第百七十九幕 羽が降る日

それは、黒い空が広がる日。

それは、ゆっくりと歩いて来た。



私は、あの姿を忘れない……。


食料が底をつきそうな、戦場で怪しい仮面と傭兵が必死にここまで食料を届けてくれた。


その、仮面が何かを叫んだ。


声にならない程、何かに驚いて。

仮面のお方と比較にならない程の黄金のオーラ、槍や剣を携え。

白い羽をもつ天使達が降りて来た、全員が胸に花をつけ。

その幻想的な姿に、敵味方の手が止まる。


まるでマスゲームの様に、規則正しく。

どこの軍でも、あれほど機械的な動きはできまい。


それが、仮面の傭兵の前で止まり左肩に手を置いた。


「私達も、お前に手を貸すことにした」


仮面の傭兵は肩を竦めて、「天使は、神の命令じゃなきゃ動けないんじゃなかったのかい?」


そうだ、天使は神の僕。


「我らの神が、いい加減すぎてね。自分で決めろとさ、それで私達はお前に加担しに来てしまったという訳よ」


クラウはさっき戦場の上で、カップラーメン作りながらコサックダンスを踊ってた幼女を思い出して溜息をついた。


「あぁ、確かにお前らの神はあれだったわ…」


天使でもあんな顔するんだと言う表情で、全員が苦笑いを浮かべているのが判る。


ねぇ、仮面のお方。

神にあれ呼ばわりは、大丈夫なんでしょうか。


神とはそれだけで、良くも悪くも超越した存在。


そしたら、天使の一団を率いて来た翼の大きな天使がだってなぁ~みたいな声をあげこういうのだ。


「少なくとも、私達が仕える神はそんな細かい事を気にしませんよ。細かい事どころかもっと大雑把でいい加減で、嘘つきでそれはまぁ屑を絵に書いたようなお方ですからね」


むしろ、私達はもっと世にその眼と力を配り見届け。そして、手を差し伸べて貰いたいぐらいですよ。そういって肩を竦め、真剣な表情になった。


「ねぇ、クラウ。私たちは、あなたのつく方につくわ」


その言葉に戦場の視界に入っている全ての人間が固まった、天使といえば神の僕。


神に命じられれば、消滅する事もいとわずそのスペックは一人で英雄にも匹敵するという。


「援軍としちゃ最高だけど、あいにく俺は素寒貧でギャラはでないぞ」


仮面の傭兵が肩を竦め、それに天使が微笑みながら言った。


「ふふっ、おかしなことを。貴方からじゃなく、我らが神にたっぷりがっつり要求しますよ。働いたのなら、ギャラを出せとね」


そんな事をいう、天使はきいた事がない。そして、それを許しているあの天使達の仕える神とは一体。


「じゃ、お前らはこっち側でひたすら守っててくれや。誰も殺さず、裏切らせずただ守ってくれ」


アンタらは敵でも殺したくないという甘ちゃんだからな、殺せない訳じゃないがそれでも気持ちはあるもんだ。


「了解、皆聞いていたか?。この魔国の国境を、何人たりとも、越えさせてはならん。ミサイルも、毒も、物資も、病も、全部だ。戦車や、戦艦も全部構わず撃ち落とすのよ」


そう言った瞬間、光が何本も天へ上がり。幾重にも編まれた魔法陣がまるでフィルターの様に天使達が拒否した全てを遮断していく。


(凄い、ただ私達はそう思った)


それを何でもない事の様に、天使達が苦笑して言った。


「我らが神と比べれば、我らなぞどれだけ束ねても棒にすらなりはしません」


仮面のお方と天使のリーダーが苦虫を噛み潰した様な表情をして、それを守られる人々は更に困った顔をしていた。


特に仮面のお方は仮面の上から、はっきり判る位には嫌悪して。


「我らは守る事はできても、威力を選別して当てたり。この世の何処からでも何でも結果を改竄出来たり、売国奴やスパイだけ結界の外に弾きだすなんて芸当は出来ませんしね」


そんな、真似ができる幼女は今現在戦場の上でケバブの様にくるくると縦ロールしながら魔法陣に影響を与えず外と中を行ったり来たりして遊んでいる。



天使の一部はそれに気づいて、更に溜息を洩らしながら人の国の武器を阻んでいく。




(神槍:永遠邇詠雨友情(しんそう:とわにうたうゆうじょう))



天使の一人が投げ槍を投げそれが、天高く雲を貫く。


一瞬で黒い空は、槍がうちぬいた場所だけ青空が広がり光が降り注いだ。

そして、天から竜の吐息がごときブレスが雨の様に聖属性のレーザーとしてまるで流れ星でオーロラを描く様に。



「大丈夫ですよ、ミサイルの砲台だけ壊して人は死んでませんから」


槍一本投げただけで、それを何でもないようにやる天使は笑った。


「槍をくれっていったら、これを貰ったんですよ」


それは、純白と白銀が入り混じる。虹の尾を引いて飛んでいく、凄まじく美しい槍。

槍には三人の天使が彫り込まれ、三人が掲げた槍が先端の刃を形成していた。


「共に支え合う、お前達は何より美しい。美しい槍が欲しいなら、形はこれだなって言ってね。投げても戻ってくるし、折れてもすぐ直る。それは、お前達の友情の様だろ?なんて笑ってね」


