『異世界神子のハーレム奇譚』〜神子である僕の使命は運命の人を探すこと。魔法学校卒業後に運命の人を見つけるため旅に出るが……やめろ、こっちに来るな、美少女ヒロインども!〜

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

001 神子誕生

 遠い昔、神界にて、父なる神と母なる神の間に第一子が生まれた。父なる神と母なる神は慈愛を以ってその子を育てた。そして、ある時、父なる神がこう言った。


「我が息子よ。そろそろおぬしは学びに行かなくてはならない」

「何を学ぶの?」

「それは、様々な感情や経験である」

「なら、どこに行くの?」

「それは、我たちが創造した世界オリエンスである。その世界に神子として生まれて、たくさんのことを学ぶのじゃ」

「うん。わかったよ、お父さん」


 子が頷くと、母なる神が子に語る。


「私たちはあなたのことをここから見守っているわ」

「我が息子よ。オリエンスにて、おぬしは何をしてもよいのじゃ。善行も悪行も、怠惰も恐れも、快楽も幸福も、怒りも悲しみも。あらゆる感情を学び、そして経験するのじゃ」

「はい、お父さん」

「最後に一つ、おぬしに使命を与える。オリエンスにはおぬしの許嫁である我の親友の娘も転生する。おぬしとその娘の使命は、お互いを見つけ、愛を体現することじゃ。それまでは、おぬしらはオリエンスにて輪廻転生、永劫回帰を経る。このこと、努々忘れるでない」

「はい。必ずや、その娘を見つけます!」

「気を付けるのよ。楽しんできてね!」

「はい、お母さん。では、行ってきます!」


 そして、神の子は、不可視界の扉、ラカン・フリーズの門を開けて、神の世界から去った。



 ◆



「お目覚めですか? ルイス様!」


 神子ルイスが目覚めると、七人の娘が心配そうにルイスに声をかけた。しかし、七人の娘たちは皆一様に目隠しをしていた。ルイスは今までのことが思い出せず、七人の娘たちの中の一人、赤髪の娘に問いかける。


「ここはどこなのですか? あまり、思い出せなくて」

「ここはエリュシオン神殿でございます。あなた様は、神の子として今、この神殿に降臨なさったのです」

「神の子?」

「そうでございます」


 神の子だといわれても、ルイスには身に覚えがまったくない。


「僕が神の子? 何かの間違いではないのですか?」


 すると、今度は白髪の娘が答える。


「いいえ、あなたこそ神の子でございます。私、エリュシオンの白巫女アナスタシアがあなた様を前にしてそう確信していることが、何よりの証拠です」

「そういわれてもなぁ……」

「ルイス様は今、目覚められたばかり。少し休まれてはいかがでしょうか」


 七人の麗しき娘たちに案内されて、ルイスは花々が咲き誇る室内庭園に辿り着いた。水辺に椅子とテーブルが置かれ、紫がかった黒い髪の娘がお茶を、金髪の娘が茶菓子を運んできた。ルイスは言われるがままに椅子に座る。


「みんなは座らないの?」


 ルイスがそう尋ねると、お茶を煌びやかな装飾のなされたティーカップに注ぐ紫黒の娘が微笑んで答える。


「恐れ多いことです。ルイス様。あなた様は私たちの神の子なのですから。この世界の者はみな、あなたを敬愛しているのですよ」

「敬愛って……」


 ルイスは困惑した。これではお父さんに言われたように、いろいろな感情が学べないではないか、と。そこでルイスは両親のことをすっかり忘れていることに気が付いた。


「僕の家族は?」

「ルイス様のお父様は父なる神、お母様は母なる神です。そして、私たち七色巫女が、あなた様の妻となります」


 そう言ってお辞儀をしたのは、青い髪の娘だった。その娘に続いて、他の六人の娘も深くお辞儀をした。


「妻? 今日逢ったばかりなのにですか」

「はい。ですが、私たちは以前より、ずっとあなた様を思い、慕い、敬愛していました」


 慈しみをこめてそう語りルイスの手を握ったのは、黒髪の娘だった。その表情は、瞳こそ黒い布で隠されているが、恍惚としていて、ルイスは思わず心乱れる。


「ルイス様。この楽園で、私たちと永遠の愛を紡ぎましょう」


 椅子に座るルイスを後ろから抱きかかえたのは翡翠の髪の娘だった。ルイスはうなじに柔らかな感触があたる。


 ドギマギしつつ、ルイスは微笑みかける七人の娘たちを見渡した。


「どうしてみんな、目隠しをしているの?」

「それは、私たちがあなた様との初夜の時に外すことになっているからでございます」

「しょや?」

「はい。ですから、その日までは私たちもあなた様の姿を見ることは許されていないのです」


 ルイスはあまり腑に落ちなかった。そして、淹れられたお茶を一口飲んだ。それはとても甘い香りのする紅茶だったが、だんだんルイスは眠くなってきた。


「しばしのお別れですね」

「ルイス様、必ずまたお逢いしましょう」

「私達は待っていますわ」

「心よりお慕いするルイス様に神の御加護を」

「縁あるのならまた出逢えます」

「安心して行ってらっしゃい」

「ルイス様。愛しています」


 娘たちの言葉を聞きながら、ルイスの視界は暗転し始める。最後に感じたのは、唇に感じた柔らかく甘い感触だった。

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