第16話 想定外のような

 ……あれ? 何か警官がいっぱい居るんだけど、どういう状況よこれ。いやそれより、なにこの、何? この体から出てる白い光はさ。白い光って、アイツが使ってた力と同じだったよな。マジでどういうこと? いやなんで俺の体が魔法を使えるようになってるのかも分からないんだが?


 そんなことを考えてたらあのスケルトンどもを蹴散らしてアイツがこっちにやってくる。でも顔はまたあの時と同じく懐疑的な表情になっていた。となると予想される第一声は多分――



「おい、何でお前がその魔力を持ってやがる!?」



 ほらやっぱり。大体合ってたけど、どこか古代兵装の盾を持った時と比べると、かなりの勢いで詰め寄ってきている。だとするとコイツは今俺の中にある魔力の正体を知ってることになるのだけど、って今はそんなことを考えてる暇は無かった!



「俺に分かるわけないだろ、それよりあのワレディグの魔法を突き破るのが先!」


「ッ、えぇい畜生! 今から言う通りに想像しろ! まずは魔力の球を作れ、ほらさっさと!」


「き、君たちここは危ないから早くに」


「おっさん、邪魔!」

「警官さん、邪魔です!」


「え、えぇ?」


「アタシが時間を稼ぐから手早く済ませろ!」


「魔力の、球……!」



 ユーティカネンは俺に敵を近づけさせないようにまた突っ込んでいき、俺はコイツの言ったことを反復しつつ、さっきやっていた魔力の球の作り方を真似してみる。魔力の球とは言ったが、そもそもどうやって球を作る魔力を集めるんだ?


 感覚にしろ何にしろ、この両手に球が作られるイメージってどうすれば――ちょっと押し込んでみるとか? こんな風にイビビビビ!? ちょ、デカいデカい! 想像してた倍、十倍とかそのぐらいデカい! でもこれなら!



「出来たぞ!」


「なら次! その白い魔力球の外側に水属性の魔力を発生させろ! コツはその球の内側から水が溢れ出てくるように考えること!」



 この球体の内側から、水が溢れ出てくるイメージを……おっ、出てきた! いやこれ完全に水だわ! マジか魔法から水って出てくるもんなんだな!



「出来たぞ!」


「よし、最後は――ッ!? チイッ!」



 んお、何々アイツこっち来てる!? 何でこっちに、って近くまで来たら振り返って盾を俺の身長以上にデカくした? まさかと思った直後、盾を持って構えたまま近づいてきた。コイツの足元に視線を向けると、滅茶苦茶力を入れて踏ん張っているのか道路の一部がえぐれている。


 さっきあのワレディグは重力を使っていた。だとすると音も無いのにコイツがそうなっているものの正体は、まさか斥力とかか? 何でそんな気軽に力の方向を操れるんだよ魔法ってのは! でもその前に最後のやり方を!



「おい! 最後は何だ!? 最後の説明は何なんだ!?」


「んぐぐぐッ……! 最後、はァ!」


「何だ!?」


「その魔力の塊を、相手にッ! ぶつけろ! どんな方法でも、いい! 準備が出来たら、もう一回さっきの、魔法を使って、奴の動きを、鈍らせる! その隙を狙え!」



 それを最後にユーティカネンはワレディグの攻撃を防御するのに徹しする。ぶつけるっつったって、その放出のイメージが全然出来ねぇんだけど! 投げるにしたって、さっきの光を使われたらこっちの視界も塞がれる! あの魔法が発動したタイミングでこれをぶつけるには、この球の状態のままじゃ当てられる気がしない!


 どうすればいい? コイツの魔法が発動してすぐのタイミングで、計測すら必要なく相手の魔法に魔力放出をぶつける方法は――いや待て、当てられるってことを考えるなら……これだ! 正直コイツをぶつけるイメージが全然湧かなかったけど、こういう形でならイケる!



「準備できた! 何時でもいい!」


「よし、三まで数えたら魔法で隙を作る! 気合い入れろ!」


「言われなくても!」


「なら行くぞ、一ッ!」



 カウント開始。ここまで来たら失敗はできない、ならさっき思いついたこれで何とかするしかない! 発射のタイミングで言うとなったら、何が良い? 放出はそのまま使うとして水は……アクアやウォーターは何かしょぼく感じるし、てなると何が当てはまったっけ?



「二ィッ!」



 あっ、これだよこれ。そうだこれがあったわ、よし! あとは俺の気概の問題だ、この非常事態なんだし確実に成功させるためにやるんだからな! 決してこんな風にしてみたかったとかそんな理由じゃないからな!



「三ッ! 『オ・ルクス・ネガ・ヴィム・テネブラス』!」



 最後のカウントダウン! すぐにコイツの掌に黄金の光が集まり、盾を僅かに小さくした瞬間に先ほども使った魔法を放り投げ、その球体から光が広がった。まぶしいことに変わりはないけど、盾で視界が守られていることで大分マシになっている。


 光が徐々に消えゆく中で、俺はこの両手に集められた水属性の魔力球を維持する。そしてワレディグの姿が見えたところで、俺たちとワレディグを隔てていた盾が小さくなった。



「今だ、撃て!」



 よし来た! くらいやがれ!



「ハイドロォォオオ……バァアアストオオオオ!」



 同時に魔力球を突き出す。刹那、それから大量の水を伴った白い光が直径1mほどのビームみたく射出され、ワレディグに直撃した。奴から声があがることは無かったが、何かガラスのようなものが割れた音を聞いた途端、何もかもを消し去るようにこの魔力が貫いた。


 次第にこのビームが消えていくと、浮いていたワレディグは塵となって消滅していき、同時に操っていたスケルトンどもが崩れ落ちる音が耳に入る。事態が終わったことを見届けていたところで、俺の視線は地面と一番近い所にあった。あれ?



