学校一のモテ男を惚れさせろ!

「………ってなわけなんですよ」

「ふうん」


 正紀まさきはそっけなく相槌を打った。私は椅子の背にもたれかかり、大きくため息をつく。


 一時間目終了後の休憩時間。朝はまだ静かだった教室にも、喋り声が行き交い活気が出てきた。私もちょうど、幼馴染の正紀に昨日の事の成り行きを説明していたところだ。


「ねー、興味なさすぎじゃない?!私がずっとアイドルになりたいのは知ってるでしょ?」

「だから、美波にアイドルは無理……痛っ!何すんだよ?!」


 最後まで言い終わらないうちに、彼の頭を思いっきり教科書で叩く。うめきながら、不機嫌そうに頭をおさえる正紀。


 確かに、キラキラと女の子らしくて、思わず守ってあげたくなるような雰囲気をもつ子が、本来アイドルには向いてるのかもしれない。反面、私は顔は上の下くらいだと自負しているが、なんていうか性格に可愛げがない。だけど、誰か一人くらい応援してくれたっていいじゃないと、いじけたくなる。


「協力してよぉ」

「協力するって言ったって…これからどうするんだよ?」

「……学校一のモテ男って、あおい先輩だよね」

「……まぁ。そうじゃね」


 正紀は一層不機嫌になった。頭を叩いたことがそんなに嫌だったのだろうか、と少し申し訳ない気持ちになる。課題をやっていた手を止めて、話を聞いてくれる正紀はなんだかんだ優しい。

 

 葵先輩は一個上の3学年の先輩だ。私たちの通うさくら峰中学校みねちゅうがっこうの中では、間違いなくトップクラスのイケメン。校内で、スタイルが良く顔が整っていて、勉強やスポーツに秀でている4人の人物を勝手に四天王と呼ぶ人たちがいるが、もちろんその中の一人だ。他中から何人かの女の子が先輩を覗きに来たこともあったし、芸能事務所からも声をかけられているという噂だ。


「葵先輩ってめちゃくちゃイケメンだしモテるけど、正直けっこう悪い評判も聞くぞ。万が一、アプローチがうまくいったらどうすんだよ」

「うーん、付き合うんじゃなくて、あくまで好きになってもらうのが目的だから……。

まぁ、そこんとこは、どうにでもなるっしょ!」


 正紀は腑に落ちない顔をしてるが、そもそも自分が学校一のモテ男の葵先輩の目に留まるビジョンが今のところ浮かばない。余計な心配するより、まず行動。父親をギャフンと言わせてやる。


「まず、接点つくらなきゃ。正紀は葵先輩と同じ外部活なんだから、つてとかないの?」

「ばかっ、外部活って言ったって、あっちはサッカー部だぞ?」

「だよねぇ…」


 正紀は陸上競技部で、葵先輩はサッカー部だ。あの顔でサッカー部って……つくづく、先輩はモテる男の条件を兼ね備えてる。私なんて体育館部活のバドミントン部だから、尚更接点がない。


「じゃあ、一度も喋ったことないの?」

「いや、去年体育祭の応援団で一緒だったから、何回か話したことはあるよ」

「それだ!」


 教室を響き渡った。正紀が怪訝な顔をする。「そろそろ席つけよー」という先生の呼びかけとともに、二時間目の開始のチャイムが鳴った。

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