第百四十ニ幕 仮想の導き手
もう、年末か。
カレンダーを見ながらゲドの一族が慌ただしくして、ゲド本人はそっと目頭をもむ。
はろわの書類仮想化や、セキュリティ等も仮想に関する事はすべてゲドの一族が一手にやっている関係で年がら年中忙しい。
「まぁ、箱舟で暇な部署はねぇんだがな。暇を作る事はできて、休み放題ではあるが仕事がねぇ訳じゃない」
むしろ、世間一般の組織図からすれば出鱈目な作業量を一組織が行っている。
「これ、凶悪なトップダウンの仕組みがなかったらとっくに腐ってやりたい放題やる奴が絶対でるだろ」
他ならぬ、一つの組織の長であるゲドが苦笑しながら言った。
「力無き理想は無力、だからってこれはねえだろ」
この世で一番凶悪なマフィアである闇の一族と、人より盲信の塊である天使を従える支配者か。
大体、書類は全部仮想化されてる上で行政機関の機能が全部はろわに統合されてる上で調べたきゃ図書館で何人も好きなタイミングで書類取り寄せ放題とかどうなってんだ。
「調べる事が出来ないのは権限がないか、箱舟側が理由があってブロックかけてる場合だけだ」
エノの弱点やダストの弱点すら調べる事は出来るが、自分の弱点書いておいとくバカがどこの世界にと思うが奴からすりゃそれだけやっても負けようがないって事だろうが。
つまり、ブロックかけてるならそれ以上の理由があるわけだ。
理由は教えてくれるが、それでも見られない情報があるのはそうだ。
例えば、個人情報でも開示請求が妥当であり。かつ、箱舟所属の場合はそれすら個人に選択肢があるんだよ。
「つまり、見せない申請を本人がした事実があれば見られない」
逆に言えば、箱舟は自分で決めた選択肢を何処までも尊重するが同時に申請してない事にはルールに沿う以外何もしねぇんだ。
ルールの骨は箱舟が始まった時からかわってねぇが、バカが余計な欲をだしたり余計な事を考えると一度それをご褒美に認めつつ次からルール違反になる様にルールが追加される訳だ。
ルールが追加された理由と、ルールが追加される原因を作った奴の名前と日付付きでな。
「書類破棄のルールは明確、保管年数は書類の右上に消えない印で押してあるしこれを一度押されたらどんなに捨てようとしても燃やそうとしても書類は消えねぇんだ」
それを、書類作成時点で明確に決めてる。
「一度作った書類は、女神の承認をえなければ最高責任者のダストですら変更も取り消しも出来ねぇ。これが、メモ帳や覚書レベルにまで徹底されてるのが箱舟本店だ」
変わりにクレーム紛いに連打して、申請することやがみがみいう事は認められてない。
「そういう、ワザとイライラさせてミスをリードさせるやり方すら認めない為にルールが存在するからだ」
ゲドは年末のカレンダーを見て苦笑する、どこの世界にそんな根幹システムを司る部署が強制的に年末休みをもらう会社が存在するのかと。
※箱舟本店では、定時帰り残業早朝出勤選択しない出張シフト無しで休みまでが強制。
十二月二十日から一月十日までが、祭りに出店申請等している等の一部の連中以外は全て強制休みだ。
※五月に二週間休みもあって、申請してない部署や個人が仕事をする事は許されない上で申請書類に代休日付を書かされる。そして、上記書類とルールの存在により代休を休まないと強制執行があるというオチだ。
例外に指定されてるのは、楠種の様に命にかかわりながら病などを理由に何が起こるか判らない場合。その場合は、命を守る為の出勤であり代休申請は一か月以内であれば後で申請しても良い事になってる。
※ただし、これも忘れると軍犬隊とはろわが来ることになるが理由と予断を許さない為などのやんどころない理由があって書類の延長申請をすればちゃんと通る。
はろわの職員が各職業のプロとして、代休申請日に代休取らせる為に人員配置してくるわけだ。その為の日付申請、これをしくじるとはろわ職員からは笑顔で圧かけられるという訳さ。
今ゲドがお知らせを更新しているのは、年末の恒例行事と言う訳だ。
(箱舟仮想部、最高責任者ゲドの名でトラブル対応や問い合わせは一月十日以降に対応する事になる為お時間を頂く事になります。あらかじめご了承の上、お問合せ願います)
何処かの国の敷地面積よりでかい、サーバールーム。
常時冷気が充満し、転送陣以外で入る事が出来ない。
