第四幕 はろわ
俺の名はレムオン、悪魔だ。
誇り高き、はろわの受付その一人である。
ここ怠惰の箱舟は、願いを叶える為の労働と娯楽施設以外がないダンジョン。
長年働いている俺も、本当にダンジョンなのか今一納得できてねぇんだが。
働くものに、職を斡旋するのが俺達受付。
はろわが総合機関だから、当然それ以外の仕事もあるが俺は受付だ。
かくいう、俺も悪魔でありながら勤勉に働いている。
戦いたくないものは戦わなくていいように、給料休暇福利厚生業務時間等全てを叶う様に案内しろというのが俺達の仕事だ。
子供が居れば、安心して預けられるように。
怪我や病気になれば、医療部隊を即時呼べるように。
ここ、怠惰の箱舟は勤勉に働き願いを叶えるもの達の場だ。勤勉に働く為に、職を案内するのがはろわ。
あくまで、案内決めるのは本人だ。
働くもの達に差別やイジメはない、そんな事は許されない。
まぁ勤勉な奴程、そんな余裕もないんだがな。
俺達悪魔や邪神連中は、人の不幸や欲望から闇エネルギーを抽出して生きてる。
だが、ここじゃ闇エネルギーは食道楽フロアのバイキングコーナーにおまけでついてくるドリンクコーナーいきゃ浴びるほど飲めるんだ。
他の生き物不幸にするぐらいなら、勤勉に働いてドリンクコーナーに行けばいい。
はろわの受付は、五日働いて二日休みを義務付けされてるしな。
俺達長命な奴の感覚では、数日なんて閃光みたいなもんだ。
結果、ここで働く悪魔は契約を遂行する真面目な部分だけが残って悪魔に見えやしねぇ。
それに反旗を翻そうとした連中も確かにいたぜ?
願いが全て叶うなら、ポイント制なんかクソだって言ってな。
かくいう、俺も初めてここに来た時はそう思ってた。だから気持ちは良く判るし、理解できなくもない。
神龍や破壊神や死神や強そうなのも、確かに一杯いたんだよ。
昔はな、今そいつらは俺と同じようにどっかのフロアで真面目に働いてるよ。
働いてない奴は、地面のシミにでもなったんじゃねぇかな。
百万階層以上あって、ボス部屋一つで罠もモンスターも無いのに無敗。
その、最終フロアに居た邪神を見て俺は思ったね。
「よし、真面目に働こう!!」
あれは無理だぜ、つかどうやったらあれを眷属に出来るんだよおかしいだろ。
エルフが魔力で美醜が決まるように、邪神は長生きしてる程美くしくなる。
常識が通用しない、位階神共を除けば必ずな。
俺は、あれが女神だったとしても驚かないね。
鼻で笑われたし、今は違うと判ってるが。
あいつは、コックローチだ。
コックローチは全てから嫌われて、一年にレベルが一しか上がらず。
一レベル上がったら、スキルも一レベルで一つしか覚えられず。
一レベルで、ステータスは一づつしか上がらない。
全てから虐げられて、自殺するから長生きなぞ絶対しない。
そのコックローチが、傾国の美女のレベルの美形になり。
あらゆる、系統のスキルを網羅し。
更に、見た瞬間に心が折られる程のオーラを噴いてんだ。
闘気、魔力、神力、権能、霊力そう言った俺が知る限りのオーラを身にまとい。
仁王立ちで、待ち受けてやがる。
コックローチっていや、米粒サイズのゴミみてぇなカテゴリだけ邪神だろ普通。
白いマフラー、白いレザーグローブ、白い靴に深淵の闇の様な忍び装束。
真紅の眼、眼球の中が複眼になっているのが遠目で判った。
邪神ってなぁ龍と同じで、長生きしてればしてるだけ力を増していくし。
長生きすればするほど、その辺の神でも畳めるようになるが。
最初が、とにかく弱い。
特に、コックローチは超大器晩成型。
俺も初めてみたね、あんなヤバい奴。
あんなのが眷属だってなら、ここの女神はどんだけのもんか判ったもんじゃないね。
なんせ、主の神は最低で眷属の三倍は強くなければ制御もできはしない。
それに、ルールを守って働くなら俺達悪魔やアンデットでさえ笑顔で受け入れる。
人間共のクソみたいな労働環境とちがって、奴隷もどきの労働じゃねぇ。
叶えたい願いが無いならば去れ、ルールを守るものはみな同胞。
ここじゃ、ルールを守らねぇやつに慈悲はねぇ。
食う、寝る、遊ぶを徹底せよ。
願い、働く事を是とせよ。
不正等、怠惰の箱舟に仇名す屑はダストがすぐに止めに来る。
故に誠実で平等であれ、少なくともそれが「怠惰の箱舟」だ。
ここぐらいだぜ、アンデット共が麦わら帽子かぶって一心不乱に働いてる変なとこは。
俺の願いか、そうだな。
エノ、もっとも偉大で至高で働かない事を極めんとした位階神。
会ってみたいね、俺も悪魔だ。
そんな、すげー邪神に会う事が叶うなら。
きっとそれは、一生の宝になる。
邪神って言ってもピンキリだが、エノより上の邪神を俺は知らねぇ。
最近は、勇者が受付に良く来やがる。
眼を血走らせて、必死に仕事を掛け持ちしてやがる。
あいつ、叶えたいこと多すぎるんじゃねぇか?