「大丈夫か、君!?」


「あーあー、魔力の使い過ぎで倒れてら。」



 せ、せっかく倒したのに、こんな締まらない終わり方って、そんなぁ……そんなのありィ?


 そんな俺の思いとは裏腹に、意識はどんどん闇の中へと落ちていった。










 先の大技を放った直後に倒れてしまったショウのもとへ、武田と本居の二人は駆け寄った。警官らに囲まれている彼の容態を確認すると、単に気絶しただけのようであったので命に別条が無いことを知ると、そこに補足してユーティカネンが説明した。



「コイツは魔力の使い過ぎでぶっ倒れただけだ、暫く寝とけば回復はする。」


「そうか。」


「すみません、この二人は一体……?」



 警官の一人が駆け寄ってきた二人について尋ねた。が、武田はその質問に対して警察手帳を見せて自身の身分をまずは明かした。



「警視庁公安部外事第一課第4係の武田だ。訳あって今は彼らの情報について開示することはできない。」


「こ、公安の方々でしたか! 大変申し訳ありません! 自分は目白署所属の佐藤巡査と申します!」


「本件の責任者と話したい、案内を頼む。」


「はっ!」


「本居、二人を連れて本部に戻れ。」


「了解です。ラウリさん、行きますよ。」



 本居は彼の体を持ち上げ、自身の車の後部座席に寝かせた。助手席にユーティカネンを座らせ、彼女は先に警視庁の方へと帰っていく。


 穴のあった場所に武田は視線を向けるが、その穴は既にどこにも存在せず、何の痕跡も残さず普通の景色を見せつけている。けれど先ほどまで起きていた異常事態を証明するように、バラバラになった人骨は地面に転がっていた。


 それを一瞥し視線を戻す。佐藤と呼ばれた警官の案内で、今回の責任者らしき人物と邂逅した。顎先の髭が濃く角刈りの男、肩幅も広くガタイの良さが目立つような彼と武田は目を合わせた。案内してもらった警官を外させると、武田は話を切り出した。



「貴方が本件の責任者と聞いた、少し話をしたい。」


「……アンタは?」


「警視庁公安部の武田だ。」


「公安? 何だって公安サマがこんな場所に?」


「事情が事情なのでね。説明する前に、そちらの所属と階級を。」


「目白署刑事課警部補の峰だ。」


「では峰警部補、今回起きていた件についてだが、本件は我々が対処する。来てもらって悪いが、関係者全員に箝口令を敷かなければならない。」


「何……?」



 その発言に、峰警部補は武田を睨んだ。見た目と相まって圧の強さが際立つが、それを気にも留めず武田は話を続ける。



「本件についてはまだ判断しかねる事柄が多すぎる。下手に情報を公開すると混乱を招きかねない、それ故のものであると理解してほしい。」


「失礼だとは思いますが、今更なんじゃないですかね?」


「というと?」


「穴に、バケモノ。先週起きたあの事件も、今回の事件も一部始終がSNSに流れています。ただでさえ大多数の人間に知り渡ったこの二つを、わざわざ警察内で情報を流すなというのもどうかと思った次第です。」



 峰の言い分に対し、武田は特に顔色を変えず彼を見ていた。内心、何を言っているのか自分で理解しているのかと、呆れの感情を表情に出さないまま、武田は彼の言い分に答える。



「先週の件も、今回の件に関してもそうだが、全貌そのものがハッキリしていない。下手に情報を流して余計な混乱を招いてみろ。その責任を取るのはお前だ、峰警部補。懲戒処分で済めばまだ救いがあるぞ。」



 峰の視線が途端に強くなった。それに関して気にする必要も無いと判断した武田は続けて発言する。



「それと、警部補の考え方は情報の公開を求める市民や記者の考え方のそれだ。我々はあくまで国家組織、そのような考え方は慎んでいただきたい。」


「……失礼しました、出過ぎた真似を。」


「今回は目を瞑ろう。次は無いと思え。」


「はっ。」


「では、事態の収拾を急ぐとしよう。全員、私の指示にて動くように。」



 武田は淡々と、この事態に残された遺体や住居などの被害状況を確認し、事態の早急な収拾を行っていく。それらが恙無く終わったところで武田も警視庁に戻り、今回の件を報告するのであった。


 そして警視庁の15階、自身の職場である外事第一課のオフィスに戻ると、ドアの近くで待ち構えていたであろうユーティカネンが、彼の行く道を塞いだ。



「どうした、ユーティカネン少女。」


「ちょいと調べたいことがある、手伝え。」


「何をだ?」


「あの悪人面の持ってる魔力を、確認してぇ。アイツの持ってるモノをアタシはよく知ってるんでね。」


「……一体、それは?」



 武田は彼女の言葉に、疑問を募らせ問いかけた。その質問に対して彼女は信じられない現実に直面した事実を、今一度噛みしめてから彼女は言葉を紡ぐ。



「アイツから出てくる、あの白い光を見たろ。」


「あぁ。」


「あれは……あれは間違いなく、無垢なる魔力って呼ばれてるモンだ。アタシの世界で伝説の勇者サマって奴が持ってた、特別な魔力。」


「それを、原川少年が持っていると? なぜそう言い切れる?」





「アタシがその無垢なる魔力の所有者だからだよ。」

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