第四十六幕 妖精の祈り

私は、シェスカ。

妖精の女王、シェスカ・ルナ・ジェルスター。


私の事はシェスカでいいわ、皆もそう呼ぶしね。

私達が、この怠惰の箱舟に来たのは遥か昔の事。


人が森を開拓で潰していき、焼き払い。


自然が消えて何処にも住めなくなった、私達の故郷はもうないの。



ダストとか言った、黄金のスライムに連れられて私達はこの「怠惰の箱舟」に来たわ。泣きはらしながら、燃える故郷の森を見つめながら。


人に復讐を誓った、今でも憎くてしかたない。


最後の妖精郷に集まった、一族達に。

最後の妖精女王である私は言った、怠惰の箱舟という場所に行くと。



ダストは言ったわ、「怠惰の箱舟は、私の主の住む聖域だ。私の主は、種族も性別もアンデットも過去も何も問わない。ただ、欲しいものは買えとしか言わない」


「新しい妖精郷でも、人への復讐でも。何ならお前達が、人に殺された同胞の復活すら請け負うだろう。祈りも供物も何もかも不要だ、ただ払えなければ言葉すら下さらぬ」



お前らが人を許せなくとも、客としてきたなら客として扱わねば大変な目にあうぞ。


怠惰の箱舟の絶対的な事は二つだけだ、「求めるなら買え」「ルールを守れ」たったこれだけだ。


私たちは、エルフ達同様森の住人で森の恵みに関しては詳しいと自負している。

それでも、ここの農業フロアで果物の種類にはめまいがしたけど。


キノコも、山菜もあらゆるものがある。


そんな、私達だけど。この怠惰の箱舟という所、誘惑が多すぎるでしょ!!

食べ放題の果物、妖精の様な精神体に整形を施して輝くような美形に変える事も。


何でも請け負う、私の副官なんて巨大合体ロボットが欲しいなんて言ったら妖精がコクピットに収まって戦えるロボットまで顕現したのよ。


最初は、私も果物を買ってその美味しさに度肝を抜かれたものだけど。


スイーツバイキングとか、お菓子の国(スイーツランド)とか。

おかげで、全然ポイントがたまらないじゃない!!


そう、心で思いながら私は左手にチョコレートパフェを握りしめながら幸せな気持ちを味わっているわ。


私以外のほどんどの妖精が、もうここで遊び倒す事になれきっちゃってる。


「女王様、そのパフェが六つ目ですが…。お代わり持って来ましょうか?」



(副官んぅぅぅぅぅぅ、もってきましょうかじゃねぇんだよ)



「お願いするわ、次はストロベリーパフェが良いわね♪」


(私ぃぃぃぃぃ、ストロベリーパフェなんか食べたらまた太るだろうがぁぁ)


「かしこまりました、そろそろ働かないとポイントがヤバいですね」


(判ってんだよ、副官んぅぅぅぅ。そんな事は、誰よりも私が判ってんだよぉぉ)


「ダイエットをしなくても太らなくなる権利に、歯を磨かなくても美しい歯を維持できる権利も売ってるなんて。確信犯にも程があるでしょ。」


そんなんで、はろわに行くと。


「はいはい、判りました。妖精郷の皆さまにあんない出来る仕事はこんな感じですよっと、これでいいですかね」


(受付がイケメンんぅぅぅぅ、妖精のイケメンに受付案内して欲しいって言ってそれも叶うとかどんだけぇ)


そして、今日の私は福馬伝で座布団をひっくり返す仕事をしている……。

着物を着て、愛想笑いを浮かべながら。


他のみんなも、いろんな場所で働いてる。


「そりゃー女王様だけじゃありませんよ、みんなカッツカツですって。今の寝床を追い出されてオタク勇者みたいにゴザで寝たくはありませんから必死ですよ」


(笑顔でいう事じゃねぇぇぇぇ、いつになったら私たちは妖精郷を復活出来るのっ!!)