その転送陣がそもそも二か所しかなく、ダストやゲドですらその転送陣からそのサーバーの配線を行って全エリアに広がっている。
ソフトもハードも自動修復と、学習機能がついていてそもそもサーバーが落ちる事も回線が切れる事も決してないのだが。
「システム屋からすれば、正に夢のシステムだ。学習機能のAIがトラブルの振り分けまでやるんだからな、ただこれらで解決できない部分や外部仮想のトラブルがゼロじゃねぇから俺達が必要ってだけだ」
外部仮想は自動修復もないから、線やアンテナ施設して保守費用払ってなんてザラだからな。
この、眼の前のシステムが頭おかしいだけだ。
大体、箱舟は与えられるばっかりで税金や保険みたいに取られるものがほぼ無い。
「じゃぁ、どうやって外部組織の箱舟連合とどうやって帳尻合わせてるかっていえば。箱舟連合という複数の組織の連合としてそこに属してる入出金ははろわの会計部に投げられて、はろわがアルカード商会に申請して魔国にはアルカード商会から税金や年金等が払われてるって寸法だ。だから、箱舟連合と箱舟本店に居る連中はびた一文税金は払わなくていい」
何がすげぇって、この会計部に投げてる処理も目の前のシステムが実質やるから会計部の連中がやるのは精々確認位だってオチなんだよ。
不正をさせない為に、ミスをしない為にチェックする段階を増やしてそのチェックがシステムに自動で入るからここで不正なんかしたら即システムに弾かれてバレるって寸法だ。
後、手抜きなんかのチェックもしてて直ぐバレる。
これは、システムじゃなくて女神の方がやるんだがな。
システムがはじいたように見せかけてるが、実質奴が弾いてるんだ。
「なんでそれが俺に判るかって言うと、そのシステムは俺らが作って設計したからなんだがな」
死なない保証のあるハードと、無尽蔵の予算。
それらが可能にする、ふざけたレベルの自動化。
普通書類保管なんてのは、時間経過で管理がずさんになるわ文章に一貫性が無いわ。
時間経過で紙がダメになるのがザラで、仮想にしても仮想サーバーの完璧を人的エラーまでさせない保証が出来るなんて事は無い訳よ。
大体、保存する場所は紙なら土地が仮想ならサーバー容量が居るのが普通だ。
一度はろわ会計部に投げる理由がこれだからな、箱舟本店はダンジョンで最高責任者のダストが承認さえしたら無尽蔵にフロアを増やせるし広げられる。
「どこの世界に、土地の心配から物質風化まで心配しなくていい管理があるというのか」
ここじゃシステムを通る文章は、どいつが何かいて、いつ書いて。何思って書いて、何考えて書いて。って事は全部システムに残るんだよ。
「絶対責任逃れさせない、忘れました消しましたってのが出来ないからな」
まぁ、一部を作った俺でさえ見る事やメンテナンスは出来ても改ざんはできねぇんだが。
独裁国家より酷いレベルで管理が出来てる半面、ルールに接触しない部分はすこぶる自由なんだよなぁ。どんな国より自由だろ、間違いなく。
なんせ、リテラシーや下ネタで外だったら国によっては回収ものの商品ですら豚屋通販で普通に買えるんだからな。
そう、通販だ。
文字通り電話一本、天気屋だってあれ豚屋の一部署だからな。
「どこの世界に、雨だ雪だ晴れだ熱くしろ涼しくしろという要望を国と同サイズ以上のフロア丸ごとで叶える通販があるのかと。しかも、自分の周りだけそういう天気にしてくれとかいう要望も料金次第と来たもんだ」
ここの社員には、ポイント決済用の腕輪と通話料も維持費も事務手続き等も丸っと箱舟本店から与えられるスマホがあるし。専用回線の備え付けは何故かダイヤル回すタイプの黒電話だ。
「最初聞いた時はなんでや、って思わず突っ込んじまった」
まぁそれは女神とダストの趣味だって聞いて、更に意味が判らんとか俺は思ってるが。
それでも、アプリからゲームまで通信関連から仮想インフラに至るまで俺らの管轄。
外のもんもちゃんと動くし、そもそも箱舟のスマホはそれっぽい何かだ。
「どこの世界に充電が全く必要なく、アップデートに悩まされないスマホがあるというのか。箱舟本店のスマホは、電波切れも無いしな。箱舟本店の中だけしか使えないという制限があるのは、外の連中にばれたらまずいからだろ」
そんなん誰だって欲しいわ、つか管轄の長の俺でも最初聞いた時あんまりの事で煙草の灰が足に落ちてから意識が戻ったわ。
何がすげぇってあれ画面が小さいのがスマホの弱点だと思うだろ?
