頭神社


「おい、なぁ、山行かねぇ?」


「………は」


蜃気楼がかき混ぜるアスファルトを眺めながら、誰も来ないコンビニでバイトに入っていた夏休みのある日の真昼、久々にあったクラスメイトがそんなことを言いにやって来た。


「いや俺バイト中だし、つか、普通山じゃなくて海だろ」


「冷房キツイとこばっかいたら身体壊すぜ、いいだろ、山、砂浜より影あるし」


「馬鹿かよ」


「ウォータースライダーあるプールは電車つかわねぇと行けないし、バイト昼までだろ、なぁ」


そいつがあんまりしつこいのと、バイトの後何も用事もなかったので、付き合ってやることにした。


「最近マジ暑すぎてやばいよな、地球温暖化が」


「この暑さは関係ないだろ、別にそれは」


「学校無くてもこれじゃ全然夏休まらねぇよ」


「言えてる」


バイト終わり、特に行き先を決めるでも無く、俺たちは歩き出した。この辺りで山といえば、神社のあるおかしら山だけだからだ。


「知ってるか?頭(かしら)神社の迷信」


「あー……なんだっけ、…忘れた」


「天才のお前でも知らないのか」


冗談がそう得意でもない奴なのに、その日は饒舌だった、


「どんだけ頭良くてもあんな小さい神社の迷信とかしらねぇよ」


「残念」


「こっちの方来るの久しぶりだわ」


「学校反対側だもんな」


「だし、高校生にもなってこんな場所で遊ばねぇよ」


案の定、山は草木で鬱蒼としていて、ジャングルのようだった。


「神さんのとこまで競争しようぜ」


「なんでだよ」


「渡したいものがあんだ」


「いらねぇ」


「飲みもん奢るから」


「それだけもらう」


「そんなこと言うなよ」


「今のお前からは何ももらいたくない」


「馬鹿、もらえるもんは貰っとくもんだぜ」


俺は渋々、そう言うあいつの後ろについて行った。でも、着いた先の川の側には神社なんてなかった。


「ほんとにここであってるのかよ」

「ああ」

「何もねぇよ」

「あるさ」


クラスメイトはそう言うと、足踏みをしたように見えた。



「さて…それにしても、どうしちまったんだよ、急にこんなところ呼び出してさ」


「俺たちの仲だろ」


「よく言うぜ、俺たち別にそんな仲良くねぇじゃん」


「そうだよな」


「なんだよ…急に塩らしいな、…俺じゃなきゃだめだったんだろ」


「お前、学校で頭神社の話してたからさ」


「ライングループでな」



そいつが足踏みした下の湿った土を掘り返すと、自分が学校着ているのとよく似た白いシャツの襟が見えた。かと思えば、それまで目の前にいたアイツはどこかに消えていき、生臭い香りが土と青い草の匂いに混じった。


「なくしもん探すのは、頭を使わなきゃな」

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