第百八十四幕 浪漫


ついに出来たか、私の努力の結晶。


そういって、腕を組みモニターの前で涙を流している一人の女。

名を、翠之 志(みどりの こころ)という。


彼女がモニター内で作っていたもの、それは自分で造形カスタマイズできる戦車ゲーム。


これを制作する為に、丸四か月暇な時間は全てこれにつぎ込んだと言ってもいい。


下の申し訳程度のキャタピラがそれを戦車であると証明しているだけで、上部分は超巨大戦艦になっていた。


戦艦の火力を、戦車で欲しい。

そんな、バカげた夢を作り上げる際紆余曲折あった。


まず、巨大であるため装甲の問題が出て来た。

そう、このゲームでは設定できる装甲値にゲームである以上限界が存在する。

何処に、この巨体を守る装甲をつけたらいいか悩みまくり。


攻撃されそうな所だけ、ガッチガチにして。それ以外の部分は段ボールと変わらないハリボテにしてそれを解決した。


※解決してない


次に、巨体故に処理落ちが発生し狙いがつけられない問題。

それは、上司であるゲドにインフラ何とかせーよと苦情をいれて何とかした。


「常に、処理落ちのアラートが鳴りっぱなし。レートが三十割るのが割と頻発したものね」


この巨大な造形をひたすら作り上げるのに、正月もクリスマスも年末年始の行事もほぼ軒並みキャンセルし「リア充には決して不可能な領域、フハハハっ」等という謎テンションで作っていた。


※深夜テンションでやり遂げて後から顔を覆う


心がささやく、行きなさいと。


リビドーと衝動にかられ、途中で何度か「あれ?これ砲塔どうやって動かすんだろ」とか色々考えた結果通常のコントローラーや装置では動かせず。


しかし、ライダースーツの様な体にフィットするスーツのバグを利用して手や足を動かす事で砲塔をばらばらに狙いをつける事にすら成功した。


そう、問題があるとすればこのピッチピチのスーツで体のラインが出る事だが。どうせ、ゲームやってる時は部屋から出ないと開き直る。


そして、最大の難所だったのは。最初は砲身を戦艦にならって上に取り付けた関係で下を撃とうとすると船体に玉が当たってしまい盛大に自爆する上で、装甲しかゲーム上身を守る術がない為急遽船体下部分に速射砲などを大量に取り付けた結果、速射砲を動かす船員が足りなくなると言う事態になり。


色々あって、上を手動として下をオートにするという事で解決させて完成に至る。


「さぁ!惨劇の時間DA!!」


滅びよ、滅びよぉぉぉぉ。

リア充を駆逐する事があたしの喜びDA!


無数の砲塔、機関銃が火を吹いてゲーム内の他の戦車を打ち下ろし気味に叩き潰す。


「最高~、最高よ!」


風はどっちに吹いている?


