第二十八幕 ピンボール

俺は、コータス。


ただのドワーフで、ただの職人だ。

酒が好きで、ジャンクな肉が大好きなただのおっさん。


俺は、怠惰の箱舟でいろんな古い遊具を治している。

ここはすげぇぜ、どんな古い部品も揃うんだ。


直せないと思っていた機械を持ち込んで、治して稼働したときゃ職人冥利につきるってもんさ。


今日も、たばこを加えてピンボールって種類の遊具をなおしてる。

これも恐ろしい程機種がでて、レールや配線なんかも一つ一つ違うんだが。


マジで、部品を作ってねぇとか良くあるんだ。

古いマシンなんだが、愛されて。


滅多に客が来ない割に、滅多に来た客は縋りつくように遊んでくんだ。

懐かしいってな、だから俺にとってはやりがいのある修理さ。


怠惰の箱舟は、部品だけじゃなく工具までポイントであつかってるんだ。


古すぎて誰も使わねぇような、古い道具から最新式のAI付きゴーレムまで。

細かいカスタムも、修理も保険もついてくる。


まぁ修理の場合、大抵ワシらの誰かに回ってくるんだがな。

酒飲むときに、お前んとこに行ったんかってなもんよ。


ドワーフが機械でしくじるわきゃねぇ、安心して任せられるってなもんさ。

内容は安心できるが、納期は安心できねぇんだよな俺らだから。


酒のみで、凝り性だから。


酒のみ過ぎて二日酔いだから取りに来てくれとか、凝り性で完璧になおすことに夢中で納期になってもまだしがみついて完璧めざそうとしたりよ。


大体、ギミックの種類もありすぎて上下がひっくり返ったり。警官バッジが風車になってたり。


馬や兵士達が起き上がり、攻城兵器を再現したものだってあるんだぜ。

アームが動くのだって、精密に動かねぇと止まっちまう。


だから、何度もバネやレールを調整して。

何度も何度も調整して、やっと胸をはって出荷できるんだよ。


また、ピンボールの前で子供がボールが止まったと泣かれるのも困るしな。

良い大人が、なんでやーって頭抱えながら泣くのはもっと困る。


だからチェックに手はぬけねぇ、もとよりぬくつもりもねぇがよ。

経年劣化でゆがむ事もここではない、永久不変のバフがしっかりかかるからな。

ただ、ここは本当に世に出荷された全機種網羅しようとしている関係で。


ピンボールだけでもワンフロアにまるで劇場の座席みてぇにびっしり敷き詰められて、全部動いて並んでる。


ゲームセンター竜屋のフロアはメダルゲームフロアやピンボールフロアみたいに、場所を取るような奴は軒並みそれ専用のフロアに飛ばされる仕掛けになってんだ。


この怠惰の箱舟が百万階層を越えてるってのは、全部の娯楽で網羅的に増やしてるからなんだぜ。


そりゃ、仕事が無くならねぇ訳だ……。ここのはろわってルールにはどこの国より厳しい割にルール自体は良心的だからな。


足りない場合はフロアそのものが拡張されて、常に全数稼働状態にあるんだぜ?

