第15話 非科学的なような
眼前に立つ何体もの動く人骨、仮称としてスケルトンとするそれらに向かってアイツは変形したメイスで薙ぎ払う。片手で振られたそれは、けれど振り終わりに4体のスケルトンが風圧で飛んでバラバラになって地面にばらまかれた。
でもこれは……やりすぎだ! 瞬間最大風速が確認したら19.8m/s、おかげで骨が色んな場所にぶつかって被害が――っ、しまった民家に骨がっ! 窓ガラス割れたし!
「おい! 周りの被害も考えろクソアマ!」
「なにテメェが指図してんだよ、こうでもしなけりゃ終わんねぇだろ。」
「ここに民間人も居るってことを考えろ! この場所で暮らしてる人の生活に支障を出すな!」
「だったらテメェがやってみろよ、人サマの生活に支障を出さねぇようによ。」
「ッ、言われなくても!」
幸い、盾はある。こんな奴に任せたらどれだけ被害が出るか分かったものじゃない! 落ち着いて、どの場所にどう投げて、スケルトンの耐久性を加味して反射角度を演算予測すれば……見えたっ!盾の縁を右手で掴み、左足を軸に右に1回転したあと、フリスビーの要領でぶん投げる!
「うおっ!」
アイツが何か慌てて避けたが、当たる場所に投げてるわけねぇだろバカが。そうやって内心悪態をついている最中でも、盾はスケルトンの頭を三体壊しながら道路標識目掛けて突き進み衝突すると、跳ね返ってきた盾が俺の左側にある電信柱に向かって移動し、それにぶつかると俺のもとに返ってきた。
その返って来た盾の縁を左手で掴んだ後、勢いを殺さないように左足を軸に左回転。そのまままたフリスビーの要領で、今度は約30m先にある電信柱に向かって投げる。スケルトンを破壊しながら進んでいき目当ての場所に到達して跳ね返ると、先ほど当てた道路標識にまた衝突して軌道が変わり、今度は俺の右側にある電信柱に移動し俺に向かって跳ね返ってくる。
それを右手で掴み取り、そのまま右腕に装備した。先ほどので計15体のスケルトンがバラバラになっていて、全体の約3分の2が機能しなくなった。被害も標識や電柱についた跡だけ、これなら心置きなく殲滅できる!
「これなら文句ないだろ……!」
「テメェ、当たりそうだったんだが?」
「その身長で当たるわけねぇだろうがよ。」
「あんだとクソジジイ!?」
「やんのか未発達!?」
「二人とも、まだだ!」
武田さんの声で意識を先ほどのスケルトンに視線を移せば、破壊したはずの人骨が集まっていき次第に元の形になってきているのが確認できた。コイツら、とどめを刺さなきゃ何度でも復活するパターンの奴か!? だとしたらジリ貧覚悟で壊しまくるしか。
「チッ、おいウド野郎。お前はこのボーン・アーミーズを手当たり次第に破壊しまくれ、アタシはあの司令塔をやる。」
そう言ってコイツが上の方を指した。見てみれば完全に親玉らしき何かが空中を浮いており、あり得ないことに何の支えも無い上に位置エネルギーの変動が無い状態にあった。でも一番驚いたのはその親玉の見た目が明らかにヤバい奴であること。
ボロ布のローブらしきものを被っていると認識させられるが、そのローブを着ている本体の姿が全く見えない。かろうじてローブの形や持っている杖で居ることが分かるものの、肉体らしきものが全く見えすらしないのは動揺を隠すことが出来なかった。
「んだよ、あれ……?」
「コイツらを操ってる本体で、種族名はワレディグ。死霊魔術師の成れの果てがなるっていう厄介極まりない奴だ。アイツを潰さない限り、何度でもこの雑魚共は起き上がって来るぞ。」
となると俺が取れる選択は、クロスボウ持ちを優先的にぶっ壊してコイツをあのワレディグの元に辿り着かせるか。或いは俺がここから直接狙い撃つか。でもコイツらの対処を任せられるわけないし!
「なら俺はクロスボウ持ちを優先してぶっ壊す。その間にアイツをぶっ倒せ、良いな。」
「指図してんじゃねぇよ何様だテメェ? 言われなくても、アタシはこっちだ!」
ユーティカネンが飛び上がり、中空に浮いているワレディグにメイスを振り下ろそうと画策する。そこに合わせてクロスボウ持ちのスケルトンどもが狙いを定めていたが、そこに盾をまっすぐに飛ばしてスケルトンを破壊する。盾によって開いた一本道を走り、産婦人科とアパートの間に設置された電信柱にぶつかり跳ね返った盾をキャッチした。
それと同時に何かがぶつかる音が上から聞こえた。見るとアイツとワレディグの間に青色のバリアのようなものが発生していて、それによって攻撃が阻まれているようだ。そしてアイツは異常な落下の勢いに従って地面に勢いよく着地する。
何もないのにも関わらず、落下速度が一気に約68m/sにまで加速した上に、アイツを中心に地面にかかる負荷がバカでかい。これはまさか――
「重力を操ってるとでも言うのかよ……!?」
「……ッ! ヌゥアアア゛ア゛ア゛!」
ユーティカネンが操作された重力下の中で雄叫びをあげた。同時にメイスを手放し両の
「目ェ閉じてな! 『オ・ルクス・ネガ・ヴィム・テネブラス』!」
文言を言い終えたあと、その金色に輝く光球をワレディグ目掛けて飛ばした。そして奴の目の前に到達した所で、光が一気に広がり辺りを包み込んでいく。咄嗟に目を瞑り腕で両目を覆い隠したが。ほんの少しだけ目にダメージが入ったらしい、陽性残像が発生している。
少ししてゆっくりと目を開けて腕を下げると、なぜか全てのスケルトンがバラバラに地面を転がっており、アイツの受けていた重力の力が消えていた。ワレディグもどこか苦しんでいる中で、俺のところにメイスを持ってユーティカネンが悪態をつきながらやってきた。
「くそっ、面倒なモンに当たっちまった。」
「今の、魔法か?」
「そうだ。けど今のアタシじゃ、アイツの障壁を破れねぇ。」
「……どういう意味だよ?」
「魔法を扱う種族の中には、自身と同じ属性の魔法か魔力放出をぶつけないと消滅しねぇ障壁を生み出す魔法を使ってるやつが居る。今相手してるワレディグがそれで、今のアタシじゃあれの障壁が破れねぇんだよ。」
「おい。おいおいそれって!」
「あぁ――詰んだ。」
事も無げにそう言ったコイツの言葉が信じられなかった。詰んだ? この状況で言えるのがそれ?
