第百四十六幕 宴会
※時系列としては去年の様子をベースにしています。
ここは、怠惰の箱舟飲食店フロアの一角。
食べ放題飲み放題を売りにした、雄御(ゆーご)。
ここでは、竜とドワーフが凄まじい勢いで忘年会という名の宴会をしていた。
まるで、海の亀裂に吸い込まれる様に酒が消費され。
担当者が、酒製造フロアから五分おきにタンクを持って往復する事態になっていた。
途中からはろわにヘルプを出した結果、転送魔法でタンクの直上から滝の様に落として対応し酒の匂いが結界内では充満しまくっていた。
結界の外では、飲食店街の店長たちがつまみ要の屋台をまるで千本鳥居のごとく道の両サイドに作ればこれまた凄まじい勢いで在庫が掃けて無くなり次第店を閉めなければならないという事態になっていた。
※ちなみに、毎年恒例。
お一人様、一匹様問わず。一時間で五千コインと安くは無いがそれでも箱舟の飲食店では売った分が全て手元に収入としてくる関係で声が枯れて手が上がらなくなるまで売り続けた。
場所はクジだが、場所代は取られない。
在庫は時間停止倉庫に仕込んだぶんだけだが、材料は安く上げるならあらかじめ注文しておけばいいし、高くてもかまわない臨時なら豚屋通販が対応している。
ただ、値段設定と衛生管理等をしくじると権利取り消しになる為に申請書類はテンプレート化こそしているが真剣に取り組まれている。
ちなみに、宴会に参加しない場合は参加した場合の食べ放題金額で八時間分がボーナスに上乗せされて入ってくる。
しかし、ドワーフも龍たちも大食漢であるため貰ったはしから食べ物飲み物に消える事が判っていて結局宴会に全員参加しているのが実態だ。
来ないのは、黒エルフの嬢ちゃんぐらいである。
全員が男女問わず、雄雌問わず凄まじい臭気を漂わせニンニクや醤油や酒の暴力的な香りが外に漏れないように結界をいつもガチガチにはっている。
※ちなみに、これもはろわが対応しているのではろわの仕事は全然減らない。
選択肢は労働者にあるため、帰りたいですと伝えれば早退でも余裕で帰れるがはろわ職員は定時で帰るルールがもしなかった場合仕事をしながら明日の朝を迎える事は確実である。
箱舟各所での代休申請の際のヘルプや一般的な行政機関の許可申請から書類作成までが全部はろわの仕事であり、一口にはろわ職員といっても裁量権がもたされているだけで出鱈目な部署の数と職員数を誇る。
例えば、過去にさかのぼって書類を精査しろと言われた場合に五年ぐらいさかのぼったとしても女神に申請した場合はポイントぼったくられて二秒で結果の書類が耳を揃えて出てくるが。職員に頼む場合は対照表やら、ふり直しやらで数字がぴったり合っているか全てチェックしながらやる為におっそろしく時間がかかって作業量も膨大になる。
外で労働者が、宴会とカラオケと酔いつぶれたもののいびきで、大変な事になっていようが。
はろわ職員は書類と、チェックと音速で帰ったもののフォローで大変な事になっていた。
「かぁぁぁぁぁ、終わんねぇぇぇぇ!!」
レムオンが、今もインクが空になったを筆記具を一本投げてそれはゴミ箱にガコンという音とともにきっちり入った。
筆記具と壁に書かれた場所に行き、正の字を一本足すと引き出しから新品を取り出した。
一々申請しなくてもいいのは楽だけど、そうしなければ回らない程はろわの書類は多岐に渡る。
筆記具のインクが一日一本から三本程度、一人で消える程度には箱舟事業部が回している書類は膨大だ。
仮想システムを組む、ゲド達が頑張って仮想化を進めているがどこかの黄金スライムと幼女が山の様に仕事を増やすためエンドレスマーチと化していた。
仮想化が済んだ所は、印刷やらソフト内で回せるところは全て回しているがゲド達だってはろわからの仕事だけやってればいい訳ではない為にこうして仮想化できなかったところの部署は相変わらずレトロに書類を回しているのである。
余談ではあるが、仮想化する事によって大量の書類やテンプレート化できるものは割と回っていくが許可申請等の確認やチェックをいれなければならないものは余白や裏側さえ通る場所全てが確認している。
