第8話 嘘じゃないような
んぅ……んん。んん……? ここ、どこだ? めっちゃ眠いし、体が怠い。というか、ここどこ? ベッドが何か違う。家のベッドじゃない、微妙にもさもさしてる……今何時だ?
重たい瞼を開けて枕の下にあるスマホを探すために手を突っ込むと、まったくどこにも無い。手をしきりに動かして探しても無いので、眠いながらもベッドから起き上がって枕を退けると、そこには何も無かった。
はて、と思い床に落ちているのではと思ったところで、今自分が自室に居るわけではないことを知る。ここは……病院のベッド? 何で俺こんなとこに、ってそういや俺あの時ぶっ倒れたんだったわ。というか今何時だよ?
窓の方を見てみると、カーテン越しに陽の光が差し込んでいる。ベッドから身を乗り出してカーテンを開ければ、その明るさに順応するために一瞬眩しくなったが、次第に視界が確保されていった。
窓からのぞき込んで、周囲の状況を見る。高さは……34.5m。で、ここは病室か。となるとここは8階と、ここがどこだかある程度わかったぞ。てか今何時よ? 見た感じ朝っぽい――
「って、やべぇ学校!」
おーいおいおいちょっと待て学校に遅れるの確定じゃんかよ! 今着てるのは病院服、着替えはどこだよ!? ここでもない、ここにもない、いやどこにも無いじゃんかオイ! だったらスマホは……いやどこだよ!? まったく把握してない場所を虱潰しに探したけどねぇんだわ!
あ、そうだ公衆電話! 病院なんだから設置されているはず! こうしちゃいられねぇ今すぐ行って……いや金はどこよ!? 鍵かかった所にも無かったんだぞ何処にあるってんだよ!?
「どうするぅ、どうするぅ? 実質軟禁状態じゃねぇかよクソったれ。」
いやここで悩むのは得策じゃないな、とにかくここが病室ならナースコールがあるんだ。そうだよナースコールあるんだから、まず先にそっち押して事情を話せば良いじゃんか! えぇと確か……あったこれだ。よしこれで来る。
「おはようございます。」
「はやっ?!」
「うぉう! あ、起きていたんですね。」
いやさっき起きたというか、起こされたというか。いやとにかく!
「すんません今何時ですか!?」
「今? 朝の9時半ですが」
「いぃやぁあ遅刻確定イイイ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださ」
「お世話になりましたァア!」
「ちょ、ちょっと!?」
やばいやぁばいって! 確定遅刻なのは流石にまずい! 出席数足りなくなるのはメンドイ!あとあとその辺を追及されて、サイクロプスと戦って死にかけて、復活してサイクロプス二体目を倒したあと、何か協力者に追い掛け回されて気絶しましたとか言えるわけねぇ!
というか、何か俺の走り速くなってね? あの時はヤバい紅色髪から逃げるためにアドレナリン出まくってたからだと思うんだけど……いやこれ違うな。俺の熱放射量が全然違うわ。気付いたけどこれ秒速約9.7m/s出てるわ、あれ?
すぐに足を止めてこの異常に対して首を
「これ、どういうことだ……?」
「は、原川さん。ちょっと待って」
「って、今はこんなことしてる場合じゃねぇ!」
「あ、ちょっと! 誰か止めてぇ!」
ごめんなさい無理です! あーちょ、退いて! このままだと人身事故起きちゃう! あ、おじいちゃん前に出ないでぇ! こうなりゃヤケだ畜生! 天井からおじいちゃんの頭上との距離間隔は2m35cm、十分! この速度なら1馬力出さなくてもイケる! このまま頭上を通らせてもらうよおじいちゃん!
そんなこんなで連絡通路を通り、壁走りしたりで患者の人たちや医者の方々を避けて、階段を二回の跳躍で降りて何とか入口に着いたところで、母さんにバッタリ出会った。
「ショウ、ここで一体何してるの?」
「いや、学校行かないとマズいでしょ!」
「……はぁ、今日は連絡してるから行かなくて良いわよ。」
へあ?