画面左上を下にスライドすると、メニューが出てくるんだが投影ってとこ押すと自分の画面を自分にしか見えないメニューでテレビサイズまで拡大して表示できるんだよ。
立体映像で、しかも操作可能なのに本人にしか操作不可なんだぞあれ。
見せる見せないのは選べるが、操作中はスマホ光るからな。
「そのくせ、歩きスマホとかポイ捨て煙草とかやると軍がかっとんでくる」
要するに、以前事故った奴が居て。その事故った奴の名前と事故った日付があるから、ルールになってる訳だ。
調べりゃ判るだろうが、誰だよ全く。ルール増やして、不便にしてんじゃねぇ!
あのスマホまだやべぇのが、各店の繁盛具合や待ち時間も表示できるうえで人気や待ち時間の少なさや値段で並べ替えがボタン一つで並べ替えられる。
そして、押したら即出前に繋がる上で決済もコインから抜かれるんだよ。
しかも、スマホの取り寄せって言ってまるで召喚物みたいになくそうが忘れようが左手に呼び寄せられる。
あれで、汚れない傷つかない割れないってんだから恐ろしいもんだよ。
そんなん、どっかの主人公だけ持ってるもんだろが。
それを、全員に無料配布してる会社が何処にあるというのか。
「それが、箱舟本店の常識だと聞いた時にゃ俺は死にたくなったがな」
仮想屋として、そんなむちゃくちゃな環境揃えられるとこで辣腕震えるのは心躍る。
大体生産管理ってなぁ、技術に理解のねぇポンコツ上司や客に無茶いわれて。
直すための部品が機械によっては、メーカーが無くなってたり生産が少なすぎて手に入らねぇとかザラにあるんだよ。
「ここは、電話で一本で特急頼むと五分でくるけどな。それに理解のねぇやつはそもそもはろわで弾かれてるから、客も担当者も理解は出来てる訳よ」
まぁ、それでもどうにもならない事があったら腕輪でポイント使って頼めバカって言われて終わりだ。
「どんな、要求でも叶えてくれるだろうぜ。但し、ヤベェぐらいぼったくられるがな」
コインと違って、ポイント貯めるのは楽じゃねぇんだよ。
「最初叶えて貰ったのが、絶対に眼と肩が疲れたりこったりしないこのモニターと椅子だが。椅子やモニターなら安いが、これ俺達の体の方をそうならない様にしてくれって言ったらべらぼうに高くつく」
出来ない、やらないと言われない事が心底寒気がするぜ?
大体、早めに来て仕事回してたりするだろ。普通は、定時内以外の賃金なんかでねぇのが普通だが箱舟本店は違う。
女神が仕事をしていると認める場合、一分単位で賃金はでるんだよ。
人間がきいてたら頭沸いてると思われるが、あの女神は原子元素の支配者だからな。
文字通り原子元素があれば、監視し放題なんだろうよ。
「プライバシーや人権どこ行ったって話だが、それが出来るから諜報やら政治の必要性がないのは確かだ」
だがまぁ、本体はともかくアバターの方は…。
「いつもどっかで遊び歩いて、黒貌の旦那に樽みたいに抱えられて運ばれてんだがな」
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