「妖精は甘いモノが大好きですかね、もちろん私もですが」


荒れ狂う稲光より、激しい衝動が身を焦がすってなもんですよ。


「あっ、私はそろそろヒーローショーがありますので失礼します」



バトミントン広場に、雀荘フロアの「悠」とか。

いきたいぃぃぃぃぃぃぃ、でも今行ったらスイーツか寝床を我慢しないと足りない。上を見たらキリがなくて、下をみたら後が無いってぐぬぬ……。



「もっと、割のいい仕事って無いの?」

そしたら、はろわの職員が苦笑しながら。


「あるに決まってますよ、言った条件は全部考慮しろってのがここのルールなんですから。スキルとか技術が無い奴を案内してはいけないとか、細々としたルールにそってですけど。ルールが許す限り、怠惰の箱舟のはろわはいつだって平等に(考慮や配慮)はするんですよ。こんなスキルを持ってれば、より良い所案内出来ますよって所なんかも含めたアドバイスも求められればしますとも」



「あるんかい、あるなら最初から案内せーや!!」


「勝手に案内して、余計なお世話になって咎められても嫌ですからね。(この耳で聞いてちゃんと条件をメモしたものは)きちんと、考慮してご案内させてもらいますとも」


そして、私は二つの仕事を掛け持ちした。

といっても座布団をひっくり返す仕事が無い日に、別の仕事貰ってるだけだけどね。

休みを取らないとルールに引っかかるもの、なんでこんなルールあんのよ!!


ここの腕輪の転送機能を使えば、通勤時間が一瞬なのはありがたいわね。


(でも、でもぉぉぉ)


「たりなぃぃぃぃぃ(涙)」



新作の花畑型の落雁に、お菓子のログハウス。

ひよこ型ケーキ、うっかり使いすぎてビンゴゲームがなかったらやばかったわ。



髪飾りが、蝶々の形のリボン。

これも、前のビンゴゲームの景品。

副賞に、花畑の宿泊施設の無料一か月招待券がついてた。



この、怠惰の箱舟で参加任意のイベントの中の一つだけど。

本当にガラポン回して、景品配るだけなのよね。


最近は、パイプオルガンやフルートの演奏をして。

ここのコンサートもヤバいのよ?


演奏に合わせて、冷たく無くて溶けないピンクの雪や虹なんかも作るのよ。

フェイクじゃなく、その場でマジの雪とか雲をつくって風景を創り出すの。


オーロラも、山々も、森も一瞬で本物を出したり消したりするのよ。

演奏をただ盛り上げて、楽しく過ごしてもらえるように。


私は、最初演奏する側で森の香りをかいだ時。


思わず楽器を落として、泣いてしまいそうになった…。


私達の世界の、妖精郷より広くて素晴らしい場所をバックに演奏させておいて。

演奏が終わったら、まるで映像だったように消えていたわ。


花畑の上で昼寝したいって、そんな希望を腕輪に行ってみたら。

リラクゼーションフロアに、妖精郷よりも凄い自然が広がっていた。


(本当…、ふざけんなぁぁぁ!!)


一日滞在で六千五百ポイントとか、もうちょっと安くできるでしょうがあんた!!



私と一緒に来た妖精達も、私達以外のお客も。

森がどれだけの時間をかけて、芽吹くか知っている。

だから、どれだけ常識外れな事をしているのか判るの。


麻雀やトランプでも種族や体の大きさで、共に遊べないのは不便だろうって。


その、順番の時だけサイズが大きくなったり小さくなったり。

大きくなった時、本人以外に見えたら困るから。


認識疎外やモザイク処理みたいのを、意識の方にかけられる。

どこまでも、無駄な事に力が入ってる。


それが、怠惰の箱舟なんだって思ったら。

なんか、むかついて来たわ。


悲惨なのはいつだって、負けて搾取される側だけなんだって思ったら。

何故、悲惨な事が世の中から無くならないのか良く判る。


ここは搾取なんてしない、ここは絶望的な程の選択肢と自由を保障する。



だからって、だからって……。



「これは、ないでしょうが!!」


でも、きっとダストやここの女神は言うんでしょうね。


「欲しければ、買え」って、どんだけでも素晴らしいものを並べて。


「嫌なら買わなくていい、それも選択肢だっていうんでしょうね。」



(本当、良い性格してるわよ!!)



って考えながら、私はフルーツタルトを今日も七個お持ち帰りしたわ。



「おいしぃぃぃぃぃ、ふざけんなぁ!!」

「たのしぃぃぃぃぃ、ふざけんなぁ!!」



って横を見たら私以外の妖精達も、ほっぺたをハムスターの様にパンパンに膨らませて凄い顔になっていたわ。


全員で親指立てながら、爽やかな顔になってんじゃないわよ!!。

私も、ぷるぷる震えながら親指を立てたわ。



「本当っ、ふざけんなぁ!!」

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