※確認を怠ると怠ったのはダストにばれるので、責任を取らされる。
こうして、レムオン達の様に割りを喰った職員は(自分で出勤を申し出たとはいえ)地獄を見るのである。
「だぁぁぁぁ、畜生。俺も、忘年会行きゃ良かった。いやいや、側近の蘇生費用を稼ぐんだろうが。辞めるなら稼いでからだろ、俺は何を血迷ってんだ」
という自己暗示を実に一時間ごとに繰り返すレムオン、そろそろ壊れかけだ。
もちろん、軍資金∞と人海戦術が箱舟連合の特徴なのでゲドの一族は毎月ヘッドハンティングと新卒を取り入れて、教育して、まるで虫でも繁殖しているかのように戦力を増強していても箱舟本店が扱う部署が多すぎてこれで破綻しないのはダストが無限増殖して自分で埋めているからだ。
勿論、外注も頼んだ事もあったがシステムが高度過ぎて何処も受注できなかった経緯がある。
それほど、ゲドの連中の技術力は高い。
何年も教えれば、膨大なシステムの末端ぐらいはアクセスできるようになるが教えながら仕事を回すというのは想像を絶する程労力がかかる。
箱舟でもっとも働いてるのは、本店最高責任者のダストだというのは周知の事実。
大体、仮想ストリームを支えるメインサーバーが大陸と同等のフロア全域に極寒の環境作って入れてあるのである。
冷気に対応した種族かつ、ゲドの一族と同等の知識量と、ダストの審査を潜り抜けたものしか入れないフロアに並べられたそれでも間に合わなければ同等以上のストリームを二段目三段目と増やしていくのである。
※その威容は大陸全ての陸地に巨大な墓場の墓石がならんでいる様な状態になっている
本店の百万階層以上あるフロアのインフラと、外部の仮想連結を可能にするこのシステムがあるからこそ箱舟側で遅延する事はないのである。
無線で遅延も、接続切れも発生せず。(本店限定)有線でも、物理的な減衰以上のものは絶対にないと断言できる。
幾重十重にも保険がかけられ、一秒以上のダウンを許さない驚異のシステム。
ドワーフ達と、エルフ達と、外部技術者が外部で作ったものを搬入したものを組み合わせて作られたこれのウェハを始めとした部品工場が全部箱舟本店の所有物。
部品ではなく、工場そのものや開発チームが全部箱舟連合の総力を結集したシステムではあるのだが。デカすぎて、全容を理解しているのはダストとゲド位というオチがつく。
そう、そんなシステムがあるにも関わらず。未だに筆記具でしこしこ書かされている部署があるといえば箱舟本店の業務量が理解できると思う。
だからこそ、蘇生費用などという馬鹿げた額のポイントが数年で溜まるのだが。
箱舟本店は、報酬も待遇も青天井だが暇な部署は全くない。
消耗品ごときでぶちぶち言われる事など皆無だし、欲しいと言えば人でもモノでも金でも揃う。
設備や工場やラインすらくれと言えば、明日に稼働できる状態で揃うのが箱舟本店だ。
※揃える連中がいるだけだが。
「それでも、この仕事量は殺人的だろうよぉ」
泣きそうになりながらも、レムオンは申請書類を確認しては済と書かれた箱に投げ込んでいく。
済と書かれた箱は一杯になったものが、もう六個は床に転がっている訳だが。
一時間置きに、空の済と書かれた箱が変わりに置かれて回収されていく。
別の、職員は今頃整合や調整やらしてんだろうな。
もっと、細分化しろよ。行政も保険も外との調整もうちがやってるとか、組織がデカすぎるだろ。
普通末端とトップの距離が開けば開くほど眼が届かなかったり、何言ってんだこいつみたいな命令が飛んでくることが多いのだが肝心のトップが無限増殖で人数の帳尻を合わせている為大体の現場の状況をトップが一番判っているというオチまでつくのが本店の今の現状だ。
そして、レムオンの様な一般的な連中はこう思っているのである。
「お前みたいな超生物と、一緒にすんじゃねぇ!!」と。
大体、箱舟グループは軍需産業以外殆ど網羅してんじゃないかと言う程の世界企業の連合だ。
