日本には、元来虎はいない。

寅年があるのも、日本画に虎が描かれているのも、隣の大国にそれが棲むからであって、虎なんてものは、本当はこの国にいやしない動物なのだ。

「まるで借り物ね」

「何百年も、何千年も借り続けてるのか」

美術館で大層な猛虎図の掛け軸を眺めながら、私たちはそんな会話をした。

確かに、彼女の言うように虎という動物はもうすっかり日本に浸透していて、日本の自然に彼らがいないことを知らない人も多い。

「不思議よね、1匹もいないのに、当たり前にいると思い込んでるんだから」

「怖いね、それは」

「本当にね」

「ああ…」

そういえば、君の目の中に僕の姿を見たことがなかった。

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