「明日に向かってるに決まってんじゃない!!」


これが、楽園。

虚構の楽園、弾幕のカーテンに浪漫の産物。


「あれ?アラート、何処から……」


その時、水平ギリギリから蒼い雷光が飛んできた。


「実弾兵器じゃないって事はあいつか、モノクロだからかえって目立つ。自分のこの戦車より何周りも小さい戦車を愛用してるライバル」


※あくまで彼女が一方的にライバル視してるだけです


攻撃手段がたった一門のロングバレルしかない変わり、威力と超長距離狙撃に特化した。


「前大会の覇者、屍姫号(かばねきごう)」


実弾じゃないから、エネルギーが続く限り連射も早く玉切れも無し。

ただし、いくら動力を積んでも。自然回復を上回る程うちまくれば、動けなくなる。


しかもあいつは、超電磁シールドしか防御機構を持たない。

つまり、シールドを抜いたらもうそこにあるのは紙どころか水に浸したモナカよりも脆いただのプラモデル。


つまり、武器も防具も動力頼み。

ただ、動力が切れない内は連射能力は速射砲並だし機動力もその動力を突っ込めばロケット並みには動けるし小回りだって子犬程度には聞く。


ただ、その全てに動力を使っている故に動力が空になると動力の自然回復能力すら止まるというそのピーキー能力故に使うユーザーは一パーセントも居ない。


その運用能力と、プレイヤーの狙撃能力だけで前回このゲーム大会の並みいる強豪をぶち抜いて優勝した機体。


「初運航で、最強の一角を担うプレイヤーと当たるなんて。流石にこの巨体は、目立って仕方ないわね」


しかし、何処か満足げに暗い笑いがこみあげる。


「撃ち抜けないはずがない、質量があって砲の数はこっちの方が上。射程は十二門ついてる四十八式ならギリ届く、長距離狙撃があなたの専売特許だと思わない事ね」


当たった場所は、装甲の厚いとこ。

ちらりと残り装甲ゲージとダメージを確認して、一つ頷く。


このゲームの装甲は、シールドと本体だけど。

本体の装甲はつけただけ重量が膨らむ上、重量が膨らむと速度が落ちる。


だからといって、極限まで装甲を捨ててシールドが飽和したら一発だ。


「だから、殆どのユーザーは装甲を捨てたりしない」


前大会の覇者にあいつがなった理由は、あいつの回避も砲撃もマニュアルだってこと。


豆鉄砲や石ころで死ぬような機体になんて怖くてのれるもんですか、普通の神経してたらね。


かつて、極限まで装甲を減らして航行距離と旋回能力をあげた機体があったけど。

攻撃力不足と、構造上の欠陥で攻略されたのよ。


「つまり、プレイヤーまんじゅう。あなたの様な、とんでもパイロット以外が乗ればたちまち棺桶同然」



そう、前回の覇者はダスト。


相変わらず、凄まじい横ロールで飛んでく。


砲の旋回能力より、早く回って急制動をかけられたら殆どの砲はオートじゃ狙いがつけられない。


プログラムの補正動作を読み切ったような動作、こちらの心理を読み切ったような動き。プレイヤーが画面の前で笑った気がした。


「魂がひりつく、地獄でこそ。ゲームに相応しい、強大な敵を常識から外れたものが撃ち破る方が物語は盛り上がる」


現実では、余程の事を除いてありえない故に。

人の心をうつのは、いつだってありえないをありえるにしてきたもの。


「俺はやれることは全てやってきた、俺はあのお方のペットなのだから」

箱舟のゲーム大会を盛り上げる為に、マンネリを避ける為に。


「俺に勝つ、花形プレイヤーの育成は急務だったという訳さ」


(あの方はゲームが大好きだ、見るのもやるのも)


シールドに実弾が命中して、火花になる度黄金が立ち上る。


「誰も使わない機体で、誰もやらない戦法で。誰も挑まない強大な敵に挑むっ、それが出来て、俺は俺の努力を証明できる」


ゲームには、楽しくなる敵。浪漫や選択肢、そう言ったものがあってこそ。

ダストは、エノとの会話を戦闘中に思い出す。


「結果が伴わなければゴミなのは、現実だけで沢山だ。そうだろ、ダスト」


ゲームは娯楽、過度な規制などクソ以下だ。

意味があって、ユーザーが喜ぶ。


儲かるのは、その結果でなければならないだろうに。


いいか、作り手とユーザーがまず先。

会社はあくまで、お互いの出来ない事を繋ぐだけでいい。


余計な事をして、ロクな事になったためしはない。

どっちかに肩入れし過ぎて、バランスを崩して作品がダメになった事だってある。



だから、公平で中立で。

その全てに理由を説明できない事は、断じてしてはならん。


「何のための箱舟だ?、外の国が規制をかけすぎ。余計な豚がほざくのを許さず、されど作り手がもっと表現力豊かに予算を気にせず作れるようにしているからこそ。この箱舟では、私以外の全てが報われねばならんのだ。ダスト、お前がそれを望んだのならお前はそれを叶える努力を最大限しなければ似非になるじゃないか」


(似非が、醜いのは見ためではない中身)