世界第二位の投資銀行に、世界一位の仮想通販、世界一位の流通網に、世界三位の音楽レーベル、世界二位の遊技場グループに、世界三位の仮想ストリームサービス。
仮想インフラが世界一位で、動画配信サイトと物理インフラ作ってる会社が部署だけ違って同じ会社ってんだから規模がおかしい。
グループに所属して本店の幹部会に出てくる連中の殆どが、世界五位以内の会社ばっかりだ。
その保険や税制、交渉事やら裁判関連や権利関係なんかも全部本店はろわに回ってくるのでそりゃー酷いものである。
独占にならないのは、外の会社で張り合う会社が一社から四社ある様に箱舟側が調整してるからだ。
だから、ストリーム系は一段劣る様にしろとかそういうのを幹部会で決めてやがる。
「幹部会の連中が幾ら言いたい放題やりたい放題言ったとしても、ダストが現場のバイトより現実を知ってるのでギリギリ止まってる状態だからなぁ」
末端のタイヤ屋や部品工場、修理屋から個人商店から病院の患者の容体までグループ内の事でダストに判んねぇ事がないってんだから。
「まさか、養殖場の餌や海流調整その日に誰かが言った愚痴まで判ってるとは思わねぇよな…」
軍需産業に手を出さないのだって、そんな余裕がわが社には無いっていわれりゃその通りだ。
そして、その有能スライムの直接陣頭指揮を執ってる場所がこのはろわだ。
求められる水準が、他の部署とはケタが違う。
「報酬が程々でいいやつは帰るし、欲しいものがないやつも帰る」
俺みたいに、欲しいものに懸命に届かんとするものだけが残り酷い目にあうのである。
「全く、あっ蒼覇(そうは)さん」
蒼覇と呼ばれた女が、レムオンさんご苦労様ですと差し入れを置いて行った。
「どれどれ…、おっ美味そうじゃん」
茶色の小さな紙袋に、入れられたそれは弁当とお茶が入っていた。
肉が瓦の様に並べられ、野菜などの彩が三分の一を占める大き目の弁当箱に入ったそれはレムオンを喜ばせる。
「一個三千五百コインの、特牛炙り弁当じゃねぇか!!」
思わず値段をみて、突っ込みをいれずにはいられない。
ちなみに、お茶は缶の四十コインの奴だ。
蒼覇と呼ばれた女性が、今日は当番らしく全員に同じものを配っているのを横目にレムオンは何とも言えない顔になっていた。
「全く、これが当たり前みたいに出てくる所が箱舟本店のやべぇ所だよな」
普通は、良くて三百コインのカレーライスだろうが。さらによくて、海老天やらがのった奴で四百コイン位のやつか?
一食三千五百コイン、それも差し入れって今日出社した奴全員に配ってやがる。
末端から上まで、選べるコースでだ。
別にこれ、特別な事でも何でもなくて弁当屋が機能してない時はほぼこの水準のモノが差し入れられてる訳だが。
「肝心の弁当屋に頼むときも、梅コースが百コイン、竹が三百コイン、松が千コイン」
それが、自己負担の額なんだが。
一食だけ松を頼んでみたことがあったが、旅館の舩盛みたいのが出て来たからな。
割引価格って、どんだけ割り引いてんだクソが。
※箱舟本店では標準仕様ではろわだけが特別と言う事はありません。
「まぁ、俺は普段十二夜で食うんだけどさ。ほう助で同じような金額ぶち込まれてた時は頭抱えたわ」
もうなれたけど、ここのやり方には。
レシートを渡す→申請書類書かされる→規定ほう助分が振り込まれる。
レシート渡さないと怒られるし、申請書とレシートか領収書が、箱舟本店内の店ならはろわが審査書類持ってるから。審査して、全額次の給料日にぶち込まれる。
ここ、規定額だけのほう助じゃないの。って聞いたら、残念ながら比率ですって会計の連中に言われて。
「うっそだろっ!!」ってなったのは今でも覚えてる。
どこが残念なんだよ、アホかよ。
あぁ、弁当食ってご機嫌でデスクに帰ってきたら。書類のタワーが二つになってやがる。
「ノーン」思わずそんな声が出る、レムオン。
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