案内がなけりゃ、修理してる俺でもどこに何が置いてあるかなんて覚えてねぇよ。


台の前まで転送で案内されて、案内にもう一度言えば入り口に戻れる。


遊ぶ時は一台占領するんだが、トイレや飲み物買いに行ったって占領されてる間は誰かに取られる事もねぇ。


遊びたい奴が複数いたら、台がコピーされるから待たされることも遊べない事もない。


あくまでも、俺達職人が直してるのはコピー前の現物の方だ。

現物のコピーだから、現物の修理がクソだとコピーの方もクソになっちまう。

俺達は、遊んだ連中から叩きあげられるわけだ。


なんせ、俺達はドワーフ。


食道楽フロアの酒飲み放題の常連だ、そっちに殴り込まれたら間違いなく居るからな。


あそこ、時間で飲み放題だからってのもあるが基本ドワーフってのは遠慮がねぇ。

ほかの種族は遠慮してくれるやつも多い、ここでは種族の差ってあんまり感じねぇからな。


むしろ、同じドワーフの方が文句言ってくる位だ。


下手くそがっ!!みたいにな、俺ならワシならと熱意溢れる改善が口から飛び出すしまつだ。


あげく、お前がやれといったら望む所だクソがってなもんよ。

俺自身も黒エルフの嬢ちゃん以外には遠慮なく、めたくそ言ってるからな。


黒エルフの嬢ちゃんの場合、本人はなおしてくれるんだけどよ。


「文句言う所がねぇ」、流石はあのおやっさんの弟子だわな。


職人連中みんな、言ってるぜ。


「嬢ちゃんに対しては文句言う所がねぇ、ドワーフじゃねぇから飲み会には誘えねぇけどな」


エルフだからジャンクな俺達のつまみはあわねぇだろうし、酒もそんなに量いけるわけじゃねぇ。


嬢ちゃんはエルフじゃねぇ、あんないけ好かない空論並べてるとんちきじゃねぇ。


俺達の仲間、魂ある職人だ。


俺達だって、嬢ちゃんに対してだけは笑顔で応対できるってもんよ。


ここの闘技場フロアで、ロボット同士戦わせるエリアもあって最近は嬢ちゃんひっぱりだこらしいじゃねぇか。


おやっさん、天国で親指でも立てて笑ってんじゃねぇかな。


「どうだ、うちの弟子はやべぇだろ!!」ってよ。


なぁ…、おやっさん。

あんたの弟子は、最高だ。


あんなに最高にいい子なら、別にドワーフじゃなくていい。

あんなに素直ないい子なら、別に男じゃなくていい。


酒なんか飲めなくていい、ジャンクなつまみが食えなくたっていい。

惰性でやってるやつなんざ、職人じゃねぇよ。



でもさ、悔しいなぁ。



俺はドワーフだし、長年やってきた。

いくらおやっさんの弟子でも、あんなにすげぇとさ。

俺もまだまだ、数をこなして質を上げて。


道具に頼る所は頼ってさ、毎日精一杯頑張らにゃと思うわ。


おやっさん…、あんたが言ってた事が今なら判る。

高みを目指すならプライドなんか捨てちまえ、欲深で貧欲でいい。


欲のない奴が高みに届くかよ、コントロールしてお行儀よくなんてクソだ。



煙草の灰がぽろりと、地面に落ち。



高みねぇ…、おやっさん。

俺は、まだまだだわ。


だから、同じピンボールと名のつくものを直し続ける。

ピンボールなら、どんなものでも俺が最高の修理をすると言われる為に。


同じものを惰性以外で、浴びる程やってりゃ嫌でも上手くなるだろ。



俺は、まだまだだからよ。


幸いここは、酒も煙草もオッケーだ。

修理しなきゃならねぇもんは、山の様にある。


俺が死ぬまでに、どこまで高みにいけるかねぇ……。


貧欲に求め、使用者に寄り添い。

その道を歩かんとするものは、同士。


その境地にたどり着ける奴が何人いるんだか、俺はまだまだだからよ。


おやっさんみたいにゃ、無理だわな。

頑固なだけで、高みには程遠い。

使用者に寄り添う事だけは、ここに来てからは出来てるつもりだ。


ここは、転売屋とかいねぇからよ。

心から楽しんで、心から使ってくれる。

そんな奴しか居ねぇから、だから俺達も真心こめてなおせるってもんさ。



報酬の買いたたきもねぇ、乱暴に扱う奴もいねぇ。

まぁ、当然だろってルールしかねぇ割に守らせる仕組みはエグイからな。



俺も、禁酒して弟子が欲しいって願ってみるか?


いや…、俺に禁酒は無理だな。


ここは、誘惑が多すぎる。


娯楽が弾幕より多いとか、勘弁しろよ。


でもな、俺はドワーフだ。


酒と仲間と煙草があればそれでいい、それしか要らねぇ……。

俺達はガサツだからよ、紙の上や木の板の上で寝る事ができる。


だからこの世界、性別的な女は居てもちゃんとした「女」してるやつは驚くほどいねぇんだよ。


ドワーフに酒飲み放題提供できる製造力もやべぇけどよ、味に妥協がねぇのもやべぇよな。


ランクに応じた味がするし、辛口甘口や寝かせた年数別にもちゃんと分けられてる。


飲み放題に置いてない酒は、死ぬほどたけぇ。

でも、俺は知っちまってるんだよな。


ここに来た当初、ここの願いを叶えるってのを甘く見てた俺を今ならぶっ飛ばしてやりてぇわ。


「俺が買える、最高の一杯をくれ」


あの味は今でも覚えてる、焼ける辛口。喉を焼きながら、香りは吹き抜ける様に爽やかときたもんだ。


本当にカップ一杯で出しやがって、あんなやべぇもんなら樽でたのみゃ良かったと本気で泣いたわ一か月……。


あれから、ポイントが貯まる度に「甘い酒をくれ、辛い酒をくれ、度数の高い酒をくれ」なんて色々試したぜ?。


全部が違う方向で、最高の酒が出てくるんだ。

ポイントが枯渇して、また働く。


それまで、飲み放題で凌いでポイント貯めて最高の酒を又頼む。


気がつきゃ素寒貧さ、まったく。


それでもよ、そんな無慈悲ならありがてぇかぎりよ。

感謝して、ありがてぇって言いながら生きられる奴のどれだけ少ない事か。


さて、今日も頑張りますかね……。

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