第四十八幕 アンリミテッド・グロッグ

私は、グロッグ。


かつて、私は世界の破滅と向き合い。


私の星を滅ぼそうとした、私の世界の創造神とガチの殴り合いをしたこともある。


確かに、人は醜い。


始まりから見守り、遂に堪忍袋の緒が切れた。

それが、私の生きている時代だっただけの事。


世界や星を創り出したとて、その星がどうなるかなど星に生きる全ての命のものなのだから。


私は殴り合いたかったのではない、判りあいたかった。

それが不可能だと判るのに、さして時間はかからなかったが。


星も世界も数多あり、生まれては消えるのだから。


人が嫌いなおかずをどける様な、些細な感情で神は星ごとどけるのだろう。


そんな私は、雀荘「悠」で飲み物を出したり。牌を拭いたり、雑用などをしながら。


ガラガラと、騒音の様な音を立てる自動卓がならび。

点棒計算を、牌を倒した段階で自動で行う。


引き出しや、リーチ棒を置く為のミゾをみながら。

数多の、種族がルールを守りながら笑顔でいる。


ここ以外の店も、手積みの店もある。


でも、私はこの「悠」が一番好きだ。


お店をやるのは大変だ、飲食店しかり雀荘しかり。

飲食店が何故三年以内に潰れるのか、原因は色々ある。


美味しいものを苦労して開発すれば、大手がマネをして客が分散してしまったり。

美味しい素材は、量が限られる上素材屋や問屋が裏切れば質をこっそり落とされる様な事もある。


雀荘等は機材があれば、誰でもできる。

誰でも出来るから、参入への壁が無いに等しい。

結果ライバルが増えて、値段の叩きあいや過度なサービスで自らの首をしめていく。


誰でも出来る事で、勝ち残る事は。

誰にも出来ない事で勝ち残るより、はるかに難しい。

戦いは数だ、相手が多ければそれだけ不利になる。


この怠惰の箱舟の様に、その不利を力技で解決できるような理不尽でもなければ結果は明らかだ。


この怠惰の箱舟は、同業種の店というのは驚くほどある。

しかし、最終的にははろわの管轄にいきつく。


つまり、全ての店の資本を借りる所や素材を仕入れる場所は一緒なのだ。

アイテムボックスで質も落ちず、如何なる素材も転送で五分以内で届く。

ポイントは借りられないが代わりに商売に必要な、店や素材等の現物は利息無しで貸してくれる。


一定期間以上借りたら購入を求められる、買えなければ借りれなくなる。

ポイントを払いさえすれば、それすら簡単に捻じ曲げて延長する事はできる。


貸出されるのは常に新品で、中古は一切ない。

ダンジョンの魔素に、中古品は変換されて新品をもう一回出す事もとあるフロアでおこなっている。


決済はポイントで即終わり、欲しいとこだけ欲しい分だけ仕入れる事が出来る。

保険や保証ははろわがしてくれるのに、税金や年金等は一切ない。

土地も、神が好きなだけ聖域を広げるので余り放題。


一番金食い虫であるはずの、軍隊すら維持し放題になっている。


全ての経済を知る人間が、この怠惰の箱舟を見たらまず思う。


「これで、何も成せない奴が居たらそいつはクソだ」


ポイントは才能も、能力も「買える」。


そう、そういう仕事を回してほしければ。

努力するか、買うかすればいい。


どこぞの国の様に、キャリアを積んで諸事情でリタイヤし新規一点新たな人生を歩もうとしても。


「年寄はいらねぇ」といって、働く選択肢がなくなるような場所ではない。


ここでは、「その若さですら、買える」のだから。


はろわが、その仕事を断る時は能力がないからで。

ステータスで、またはスキルで必要なものを書類で貰う事すらできるのだ。

知りたいのなら、昇給条件もボーナスのリザルトの計算方法も自らの市場価値すら正確無比なものを情報として出してくれる。



その、具体的な数値とスキルが全て紙で渡される。

そして、要件をみたしていさいすれば絶対に断らない。


雀荘では、飲食物を運ぶ事があったりお客様を待たせない為に卓に座る事もある。


つまり、計算ができて。麻雀をぶつことができて、笑顔がある。

私なぞは、笑顔の練習までさせられたからな。


怠惰の箱舟では、あらゆる種族や国籍がごっちゃになっているが。

ポイント決済用の腕輪にはあらゆる相互翻訳が瞬時に可能になる機能もあるため、言葉が不自由でも心で思う念話が出来れば区別も差別も問われない。


むしろ、ルールにイジメがダメだとか区別がダメだとかいうフロアでそれをやると犬共がスタンピートの様に襲ってくる。


(知らなかったでは、済まされない)



