第八幕 オタクは勇者

俺は勇者、勇者カズヒト。


何番煎じか知らねぇ異世界転移でこの世界に来た、まぁ自殺したら神に魔王倒してくれって事でチートもらってありきたりのルートを歩んで来たつもりだ。


んで、俺の自殺した原因ってのが人生を賭け生活を切り詰めてでも続けてたゲームがサービス終了になったからなんだよ。


聖剣に認められて、チート貰って、魔王倒してって思ってた。


生物はレベルとステータスで決まるし、スキルや魔法もこの世界にはあるぜ?


神は存在値って言って、大きければ大きい程何でもできる。


でも神はなんかする度に存在値が減ってくんだって、だからまるで風船みたいだと思ったね。


力の源があれば、時間をかけて存在値は増えるらしいけど。


俺にチートをくれた神でも、俺にチートをつける時に存在値がずいぶん縮んだって話だ。


そんな俺が、魔王との最終局面に来た時割り込んで来た渋い爺さんがオカモチもってたのにはビビったね。


つい、聞いちまったじゃねぇか。米はありますか?ってな。

そしたら、あるっていうじゃねぇか。

魔王と休戦して、実際に行って思ったんだよ。

俺が食ってた米よりうめぇんだわ、もう驚いたってどころじゃねぇよな。


そんで、その爺さんに言われたんだよな。

全てを叶える、働けば働いた分だけ叶える。

貴方がその気なら、怠惰の箱舟へどうですか?ってな…。


最初は意味が判らなかったぜ?


だけど、働いて聖剣の変なだみ声をさ。

俺のやってたサービス終了した、俺が自殺する位愛してたゲームの声優の声に変えてもらったんだよ。


その声で、マスター今日も頑張って働きましょうとか言われてみろよ。

俺が本当に欲しかったもの、思いつめる程必死になってたもの。


魔王を倒すまでのレベル上げの日々よりも、俺自身の願いの為に働いてそれが叶うんだぜ?最高かよ。


食事を削って、ゴザで寝る事にすら抵抗を感じなかったね。

元々そんな、生活してたんだから。


風呂だって、聖剣があればドラム缶風呂でいいしな。

聖剣はそんな俺に呆れた声しながら、つきあってくれるんだけど。


サービス終了したゲームが続いていたとしたらの更新も、ガチャも全てポイントで手に入る。


ゲームの中のヒロインやヒーローを現実化する事だって可能だっていうんだぜ?


この怠惰の箱舟って所は本当にマジでなんでもある、読み放題の図書館に飲み放題食べ放題。


ポイントさえあれば死人でも蘇る、永遠の若さも手に入る。

キャラの排出率すら、ポイントを上乗せすれば100%だ。

元々の排出率でやりたいなら、上乗せしなきゃいい。


俺は思ったね、マジでポイントが足りねぇと。

出来ねぇことがマジでねぇの、この怠惰の箱舟。


ただなぁ、ポイントで全部叶えるから俺働きまくりよ。


労働しよう、頑張ろうなんて俺の世界じゃ思わねぇよ。


ゴミみたいな給料、劣悪な労働環境。夢が叶う事なんかけして無い、搾取されてみじめに老いさらばえて希望なんかなんもねぇもん。


ゲーム一つ満足にできない、そんな人生が本気で嫌だった。

ここは違うぜ?ポイントによる、値段は絶対だ。


だから、ここにいる連中の真面目で誠実な事な。



怒鳴られたりも、休日出勤もないんだぜ?すげぇよなぁ、感動もんだぜ?

