいさんくらいかその前の代の時に城川市では特に有名な華族だったらしく、今は旧華族として過ごしている。

旧華族になったあと、わたしのおじいさんが「AINA」という、会社を立ち上げて今じゃ世界的に有名な大企業になった。

その規模は……わたしも知らないし、見たことない。

けど、わたしたちの身近なところに「AINA」はいる。

……正直いろいろな意味で、すごく過ごしづらいと感じる。



自慢したいわけじゃない。

したくない。



本当は、お父さんもわたしと一緒に日本に戻る予定だった。

けど……イギリスから帰ってきたのはわたしだけ。

お父さん、昔より仕事が忙しくなってしまってしばらくの間ずっとイギリスにいる必要があって。

だから……5年ぶりか。

わたしはイギリスより、ここの方に戻りたかったから1人で日本に戻った。

それだけじゃない。



わたしは……お父さんの代わりに、あの役目をしないといけない。



……本当、憂鬱。

結局、また1人だ。



コンコン



このノックの音はどうせ執事だ。


「……はい」


ガチャっと戸が開くと、やっぱり柊さんだった。

白髪が混ざった髪をきっちりセットし、モーニングコートを着ている。

柊さんの家は代々執事の家系でわたしの……ひいおじいさんの時からずっとお世話になっている、わたしもわたしのお父さんも信頼している家の方。

しばらくお父さんが家にいない間、わたしのお世話をすることになったらしい。

一応、小さい時からこの人のことは知ってる。


「お嬢様。そろそろ、お隣の方たちにご挨拶をしましょう」


引越しの挨拶、か。

何件行くんだろう。

まともに挨拶できる気がしないけども。


「……そうね」


執事に続いて、「私」は自分の部屋を出る。

そういえば、隣の家の人って……

何だか懐かしい感じのものを感じた気がするけど、思い出せない。

少しだけ頭に痛みを感じた。

……思い、出せない。

まあ、いいか。

昔のことなんて、覚えてなくても良い。



すぐに、消えるのだから。




〈Side善太〉


白いカーテンを開けると、朝の明るい光が一気に部屋に広がった。

ついでに窓も開ける。

……気持ち良いな。

すごく晴れてるし、風も涼しい。

3月の朝はまだ少し寒い。

けど、昼になれば春のあたたかさになる。

午後からサッカーがあるけど、この天気は何となく走りたくなる。


「……えっ」


黒い車が僕の家の前を通ったところだった。

といっても、ただの車ではない。

いわゆる……リムジンってやつ。

近所にあんなすごい車を使う人なんていなかったはず。

てことは、誰かが引っ越してきたのだろうか。

それも……お金持ちの人が。



……お金持ちの人と言えば。

このあたりというか、この街で知らない人はいないだろうお金持ちの家の人はいる。

いや、いた。

それもすぐ近くに。

一回、ベランダで見てみよう。

部屋のベランダに出て、車が通った方を見ると、隣の家の前に止まっていた。


「……えっ!?」


意外にも大きい声を出してしまったので、慌てて口を押える。

隣の家、に引っ越してきたということだろうか。

僕の隣の家に誰かが引っ越してきたということは……?

リムジンはすぐ広い庭の中にあるらしい、駐車場に入っていった。

隣の家はすごく大きい。

いや、大きいどころじゃない。

お金持ちどころか、大金持ちが住むような家。

家はもちろん、庭も広いし。

何なら噴水もある。

5年くらい前までは、幼稚園の時から仲が良かった僕の幼馴染みが住んでいたが、ある日突然学校に通わなくなり、そのまま不登校になっている。

どうなったのか誰も知らない状況だし、いつの間にか忘れていた。

……けど……

あのリムジンが止まっていたということは、どこかに引っ越していたのか。

そして、ここに戻ってきたのかもしれない。

その瞬間、心臓が速く動き出す。



つまり、久しぶりに彼女に会えるということ、か……!?

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