第百八十幕 催し

ここは、怠惰の箱舟はろわ。

その一枚の紙をみて、手が震えている男レムオン。


「これ、マジでやる気かよ」


その紙に書かれていたのは、スーパーアスレチック大会。

豪華賞品あります、と書かれていた。


例によって観客と参加者は、有給休暇扱いになるので振るってご参加下さい。

えぇ~、何々。最初は、偽物の橋が混じっている橋を渡る。


そして、次に。

全ての壁が扉になっている、迷路。

あぁ、はろわ職員が妨害要因として配置されてるのか。


これ、ゴールとスタート以外は小麦粉しきつめてんのかえらい平和な感じだな。


最期は、対戦クジ?

色のついたくじを引かせて色にちなんだ対戦相手が出ます、勝利してゴールにたどり着いた人全員に商品。


えらい大盤振る舞いだな、そんで対戦相手はっと。


……、見なかった事にしてぇ。

特に、金と黒と赤。



金:光無(最終フロアの門番)

黒:大路(邪神達の大長老)

赤:竜弥(神龍達のリーダー)



この辺引いたら絶対勝てねぇじゃねぇか、何考えてんだ。

逆に、緑、青、白はこれ負ける要素あんのかよって位の相手だな。



緑、妖精女王(サイズ人間の人差し指大)

青、猫獣人のさっちゃん。(五歳)

白、受付のおねぇさん。(戦闘力ゼロ)


上下の振れ幅あり過ぎだろ、こんなん引いた段階で勝負ついてるわ。


しかも、偽物の橋が混じってる奴これしばらくしたら追いかける役のモンスターが出ますとか書いてあるけどよ。


かつて、憂鬱や魔国を飲み込まんとした欄干のスタンピードを再現します。


「おぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」


そんなん再現されたら、橋を吟味するどころじゃねぇし何処走ってるかも判んねぇだろがっ!


誰が、そんな命がけのアスレチック大会に参加すんだよ。


まぁ、例え命の危険がある様なアトラクションでもやられたら敗者のお部屋に飛ばされるだけとかなんだろうけどな。


あぁ、やっぱりそうだ。


犬のぬいぐるみ着せられて、腹と背中に負け犬って。

あのクソが、センスが古いんだよっ!


レムオンはかつての、スタンピードを思い出す。

その戦場で、俺の仲間は傷ついて倒れ。


そして、死んだんだ。


それを、途中まで無視してやがった癖に黒貌が守りたいモノの為に戦いに行って死にそうになったら。


いとも簡単に欄干を叩き潰しやがって、あのクソニート。

そのまるで砂嵐の様に迫りくる、アンデットやら悪魔やら龍やらのスタンピードをたかがレクリエーションの時間切れの壁みたいに召喚するだぁ?


「ほんっとに、あのクソバカは何処までコケにすりゃ気が済むんだよ」


バーチャルリアリティなんて、技術もあるが所詮は幻で偽もの。

だがあいつの場合、どんなものでも現実を用意しやがる。


「スタンピードも偽物で済ませとけっつんだよ、プラネタリウムやるのに本物の宇宙一個用意するとかイカれてるにも程がある」


先日なんかふらっと遊びに行ったと思ったら、人間が魔国に戦争吹っ掛けてるその真上でコサックダンス踊りながらカップラーメン作りやがって。


クラウがキレて、天使があきれ果て。

何処の世界に、神の僕である天使にあんな顔させる神がいるんだって話だよ。


ここにいるぜとかいいながら、親指を自分の両サイドのほっぺたに当ててふんぞり返ってる幼女を思い出して溜息が漏れる。



あぁ、あれはそういう神だったわ。

にしても、毎回毎回よくもまぁ箱舟本店はレクリエーションを思いつく。


それ用のフロアをボンボン作るから、ここ百万階層以上あるんじゃねぇのか。


あのなぁ、本当くじ引きとかビンゴゲームとかダーツ位にしといてくれよ。


「豪華景品がマジで豪華だから、参加者が減らねぇんだよ。そして、参加者が一杯って事は俺達のお仕事も一杯あるってことじゃねぇか」


これ、自分でやるやらない選択出来る環境じゃなかったらどんだけブラックなんだよ。


「え~、何々今回の景品は…と。かぁぁぁぁ、マジで言ってんのかあいつ」



健闘したで賞:百万ポイント

各、項目で一名。


最期の対戦クジまでクリアできた参加者全員に、希望する飲食店の一か月何回頼んでも何を頼んでも無料券。


※予算は女神が全て負担します。


ただし、店舗の設定は一つであり。本人の注文以外には使えません、またこの権利で頼む場合シェアは認められずお残しのペナルティがあります。


どんな、高級店でも設定すれば支払い持ってくれる。


それを、「クリアした参加者全員」だぁ?