あの方は、見ないふりをしているだけだ。

中身も未来も過去も見えているから、ふりをする。


だから俺は、分体として。こうして、斜陽になったゲームを盛り上げるためのプレイヤーとしても介入して。


ゲームをやるプレイヤーだからこそ、たまる不満を。

創り手のゲド達開発チームと共に、バランス調整やイベントを考える。


「箱舟には機材も予算もある、何より最高決定権を持つのはダストお前だ。時間が必要でそれもないというのなら、私が何とかしてやろう。もちろん、有料で…だが」


誰も喜ばない、そんな事は私が許さんから安心しろ。

終わった時、惜しまれて泣いてもらえる位に。


「もっとも、箱舟ではユーザーゼロで売り上げゼロでもサ終にはならない。リソースが捻出できなければ、アップデートは流石に出来ないが」


なんせ、サーバーも電力も回線でさえ私が言えば幾らでも用意できるからな箱舟は。


「ありえないを実現するための、その箱舟の長として。ありえない敵になる、されどゲームのルールと能力の限界値は越えずあくまで手動」



なぁ、ダスト。


チートはくっつけた、違反だから嫌われるのさ。

ただ只管プレイヤーが練習して、努力して人間辞めた生活をしてまで手に入れた腕前がチートに見えたとて誰がそれを嫌えるんだ。


堂々と言えばいいのさ、俺はこのゲームを愛していると。

全てをささげて勝っているのだと、言えばいいんだよ。


だから、大会で全国放送の画面で俺は人型になってそれが全て手動であると言う事を証明した。


一日二十四時間のうちたった二時間、それ以外の全てをたった一つのゲームにつぎ込んだなら。そして、それを年単位で続けてみろ。



「バカじゃねぇのと言われても、それで生活どうすんのと言われても」


お前の事を、チートだ反則だと言う奴はいなくなるさ。

椅子で寝ている事すら、証明しているのだからお前は。


「それが、嫌ならお前も同じ土台でやればいい。同じ生活をしてみればいい、それがどれだけ過酷が思い知る」



手元カメラだけでなく、画面をリアルタイムで映す事すらやってのけて。

お前が人じゃない分体だから出来る事だが、人に見えたならそれはそれで怖いかもだが。


トイレと風呂以外は睡眠する姿すら全て、画面も手の動きも見せて尚文句が言えるなら言ってみろ。


口先だけで証明しないのなら十万人以上を殺した、歴史上の思想家とかわりはしない。


眼の前の、巨大戦艦を見て。

ダストはエノの気迫と台詞を思い出しながら、それでも懸命に食い下がる。


「このゲームを、愛している…か。ユーザーにも、開発者にも、作品は愛されてこそか」



技術は実用性を求め、娯楽は愛されてこそ。


「リマスターに溺れ、サ終を繰り返すどっかのゴミメーカーに言ってやりたいですよ」



熱意でご飯は食べれないという、儲からないと言う連中に言ってやりたいですよね。


「我々は、そのアホみたいな思想で世界五指に入る巨大企業連合群なのだと。世界で五指に儲かっている会社だと胸を張れ」



決算書を投げつけて、財貨を積み上げて。

儲からないのならお前達のゲームに夢がないからだ、楽しくないからだと指を突き付けて怒鳴り資本主義において儲からないのは必要とされないからだ。


貴様らはただ滅びて居なくなれ、それが市場原理だ。


「金は道具だ、夢を叶える為も人を追い込む為にも使う事ができるとても便利な道具だ」


もちろん、その道具は夢を創り出すことにだって使える。

道具は、同じ道具でも使い手が違えばもたらすものだって違う。


無いからどうこういうのであれば、調達すればいい。

我々は、別にゲームだけ作っている訳ではないのだから。


「なぁ、ダスト。報われると言うのはそれほど難しい、お前が目指すものはとても難しいんだ」


世界を見渡せば、ルールを作って孤児でさえ無料で働かせ。権利を取り上げ、飢えては人生ごと使いつぶされる人間がどれだけ居るか判っているか?


「私は、箱舟の中しか約束しない。流石に、それ以上やれば創造主にお小言を言われそうだからな」


ダストは、ゲーム画面を見つめ砲撃戦を繰り返しながら。


「箱舟に嘴を突っ込めるオーナーはただ一柱、神乃屑(貴女)だけだ。俺は貴女が泣かない為に、貴女以外も泣かない為の箱舟を作りつづけ。見境なくのせ続け、ゲームを盛り上げる事も生きる喜びを箱舟の中に提供し続ける」


(そうでなくては、俺はただの似非になる。そうでしょう、エノ様)


シールドが、僅かに被弾が多く。攻撃に回せる分が減ってきたのを確認し、回避に専念する。


「俺は、完璧にとはいかないか。当然だ、俺は神じゃない、ただのスライム。ただ分裂できるだけの、ただの努力を積み上げただけのスライムなんだ」



シールドが僅かに飽和し、そこを貫かれて翼に僅かに掠った。

それだけで、翼が融解し。機体が傾く、それを逃さず巨大戦艦の砲塔がすべてこっちを向いた。



巨大戦艦から、これでチェックメイトだオラー。と女の声が聞こえ、ダストは口元だけで笑った。



「愛されてこそなら、負ける事も必要か」



本当は、悔しいけれど。

必要ならば仕方ない、画面に負けの表示が中央にでかでかと。

自分が勝って失われるものが、俺の求めるものならば。

負け続けるのも、悪く無い。


一つ、ダストが両手をあげて背伸びした。


「やはり、他ごとを考えながらでは相手に失礼だったかもしれないな」


そういって、席から去っていく。

巨大戦艦型戦車の方から、女の勝利の雄たけびが響き渡り。



その様子は、スチュームで公開され話題になった。

ダストはチャンネル登録者数よりも、ライブの同接数が五倍以上を叩きだす。魅せるプレイヤー。

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