私は、同じ屑でも約束は違えない。


「お前達の変わらぬその友情に、見合うものをくれてやる」


お前達の、その闇路を切り裂く。

お前達、三人の力でな。

お前達は、一つだ。


その槍は、お前達三人の心を原動力にしている。


「闇を貫くのはいつだって、希望」


そして、刃を下に地面につけば。

天使を中心とした、一定エリアから天使の羽が美しく幻想的に舞い上がる。


怪我人の、怪我に羽がふれれば怪我は跡形もなく消えていた。


「凄い、なんて槍」


誰かがぼやく、それを報酬としてよこしただって?その神は。


「お前達の友情が永遠である限り、その槍は魔力も導力も存在値さえ要求せんよ。お前達の心が美しくあれる限り、お前達を無限に助けてくれる」


見せかけの友情などではない、本物の友情にこそその力は相応しい。

仮面の傭兵は、その様子を呆れる様にみていた。


お互いを支え合う、お前達の様だろ?


「やっぱ、あのクソ神マジで働けっ!」


クラウがその場で地団太をふみながら、地面の石を蹴っ飛ばした。



(その気持ちは判る)



「正しい報酬を渡さないものが、神様ズラしてんなよか」


天使の誰かが呟くように、言った。

その時、ドスの利いた女の声が天使の頭に響く。


「さぁ、お前達三人が全員でその槍を握り天をついて叫べ。言葉は、何でもいい。三人の言葉と心が一つになる時、その槍は必ず応える」


答えるのは神じゃなく、私の様な屑じゃない。

それに答えるのは、志を同じくする隣人さ。


三人だけに聞こえたその声は、間違いなくエノのモノだった。


「何度でも、応えてくれるというのかこの槍は」


クリスタも、友情をはぐくんだ二人も魔法陣への参加を止め槍を持つ天使の元に集まった。



「「「我らのかわらぬ友情と、我らの屑神への万感の想いを込めて……」」」


そこで、三人は深呼吸して三人で持つ槍で天を掲げながら叫ぶ。


「「「私達はっ、貴女が大っ嫌いだっ!!」」」


声が重なると同時に、槍が三つに分かれた。


それぞれ、彫られた自身の槍がその手に収まる。

そして、槍から力が流れ込んでいく。


それを、満足そうに頷いている幼女が居た。

そして、背を向け。


「神は生きてるものに好かれてはならんのさ、だからそれでいい」


私が一方的に好いてるぐらいなら問題にはならないが、全てに愛される神なんてのはこの世にいてたまるか。



(都合のいい神なんか、この世に存在しないのさ)



「だがな、私はいい加減で大雑把。それでも、報酬だけはきちんと払い約束を守る」


だから、勤労に励むお前達に私からのサービスだ。


働くとはな、本来命の営みであり。

生きる為であり、希望であって。


経済や国というものは、労働者が心から希望を持って生きたいと願わねば成り立たない。


それを、支配に搾取に中抜き等と重りばかり増やして希望など持てるものか。

三人の天使達が光輝き、その槍を持った天使の翼が六枚になっていた。


槍からは、聖女と同じ黄金のオーラが吹きあがり。


「それだけの力があれば、守りたいものぐらいは守れるだろう?破壊や殺しより、無力化の方がより力がいるものだ。さぁ希望を望み、両手に敵う救いを心続く限り行えばいい」


その槍は、お前達の敵にしか当たらない。

威力を伝えない、だから安心してその力を振るうといい。



それだけ言って、幼女は空から消えた。

六枚の翼をもつ三人が、思わず変な顔になった。



「私達は、女神エノは死ねばいいと思っています。でも、エタナちゃんは大好きで大切でずっとずっと私達は彼女をニートのままにしてあげたい」



あの神は、己が叩き潰す時いつも悲しそうで辛そうで。

だから、我らは働く。

守りたいものを救うために、守りたいものに手を差し伸べる為に。


「「「我ら天使一同は、貴女をエノしない為に働く!」」」

それが、主神の為になる。


それが、どこまでも天使だからだ。

それに、我らが神は。


己の為、己の成したい事の為に必死になるものを喜ぶ。


それが、例え邪悪でも誰かを救う事でも。


「従僕はいらない、そんなもの居た所でしょうがないだろ?」


少なくとも、私にはな。

優しく笑って、エタナ様はそう言いそうだ。


貴女は、きっと大切な誰かに祈られたり頭を下げられるなんて冗談じゃないと本気で思っているんでしょう。


貴女は、どこまでもそういう神だ。

だから私も貴女に、こういい続けよう。


「私達は、エノに従うなんて冗談じゃない。私達の主は、ずっとエタナ様だ」


私は、天使。何処までも、貴女を崇拝しています。

貴女は幾つも顔を持っているけど、その心はいつもお優しい。

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