「ふざけんな! それじゃあコイツを野放しにしろってのか!?」
「あの魔法を打ち消す属性の魔法が使えねぇとどうしようもねぇだろ! ただでさえ物理攻撃もまともに通らねぇのに、今の水属性が使えないアタシにどうしろってんだよ!? 」
くそっ、くそっクソッ! どうすれば良い、どうすれば奴を倒すことが出来る? コイツの言ってたことと、さっきまで見ていたことを擦り合わせると、確かに物理攻撃は以ての外。魔法とか魔力放出なんてこの世界のどこにも存在しないし、ましてや属性の指定とかだと、どう足掻いても居るわけがない! 可能性がそもそも0なんだぞ!?
これじゃあ本当に、成す術が……! どこか、どこかあの障壁魔法の弱点は無いのか!? 物理攻撃は効かず、魔法や魔力放出でしか消滅しない。そして今水属性の魔法を使える奴も魔力放出を使える奴も居ない。こんなクソ仕様にどう対応すれば良いんだ……?!
「おい、おい悪人面。」
「あ゛あ゛!?」
コイツ非常時の時に喧嘩売ってんのかエェ!?
「お前、魔法を使った経験は?」
「あるわけねぇだろ馬鹿じゃねぇの。身長と一緒に脳みそも小せぇのかアァ?」
「テメェ喧嘩売ってんのかオォ!? 脳みそはともかく身長のことは許さんぞウド頭!」
「誰の頭が中身無いってぇ!?」
「二人とも!喧嘩している場合じゃないでしょう!」
はっ! そうだこんな不毛なやり取りをする暇なんてマジでないんだった! あざっす本居さん!
「チッ、余計な時間をくっちまった。で、お前魔法を使ったことが無いんだったな。」
「ねぇよ一度も。」
「……おし、だったら今すぐやるぞ。」
「はっ? 何を?」
「魔力放出だ。魔法を使ったことが無いなら、放出を使えるようにしてやる。」
「どうやって!?」
「アタシの言うとおりに想像してみろ! まずは目を閉じる!」
「いやちょっと待て、俺が魔力なんて持ってるわけ」
「い・い・か・ら・やれっつってんだよ!」
…………えぇい、ままよ! こうなりゃ何が何でもやってやらぁ! まずは目を閉じる!
「閉じたぞ! 次は!?」
「へそから指3本分したにある丹田を意識!」
指3本分、丹田を意識!
「呼吸は自分でも聞き取れないぐらい小さくやれ! 吸気より呼気を長くしろ!」
呼吸は自分でも聞き取れないぐらい! 吸うより吐く時間を長く!
「息を吐くときに丹田から魔力の波が全身を駆け巡るのを想像しろ!」
吐くときに丹田から波が全身に駆け巡る感じを想像!
「あとはそれをひたすら繰り返せ! 時間なら稼いでやる!」
「絶対周りにも俺にも被害を出すなよ!」
「注文が多い!」
「出来ないのかよ、えぇ!? ざっこ!」
「んだとこら!? 口車に乗るのは癪だが、やってやんよクソが!」
よし! あとは俺の問題だけだ。頼む、頼む。今はこれにすがるしかないんだ!絶対に成功させてやるからな!
到着した応援の警察官は、目の前の現状を理解するのに時間がかかってしまった。動く人骨に中空に浮かぶ何か。それの中心に居るメイスとバックラーを持った少女が、一体一体確実に動く人骨を潰して回っているが、そのバラバラに飛び散った人骨はまた集まり、復活する。
これが現実なのか、フィクションなのか分からないままその光景を見ていると、その集団からほど近い場所で立ち尽くすショウを発見する。すぐに彼を保護するために駆け出した警官たちが居たが、その直前でショウの体から白い光がほのかに発せられていた。
その超常現象を目撃した警官らはその出来事に戸惑い手を止めてしまい、ラウリと相手している敵はその魔力の流れを察知し彼の方を注視する。そしてアドバイスを施した彼女が、彼の体から溢れ出る魔力の本質を理解した。
なぜならそれは、己の持つ力と同じものであったから。
「無垢なる魔力、だと……!?」
その白い光を肉体から発している彼は、静かに双眸を開いた。
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