「それに、入院沙汰になってるのに学校に行かせるわけないでしょ。」
「……じゃあ、俺の貴重品は?」
「スマホは壊れたから新しいのに買い替え、お金や鍵はこっちで預かってるのよ。」
じゃあ俺のやったことって意味なかった? 何て考える前に、俺を追ってきた警備の人たちが疲れた様子で玄関に集まってくる。しまったと思ったのも束の間、また振り向けば、鬼みたいな威圧感を放っている母さんが居た。
一つだけ言い訳するのなら、せめて連絡できる手段の用意はしてほしかったと、俺は思うわけです。そのあとは言わずもがな、迷惑をかけてしまった人たちに謝罪してから病室に戻りました。
色んな人にご迷惑をおかけしまして、一旦病室に戻ってお説教を受けたあと、今度は検査を受けていく。まぁ、死にかけてたし。ちゃんと見てないけど、多分現場に血があっただろうし、色々と後遺症が無いか探してるんだろう。さっきの事もあって検査の必要性はなくなったも同然だけど。
検査の方は終わったので、持ってきてもらった服に着替えて体の調子を確認する。やはりというか、軽く力を入れただけで元々の消費カロリー量や熱放射量が全く別物になっている。アスリートでもここまで劇的に膂力が生まれるわけじゃないのに、一体全体どうなってるんだか。
「あぁ、そうそう。ショウ、あなたに話が聴きたいって警察の方が来てるわよ。」
「警察。」
「そう警察。」
着替えを終えて病院の待合室に向かうまでの間、母さんからそのようなことを聞く。
到着が滅茶苦茶遅かった大遅刻組の警察さんが? いや道路状況とかも相まって到着が遅れたってのもあるんだろうけど、俺一人でサイクロプス倒すことになった状況をどうにかしてほしかったなぁ。言ったってもう遅いんだけどさ。
まぁ愚痴っても仕方ない、十中八九あの現場でのことを聞かれるんだろうな。……そういや、あのコスプレ厨二女どうなったんだろ。多分アイツに救われたんだろうけど、今となっては全然感謝できねぇ。ヤバいくらい暴力的思考だし。
ほかにも幾つか考え事が浮かんでいたけど、その待っている警察の人と出会ったらすぐに思考をそちらに向けた。男女二人組か。先にその男女が一礼してきたので、同様に礼を返した。
「昨日の今日だというのに、忙しくして申し訳ない。私は警視庁の
「同じく警視庁の
「原川 彰です。」
武田と名乗った男の人の方は、クマ全開だな。顔はスゲー良い、絶対にモテそうだけどDVしてそう。偏見だなこれは。
もう一人の女の人の方は、クールビューティ、というより仕事人みたいだな。ショートヘアー、二重、目尻は真っ直ぐ、口は小さめ。……警察ってだけあって重心がしっかりしてるな、怒らせない方がいいかも。
「何か?」
「いえ、何も。」
そりゃ視線に気付くわな。無闇に観察するような真似はやめておいた方が良さそうだ。隣にいた武田さんが軽く咳払いをして、話を戻すように口を開く。
「早速で悪いんだが退院手続きが済み次第、我々と警視庁に来てもらいたい。君には色々と聞きたいことがあるし……とある人物が君を連れて来いと言っている。」
「誰です?」
「それはあとで話すとしよう。」
なんかこの時点で怪しいんだけど。とはいえ向こうも起きた事について知りたいのは山々だろうし、対策も施したいだろうし。まぁここでごねても面倒なだけだし、ついていきますか。
そんなわけで、退院手続きが終わってすぐ俺は二人の乗る車の後部座席に座り、警視庁まで連れていかれる事となった。何気に特に犯罪をした覚えはないけど警視庁に行くって珍しい事だよな。
そんなことを考えている道中の車内で、武田さんが話題を切り出した。
「さて、君には幾つか聞きたいことがある。これから私の質問に答えるように。」
「はぁ。」
「君は昨日、なぜスクランブル交差点に居た?」
「……ちゃんと答えなきゃ駄目っすか?」
「刑法に抵触はしないが、言えないことでも?」
いやこういう質問は普通なんだろうけども、こういうことを知り合いに話すのはともかくとして、何にも知らない赤の他人に言うのはかなりハズイんだが――むぐぐぐ、言った方が良いよなぁ。
「……デート、してました。」
「誰と?」
「幼馴染と。」
「そうか。」
反応うすっ。いやある意味その反応がありがたいんですけど、助手席に乗ってる本居さんの目が変にギラついてるのは気のせいですか? 気のせいに見えないんですけど。
「ちなみに彼女さんとはどこまで進んだのですか?」
「本居?」
「ABCどこまで行ったんですか? デートは今までどれほどの頻度で行ってるんですか? 幼馴染といっておられましたが幾つからの知り合いなのですか? 登校デートとか毎日してるんですか?」
「真顔で何て質問してるんですか!? 」
「本居、それは職権乱用だぞ本居。」
「すいません、少し暴走してしまいました。」
何なのこの人、あからさまに人の恋路を聞いて……出会いがないの?
「あ、誤解なさらぬよう。特に出会いを求めてるわけではありませんので。私はただどのようなカップリングであれ、微笑ましく遠くから純愛模様を眺めつつ、はよ結婚しろとか思いながら甘酸っぱい二人だけの世界を守るために警察組織に入ったといっても過言ではありませんから。」
「色々突っ込みたいですけどアンタ何なんですか一体!? というかそんな理由で警察組織に入ったんですか!? 武田さん、この人の手綱誰が握ってるんですかちゃんとしてって言っておいてくださいよ!」
「……すまない。」
「あっ。」
手綱握ってるのアンタかい! いやマジでこの本居さんって人、かなりヤバいですけど! この人誰かの恋路に対する興味が振り切れ過ぎて、この話題でだけ暴走してるんですけど!
「それでなんですが、デート場所はどのようにして決めているのですか? お泊り会とかしたんですか? どこでデートしたんですか? 馴れ初めはどんな感じですか? お弁当とか作ったりしてもらったんですか? 同棲予定はあるんですか? 教えてください!」
「プライバシーの侵害ィ!」
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