ソーズとマジック
近くで、ステラの息切れが聞こえる。
けっこう走ってきたもんね……私は持ってもらってたから全然疲れてないけど。その背中をさすってあげられないのが、ちょっともどかしい。
アイツら、絶対悪いやつらだったじゃん。人をつかまえて「金になる」ってさ。
「ご、ごめ……ごめんね」
『それは何度も聞いたよ。もういいから』
それより休みなって。
息が整ったら、全部説明してもらうんだから。
男たちは、もう追ってこないみたいだし。
少し休んだら落ち着いたみたいで、灰色の瞳がこちらを向いた。
「まず、『ここはどこ』って言ってたよね。ここは、ミラクリウ王国だよ」
『ミラクリウ、王国』
王国……って。
『あなたの名前と同じ名前じゃない!』
「そう。僕は、この国の第七王子なんだ。…………一応」
そっか、だからさっきステラは「名前を聞いたらみんな驚く」って言ってたんだ。国の人なら、王子の名前を知っていて当たり前だもんね。私だって、自分の国の総理大臣は言え……言え……言えるからね! 今、ちょっと忘れてるだけなんだから!
本当に王子様、だったんだなぁ。
じゃあやっぱり、ここはニホンじゃないんだ。っていうかそんな名前の国聞いたことないし、チキュウですらない可能性もある。
『でも、「僕のことをバカにする」っていうのはどういうこと?』
王子様をバカにするっておかしくない?
そうだよ、そもそも王子様がこんなところにいるのもおかしいし! 今のステラの格好は、白いシャツに、黄土色のローブを一枚羽織っているだけ。この服も、ちっともお金持ちっぽくない。
それは、とステラが悲しそうな顔をする。
「僕が、ソーズを使えないからだよ」
そーず?
まぁたよく分からない言葉が出てきたよ。
でも初めてやるファンタジーゲームの世界観を知っていくみたいで、ちょっと楽しいかも? なーんてお気楽すぎかな。
私が答えずにいると、ステラはさらにこの世界のことを説明してくれた。それは、私の住む世界じゃ考えられない文化だった。
──ミラクリウ王国を含むこの世界には、大きく分けて二つの「才」があるらしい。
一つは「ソーズ」……剣を扱う才能。
ソーズを持つ人は、剣や体術でモンスターを倒し、街や人を守っている。私たちがRPGゲームの「勇者」でイメージするような力だ。
そしてもう一つは「マジック」……魔法の才能。
マジックはソーズに比べてちょっと地味。薬作りや占いに使われる力。もちろん「手から火が出せる!」とか「一瞬で別の場所へ行ける!」みたいな人もいるけれど、修行しないと大きな魔法は使えないんだって。
問題は、この二つの才に「序列」があること。
この世界では、マジックよりソーズの方がスゴイってことになっているらしい。
何てったってソーズを持つのは勇者の素質がある人間だけだから。マジックは修行をすれば身につくけど、ソーズは生まれつきの才能だから。
特にステラの家──王族は、この才能を絶対に持って生まれるんだって。
だから国の人の尊敬を集めて、国を治めているわけだけど……。
なぜだかステラには、その才能がない。
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