俺の居たとこと違って、はろわってのはマジで斡旋所なんだよ。


労働条件にそって、それで良いですって言わなきゃ成立しないの。

労働条件やルールが説明されるんだけど、ルール違反にゃ滅法厳しいの。


もうね、不正とかルール違反したら光の速さで役人と軍隊がくるわけよ。


娘が死にそうになっても、息子が不治の病でも。

引きこもりをなおして、働いて欲しいって言っても全部叶う。


年寄りが叫び散らす事も、クソみたいな客も来ない。


俺さ、ここがもし生まれた場所なら自殺なんかしなかったんじゃないかなって思うわ。


だって、ゲームのサービス終了を無くして欲しいって願えば叶うんだから。

もっとも、ここじゃルール違反以外で消える事なんかねぇけど。


ポイントさえ貯めればだけどなぁ、ポイントってマジで日本でいう所の一ポイント一円って感覚なんだけど。


ゲームフロアの外でも、携帯ゲームしたいって言ったら再起動もなく、接続切れもなく、バッテリーも常に満タンの携帯をポンとくれたしな。


もちろん、クソみたいな高いポイントかかったけどさ。

ここは通信料とか、そういうのは無いから。


買う時のポイントが少し高めだけど、壊れないしサポートだってはろわ行けって言われるだけだ。


職業斡旋所だけど、横に相談窓口とかあって全部聞きたい事あったらそっち行けって言われるだけなんだよな。


んで攻略でも企業サイトみたいな、クソみたいなのが乱立してるわけじゃなくて。

必要な情報が必要なだけ手に入るし、俺みたいな熱心な奴らがコメントしてるから盛り上がりまくりな訳よ。


無論、相談窓口いきゃ懇切丁寧になんでも相談にのってくれるぜ?

みんな、そこ行きゃいいしそこ行きゃ解決率100%なんだから。


広告とかも、全然ないの。本当、最高かよ。

ただ、相談にもポイントがいるんだよなぁ……。


職業相談以外の相談は、ゼロじゃねぇから本当に困った時だけに俺はしてる。


十年でも、二十年でも好きなだけ使って互換性完璧でスペックも中身だけ更新できるんだぜ?


全部ポイント制だから、マジで足んねぇよ……。

ここ、未払いとかもないんだよな。


日当いくらって書いてあったら仕事の定時にもう、ポイント入ってんだよ。

無論ここじゃ金とポイント両方が全てのとこで使えるし、給料もポイントでもらってポイントをコインって金に変える事は出来る逆はむりだけどな。


まっ、もっとも俺みたいな奴はポイントで生活して、コインに変える気はさらさらねぇけど。


もっと、収入の高い仕事したいっていったら。

スキルやステータスを上げたり、努力して魔法やスキルや技術なんかマスターすれば腕輪に記録されて何をどれだけできたら幾らもらえるか全部書いてあるんだぜ?

何が出来て、どんな仕事ならどれだけもらえるかが正確に判るんだよ。


しかも、この怠惰の箱舟ってルールで決まってる年間行事っての?

三つしかない訳よ、それ以外は全部自由。


しかもなぁ、その内年二回はボーナスっていうポイントが入ってくるだけだぜ?

出勤日数や実績あと勤務態度とかがリザルトみたいにでるわけ、だから逆に言えばボーナスすら明確に増減額分が判るんだよ。


まぁ、ハロワ行きゃどんな評価がついたら幾らもらえるか聞きゃ全部教えてくれるけどな。


判定してるのがダストってやつらしいが、そらーもう平等で正確なのな。

むしろ、ここで一番ブラックな労働してるのそいつじゃね?とか思ったぐらいだわ。


休みが欲しけりゃ、好きなだけ休める。

逃げたきゃ、好きなだけ逃げられる。

まぁ、俺は逃げないし休まねぇよ。


叶えたい事が、沢山あるんだ。


ただなぁ、ここの奴らみんなに言える事なんだけどさ。

勇者ってこんなんだっけとか、龍ってこんなだっけ?とかさ。


俺自身も周りをそういう目で見てるし、周りからも俺はそう見られてる。

悪魔とか邪神ですら、お前らそんなんだっけ?っていうの無茶苦茶多いんだわ。


俺みたいな奴はさ、チートとか要らねぇよ。

俺みたいな奴はさ、いつだって要るものばっかりで渇望してんだから。


チートより、ちやほやされるより。

余程、渇望が叶う方がテンションあがるって。


俺はオタクなんだから、好きな事を止められるより好きな事を好きなだけ出来る方が張り合いあるだろうよ。


小説だって、手に入れたいって言ったらポイントごっそりかかるけど。

読むだけ、消費するだけならクソみたいな安さだ。


アマチュアのやつまでは無料だし、その作者の他の作品も背表紙にかいてあるんだぜ?


