不思議な世界での出会い!

   *



『信ッじられない……どうなってるのよ、もう!!』


 青い空。白い雲。

 草と花が生えている以外はなーんにもない、だだっぴろい野原。

 遠く遠くの山まで、私の声が響き渡った。

 それを聞いて、目の前にいる男の子がビクッ! と肩を震わせる。


「ご、ごめん……」

『な・ん・で、アナタが謝るのよ!! 何かしたわけ!?』

「ひっ!! だって怒ってるから……!!」

『怒ってない! 混乱してるの!』


 私が叫ぶと、男の子は「ご」と言いかけた。また「ごめん」って言おうとしたんだと思う。初めて見たときは「王子様みたい」って思ったのに、なんだか情けない感じだ。

 あーー頭の中がぐるぐるする!! 怒ってない、怒ってないから!

 ただ全然落ち着かない。頭を抱えて、ウンウンうなりたいところだ。

 でも今の私には、それができない。



『どうして……どうして私の体が剣なのよーーーーっ!!』



 私の体──白い鞘のついた細い剣は、うんともすんとも言わなかった。



   *



 私は最上奏多もがみかなた。この春から中学生になる「人間」のフツーの女の子。

 ……だったはずなのに。



 目が覚めたら、私の体は剣だった。

 よく分からないって? 私にもよく分からないよ。ただ一つ分かるのは、頬をつねったり(そもそも剣だからつねる頬がない)暴れたり(そもそも剣だから以下略)しても意味がないから、これは夢じゃないってこと。

 驚いた私が「なんで!?」「どうして!?」とか叫んだら、目の前のこの男の子──どうやら、剣(私)の持ち主らしい──も驚いた顔をした。


「剣がしゃべった!」って。


 そりゃあ驚くよね。たしかにお互い様だ。でもでも私の方がパニックなんだから。

 目の前を見渡してみる。なぁんにもない、だだっ広い野原だ。遠くには山、山、山。都会暮らしの私からしたら、ちょっと珍しい景色。

 それだけなら、まだいいの。



 でも、空にドラゴンが飛び交っていたら、さすがに「なにこれ!? ここどこ!?」ってなるよね?



 まるで、ファンタジーとかRPGゲームに出てきそうな世界そのままなのだ。ちょっと歩いたら、スライムとかもいるんじゃない? なんて思うような。

 こういう世界観のもの、ゲームでやったことあるよ。その中に入ったみたいでワクワクもするけどさぁ、ありえないよね?

 何かの施設? 合成? 実はここは室内で、天井に映像が映ってるだけとか?


「ご、ごう……何?」


 ……違うっぽい。

 夢でも合成でもないなら、何? 私、知らない世界に飛ばされちゃったの? 


『とりあえず説明してよ。ここどこ?』

「え、えぇっと……その前にあなたは誰、ですか? 僕の剣に、なんで……」


 あぁ、まぁそうだよね。ちゃんと自己紹介はしないと。この男の子も、わけわかんないのは同じみたいだし。


『私は奏多だよ。なんで君の剣になってるか……はよくわかんないんだけど、私も立派なニ・ン・ゲ・ン、だから!! 十二歳、よろしくね』

「人間……なんだ」


 男の子は不思議そうに呟いた。

 驚くよね。逆の立場だったら私も驚く。


「その剣、昨日まで守護霊なんてついてなかったはずなのに……」


 え、そこ??

「守護霊」とやらがモノにつくこと自体は珍しくないってこと? やっぱりファンタジーな世界みたい。


「僕も、十二歳。同い年だね」


 そう言うと、彼は少しだけ、緊張したように唇を引き結んだ。

 ? どうしたんだろう。

 勇気を振り絞るように、深呼吸。それから、言った。


「僕の名前は、ステラ・ミラクリウ」

『へぇ、変な名前』

「!」


 男の子……ステラは、目を見開いた。

 いけない。「変」って口に出ちゃった。もう、いつも思ったことをすぐ口に出して後悔するんだから……気を付けないと。


『ごめん、変なんて言って』

「驚かないの?」


 へ?


『驚くって、何に?』

「僕の名前にだよ! 僕の名前を聞いた人は、みんな驚くか……僕のこと、バカにするかなのに……」


 ちょっと、ちょっと待ってよ! 全然分かんない。

 バカにするって何で? そもそもこの世界のことがよく分かってないのに、次々と新しいこと言わないで、誰か説明してーーっ!!



「いたぞ!! 第七王子だ!!」



 すると、突然遠くから男の人の声がした!?

 えっ。何か今信じられない言葉が聞こえたような。

 ステラの顔を見上げると、その顔が青くなってる。


「マズい……!」

「つかまえろ!!」

「あいつをつかまえれば金になる!!」

『ちょっと! 何か金になるとか言ってるんですけど!』

「ま、まきこんでごめんっ」


 そう言うと、細い腕が私の体をつかんだ。

 わぁ、ちょっとそこくすぐったい! って、ステラにとって私は剣なんだもんなぁ。

 気持ち、お姫様だっこされているのに全然キュンキュンしないよ。


「とりあえず、逃げよう!!」


 ステラは荷物と私を持って、男たちから隠れるように森の中へ逃げた。

 もう、あとでちゃんと説明してよね!

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