いや、別にいいけどよ。
勇者ってこう、もっと高尚な連中じゃねぇの?
俺、悪魔だから人間のその辺の事知らねぇんだけどさ。
あれじゃぁ、聖剣もってるだけのボンクラじゃねぇか。
あいつ、野原にござ敷いただけの宿泊フロアから毎日くるよな。
あそこ、壁も無きゃ天井もないんだぞ。
いや、ここダンジョンだから雨に濡れたり風に吹かれたりもしねぇけどさ。
確か、風呂もねぇよなぁ。
んで、風呂はドラム缶風呂に入ってるのを見かけるんだよな。
もう二百ポイント出せば銭湯、にランクアップ出来るのによ。
ドラム缶風呂ってあれだろ、ドラム缶に水が入ってるだけで壁も何にもなくて自分で魔法で沸かすんだっけ?
火力調節も、無いからマジで茹でられるのと何が違うん?って思うわ。
あーでも、勇者の聖剣は確かインテリジェンスソードだったな。
聖剣に調節して貰えば、火力調節はいらないのか。
……、聖剣ってさ俺達邪なるものの天敵ってイメージあるんだけど。
風呂の火力調整に薪と一緒に突っ込まれてるのを想像したら、不憫に感じたわ。
聖剣ファンブルケ・エーギル・ツァトゥ
歴史上、もっともボンクラの勇者を選んでしまった剣か哀れな。
俺悪魔なんだけどさ、まさか聖剣に同情する日がくるなんて夢にも思わなかったわ。
ファンブルケは結構、力ある聖剣だ。
刀身が溶けたって、ほっときゃ回復するし闇属性の連中は少し触れただけで削られちまう。
だが、インテリジェンスソードはその意思で出力をコントロールできる。
何より、この怠惰の箱舟は特定フロア以外での戦闘は禁止だ。
見張りのダストが不正や戦闘を許しはしない、分体が鬼の物量で止めに来る。
ダストって本体がやられなきゃ、どれだけでも即時増殖、即時意思連動して全部の分体と繋がってるあのスライムだろ。
あんなの、スライムじゃねぇよ。どんだけ、万能なんだよ。
俺は思ったね、ここに確かに人間共が言うカテゴリーのモンスターはいねぇ。
怪物って名のモンスターなら三体いる、それが俺の結論だ。
しかもあれだろ、分体が一匹寝ても食べても本体が寝たことになって食った事になるけど。
分体が幾らやられても、本体がやられなきゃノーダメージ。
しかも、本体は常にあの最下層の邪神の後ろにいるんだろ?
細胞増殖より速く増えて、本体の意思で一粒まで即時にしまえるんだろ。
どんなムリゲーだっつーの、つけ入るすきを探す位なら大人しく勤勉に働くわクソが。
そんな、鬼警備があるからここは安心できるのは確かだ。
しかも、あのスライム恐ろしく燃費が良いんだよな。
確か、パンの耳一かけらで二十年は持つんだっけか。
俺達悪魔でも、五年も二十四時間フル稼働したら残魔力はカツカツになるってのによ。
あのスライム魔力じゃなくても、本当に雑草や花粉でもエネルギーに変えられる悪食まであるんだぜ。
なんで、俺がそんな事知ってるのかって?
調べたからだよ、この怠惰の箱舟は願えば情報は叡智の図書館フロアに行きゃBL本から禁書まで本という形であらゆる情報を知る事ができる。
対価しだいじゃ、個人情報すらも調べられる。
読み放題に置いてない、そんな蔵書は血の涙が出るくらい高いポイント取られるが。
確実で正確で無慈悲な程、どんな情報でもだ。
勇者はエロ本とアニメ本と映画しか見てねぇみたいだがな、それはまぁいい。
知れば知る程に、知識ってのは道具だって事を知るぜ。
武器にも防具にも、そして希望にも絶望にも化ける。人の金もまた、信用だなんて奴もいるが。
俺からすりゃ、金も情報もただの道具だぜ。
おっ、また今日も勇者が来たな。
よぉ、ファンブルケ。お前は今日も大変だな、またドラム缶んとこに忘れられそうになったってか。
飛んでけよ、お前飛べるだろ。
勇者、斬るのにつかわねぇからって言って手入れ位してやれ。
ファンブルケは健気だねぇ、聖剣ってそんなだったっけか?
まぁいいさ、んで勇者様よ。
今日は、どんな仕事をあっせんすりゃいいんだ?
労働条件をいいなよ、お前だけあんないすりゃいいってわけじゃねぇから。
お前、勇者の癖に人気者だから仕事は選り取り見取りだぜ。
後ほら、これサービスだ。
石鹸とシャンプー、そろそろなくなんだろ。
身だしなみとかスキルとかって、斡旋するこっちからすりゃ結構大事なんでな。
悪魔の癖に気を利かすなって?
怠惰の箱舟ってとこじゃ、悪魔だろうがゴミだろうが。
「願いをもって、働く同胞であるかぎり平等」なんだよ。
偉い人扱いされたきゃそれを願えばいい、ポイントを貯めてな。
俺の願い?俺の願いは結局二つしかねぇよ。
「エノに会ってみたい」と「クソみたいな、客が俺の受付に来ませんように」だよ。
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