マジであのクソアマ、そんな予算が何処にあるんだよってあるんだよなぁ。



腐っても、神様の権力者だ。

用意するって言ったら絶対用意する、こちとら予算で震えてた経験しかねぇから余計にむかつくわ。



あぁ~、なぐりてぇ。マジで、あいつ殴りてぇ。


「そよ風程も効きゃしないの判ってて、ポイントさえ払えば殴らせてやるぞとか言われそうだけどそれでも殴りてぇ」


同じハロワ職員が、苦笑いしながら準備してるのをしり目に。

思わず、握る拳に力が入る。


「かつて地獄の日に、いろんな奴が手を取ってそれでもたった一柱(ひとり)に叩き潰されたってのは判ってんだがよ」


毎回毎回、その持てる力と頭の中身がつりあってねぇだろがっ!


ワガママかっ!!

お子様かっ!!


好き放題やりやがって、マジでロクな事しねぇな。


何々、観客席の予約と屋台各種は申請してね。ってこれ一枚目は甘酒の屋台か、水は水龍が用意する軟水の湧き水。



「はぁぁぁぁぁぁ?!」


レムオンは首が変な方向に曲がりながら、変な声をあげた。


「だから、何処の世界に一杯三百コインで売られる甘酒に中級ポーションの材料である龍と水精霊が管理する湧き水使用して、上白糖ガバガバいれて。煮詰まらないのに温める魔道具の鍋までつけて屋台やるバカがいるんだよ」


レムオンの頭の中で再び、両方のほっぺたに親指を当てながら「ここにいるだろ!」と輝く笑顔の幼女の顔が思い出された。


「あぁ、もう疲れたはずなのに。書類読んでるだけで、まだ疲れるのか」


頭をかきむしりながら、最近気になっている抜け毛がばらばらと床に落ちるのを確認して更に溜息がもれる。


「酒も、熱燗とビールだけ提供オッケーなのか。ビールはキンキンに冷やす事、ぬるいと指導が入るって。ビールサーバーもどうせかなりいい奴を、申請したとこ全部に出すって」


何が冷たくないビールはビールじゃないからだ、世界中探せばぬるいビールとかホットビールだってあるっつーの。


あぁ、何々。

そういうのはビールじゃないけど、美味しい酒ではあるからビールじゃない名で売って下さい。


「指導ってそういう?!なんでそんなとこだけ?」


レムオンは書類を確認してるだけなのに、溜息をついたり机に頭をぶつけたり頭をかきむしったりしている。


※平常運転の為同職員の誰も気にしなくなった。


「あぁ?喫煙所は匂いも副流煙も完全に分解する上で、世界の煙草が好きなだけ買って備える喫煙所をもうけてます。そこで、モニターで観戦できます。喫煙所以外で煙草を吸った場合軍犬隊が袋叩きにしますのでご注意下さい」


しかもこの煙草の自販機の値段一律百コインになってるじゃねぇか、葉巻も紙煙草なら二十四本いりの箱のやつも。


「ばっかじゃねぇの?!えぇ?これ好きなだけ買える様にしとくからそこで吸えってか、守らねぇ奴には容赦しねぇが安くしとくからって。安くなり過ぎだろ、どうせ大路達がはい喜んでーとか言いながら用意したんだろ」



甘やかすなっ、あの爺共めっ!!

黒貌さんも、ダストも、大路も、クリスタも。


「そりゃ、豚屋通販牛耳ってんのは大路んとこの長老だけどよ。何でも貸しますじゃなくて、何でもありますかよ。冗談じゃねぇぞ、全く」


書類仕事もダストがいりゃ、すぐ終わる。


「あー、信じらんね。あー、信じらんねぇぇぇぇ」


更に、頭をかきむしってそろそろ禿げになりそうなレムオン。


「漢研究所の申請書類だ、何々アナウンサーにスチュームの立体モデルを立体投影して使える様にする。アバターで飲食可能にする技術の使用許可だぁ?!」


思わず、顔に手を当てて天を仰ぐ。


「これ、スチュームから申請された場合全員に立体モデルで参加できるって事か?あのクソエルフ共、次から次へに何世代先に行ってんだあいつら」


立体モデルで飲食可能、センサースーツは必要なし。

専用照射カメラを一台置かせてもらうだけで、自由な動きとトラッキングを保証します。


カメラは、ドワーフが設置に伺います。

お酒をサービスすると喜びますので、是非っ♪。


「後で、ゲドんとこ話を通さなきゃだめだな。トラフィックに余裕がなけりゃ、増設申請しないとダメだ」


きっと、ゲド達も俺と同じで「あぃぃぃぃぃぃぃえぇぇぇぇぇぇぇ?!」とか叫びそうだ。


はろわの受付やってる俺達がドン引きする位、求人募集毎月やってるがそれでもアイツは頭抱えながら箱舟全体の無茶ぶりに全部答えてるってんだからな。


あぁ、疲れたコーヒー飲みにいこ。

是非♪っじゃねぇだろ、ったく。

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