無論読む方には無料だが、クリエイター側はクリエイター側が設定したポイントが読まれる度に振り込まれる。


審査に通りさえすれば、だがな。

読まれた時に振り込まれるポイントは箱舟側が法外でないと、認めた場合だ。


基本審査の待ち時間は一日、協議が入れば一週間。

それ以上は絶対待たされない、そういうルールだ。


本当、最高かよ。


なんで、異世界飛ばされて最初にここにこねぇんだっつーの。


読まれたら、翌朝に読まれたぶんだけポイントで支払いがあるからアマチュアでも働きながら作品作れるっていうし。


ここは、どんだけ柔軟にできてんだって話だよな。


ただなぁ、やっぱポイント足んねぇわ……。


聖剣がいっつも慰めてくれるけど、マジでなんで俺を選んだんだろうなあいつ。


剣として使われず、鞘にいれて風呂の薪と一緒に突っ込んで。

無茶苦茶な使い方してるのに、文句ひとついわねぇでさ。


それどころか、朝んなると起こしてくれる訳よ。

掃除して、飯まで念動で作ってくれるんだぜ。


おふくろより余程、優しくてさ。


レベル上げの時も、無茶苦茶な使い方を沢山したんだけどさ。


文句言うどころか、頑張りましょうだぜ?


鍛冶屋に持ってったらグーで殴られて、きりもみで四回転位して俺が飛んでった事もあったなぁ。


こんな立派な良い剣を、こんなひどい状態で使いやがってってさ。


まぁ位階の高い剣は時間経過できれいさっぱりなおるんだけどさ、鍛冶屋のおっさんからしたらこんな扱いされてて剣が可哀そうとは思わねぇのかって怒鳴られたな。


そしたら、私に不満はありませんよ。って聖剣がしゃべりやがって、鍛冶屋が眼をむいてたな。


「俺も思ったよ、不満ねぇのかって」


俺は、不満だらけさ。何が魔王を倒せだ、何がチートだ。

剣に表情なんかねぇんだけどさ、それでも俺も眼をむいたね。


飯がマズイっつったら、剣が料理出来るようになって調理始めるしよ。

雨が降っても、嵐にあっても。


いつも、この聖剣は「頑張れ」って励ましてくれるわけよ。


優しいね、俺にそんな声かけてくれる奴なんて元の世界にゃ一人もいなかったのにな。


俺に優しくしてくれるのは、剣だけかよ。



まぁ、剣でも嬉しかったのは確かだ……。

今の仲間に出会うまで、俺にゃ剣しか居なかった。


ゲーム以外で、初めて喜びってのを理解したかもしれねぇ。


でも時々俺は思うんだわ、ここじゃ勇者とか英雄とか邪神とか獣人とかあんま関係ねぇんじゃねぇかって。


差別も区別も虐めもブラックな環境も無い、ただあるのは「叶えたい夢がある」かどうかか。


普通の渇望じゃねぇ、魂から飢えて禿げ散らかす様な。

俺にはあるぜ、沢山な…。


ただ曲聞いて、暇つぶしにするような奴はオタクじゃねぇ。


同じ曲を何度も何度も浴びるように聞いて、涙が止まらないぐらい毎回感動するような。


俺はそんなオタクだからさ、しかたねぇよ。


今日も、明日も明後日も。

俺の命がある限り、俺はここで働く。


絶対の保証があるんだぜ?変な転売屋とかいて欲しい時に買えないとか、プレミアついて高すぎて買えねぇとかないんだぜ。


払えば買える、値段は変わらない。

セールもないし、無慈悲な程不動のごとく何度見したって値段は固定だ。


まぁ彼女が欲しいとか、そういう系だと可能性で値段が変動するらしいが。


それでも、払えば絶対叶う。

俺は、命がある限り叶えてみせるさ。


俺には聖剣とスマホがある、それでいいんだよ。

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