悪鬼羅刹や百鬼夜行が、鼻で笑えるレベルで特攻してくる。


雀荘にもイカサマありとイカサマ無しは、店中にも外にも明記してある。


イカサマは技術であるが、無しを選択できないのはおかしい。

という理由で、両方の店がある。

イカサマは技術として認めるというレベルのものなので、イカサマの現場を押さえられるとトリプル役満と同じ罰点を支払う事になる。


そして、イカサマ有の店はそれ込みの店員と客になる。


ちなみに、「悠」は無しの店だ。


無しの店でイカサマをやった瞬間、雪崩をうって軍犬共が特攻してきて店ごと灰になったという事例も知っている。


「隣の店の店員がやったからだ」


客側がやったらしょっ引かれるだけだが、店員や店長がやったら店ごと吹っ飛ばされる。考えても見て欲しい、二階建ての雀荘に四千キロメートル級の戦艦三十隻から集中砲火されイナゴの大群の様に完全武装の軍隊がなだれ込んでくる様を。

種族によっては距離で見えないこともあるが、私は不幸な事に見える側だ。


怠惰の箱舟は本人以外には決して当たりもかすりもしないが、それでも視界に入るだけで恐怖は十分に伝わる。


力場の影響で死にはしないが、手足が吹っ飛んで死にかけたりはする。

痛みを何百倍にもする効果付きの結界で覆ったり、やりたい放題だ。


冤罪があれば大事だが、こと怠惰の箱舟に限ってそれは絶対ない。


ダストの監視は、ひょっとしたら万が一そういったものがある。

だが、ここの女神の力は尋常ではない。


力場や原子など、魂等もそうだが存在があればそれを媒体に眼で見、耳で聴き、鼻で香りを感じる等の五感を持って接触でき。


現在、過去、未来の全てのパラレルワールドに思うまま記録をのぞく事が出来る、ダストは自分が見落とした時にこの女神に確認をいれている。


全く、そのような存在が居る事も驚きだが。

その女神の記憶は、まるで全ての存在を情報として扱う理そのものではないか。


その後、その店員は解体前の肉の様に吊るされてそれはもう酷い状態になった。


当人以外は一切、御咎め無しでアフターケアもきちんとしている。

でも、当人はしばらくはろわの受付で前歴持ちとして色の違う紙で処理される。


職業案内で、前歴持ちお断りの店はかなり多い。


「誰も自分の所に、あんな特攻かけられたくないからだ」


創造神と殴り合いをした私から見ても、先頭を走ってくる連中の歴戦の猛者のオーラにたじろいたぐらいだからな。


年単位で遊び倒しても、ポイントがあれば許される。

しかし、ルール違反にはすこぶる厳しい。


どこぞの国の様に法律で決まっている事すら、慣例で捻じ曲げて。

不当な安い賃金で働かせる様な、企業がのさばり続ける様な事は決してない。

瞬きするかしないか、確定した瞬間に連中はくるのだ。


心の持ちようで平等が揺らいでしまう事など絶対にありえない、文字通り天罰が瞬時に落ちる。


外では、そんなことは無い。バレなければ犯罪ではないし、グレーな事は山ほどありアウトとセーフを必死に証拠を集めながら比較する。


ここのルールには、当たり前の事しか書いていない。

そして、ルール自体も時の流れにそって変更されていく。


妖精や巨人が、頭を抱えているのが見えた。

今日も、「悠」では色んな種族が麻雀をうちにくる。


おしぼりと、水でも出しとくか。


巨人用のおしぼりは大きいから、ちょっと引っ張り出さないといけないけど。


しかしまぁ、あの妖精。


相変わらず、妖精のイメージとはかけ離れてる位。

もう、一種顔芸といっても言いレベルで酷い顔してるよ。


妖精ってもっと無邪気なイメージがあったけど、あれじゃおっさんだね。

可愛い顔して、おっさんに見える位こう表情が…ね。


だが、それがいいのだ。

ルールを守って楽しくやってくれるのなら、ここは娯楽施設だからな。

コインの儲けより、従業員も客も楽しくしてたらポイントでボーナスが入る。


少なくとも私は、変に儲かるよりポイントが欲しい。

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