第42話 鉄鉱石鉱脈


 しばらく進むと、開けた場所に出た。広場のような所に入ると、壁際にテントや柵を巡らしてありその前に椅子を出して座っているパーティが居る。とりあえず、挨拶を交わす。

「こんにちは、D級パーティのドリームカルテットです。パーティのリーダーをしているツグトです。よろしく。」

「おぅ、新しくD級になったパーティだな。俺たちは、『鋼の筋肉』というパーティで同じくD級だ。俺は、リーダーやっているゴンタってもんだ。よろしくな。」

 犬獣人と思われるゴンタさんが、挨拶を返してくれた。パーティ名の通り、筋肉もりもりの4名のパーティのようだ。


「ここで野営ですか?」

 テントが張られていたので、野営しているのか聞いてみた。

「ここには、シエルギルド所属の3組のD級パーティがクランを組んで滞在している。3組が交代で沸いてくるゴーレムを倒しながら、ここにある鉄鉱石鉱脈を掘削している。今は、俺たちが警戒班だ。他には、今掘削作業している『一片ひとひらの夢』っていうパーティと就寝している『狐の鈴』ていうパーティがいる。掘削、計画、就寝の順でサイクルを回しているんだ。」


 テントの向こう側の壁に穴が掘られていて、中から「カン、カン」と掘削の音が聞こえてくる。

「掘削音が響く横でよく眠れますね。」

「就寝組は、耳栓しているからな。ゆすって起こさないと起きないよ。おまえらも、ここまで昇って来れる実力があるなら、クランに入らないか?4パーティで回せれば、それだけ掘削の時間が長くとれるからな。」

「8層にあがるのは初めてなんですが、鉄鉱石って儲かるんですか?」

「ゴーレムを倒すと、鉄鉱石がドロップするがあれが5,000ゴル。中級魔物の魔石と同じ価格だ。掘削する鉄鉱石は、1日掘って一つ採れるくらいだが、ドロップ鉄鉱石の10倍~50倍の大きさのものが取れる。」

「それなら、小さいものでも十分採算がとれるし、大きなのが取れれば、それだけ儲かるって事ですね。」

「作業の内容とかわからないので、作業を見せて貰ってもいいですか?」

「おぅ、ラージン案内してやってくれ。ゴーレム出たら呼ぶから戻ってきて。」


 ゴリラ獣人のラージンさんに付いて行くと、穴の奥で4人の人がツルハシを振るっていた。

「削った石が飛んでくるから、ここで止まってくれ。」

「結構、重労働ですか?」

「岩を掘るのは重労働だが、掘り出した石を選別する作業もあるので、ずっと掘っている訳じゃない。きつい作業だけど、今、就寝組の『狐の鈴』ってのは狐獣人の女性4人組だ。彼女達は、筋肉モリモリじゃないけど、掘削の実績は大して変わりはないよ。」

 作業を見ていると、掘削をしていた一人が作業を止めてこちらに来た。

「ラージン、こちらは誰だい?」

「こっちは、今日上がってきた新しいD級パーティだ。作業見たいってから案内してきた。」

「初めまして、D級パーティのドリームカルテットです。僕は、パーティのリーダーをしているツグトです。こっちは、メンバーのケイトと、マリ、ミャオです。よろしく。」

「俺は、ヤンク。『一片の夢』っていうD級パーティのリーダーをやっている。新しいD級パーティはうれしいね。大した作業じゃねぇけど、見てってくれ。」

 そう言うと、人族に見えるヤンクは作業に戻って行った。


「岩を掘り出して鉄鉱石があると、鉄鉱石は錆びて赤くなっているから見てすぐわかる。コブシより大きな塊があれば、その中に隠れている可能性があるから更に割る。無ければ、横に避けておく。横に置いた石の山は、人が居なくなると、勝手にダンジョンが回収して消えるんだ。」

 ラージンが作業の説明をしてくれた。


「説明、ありがとう。大体わかったよ。」

 ラージンに礼を言い、それから、順番に体験採掘をさせてもらった。D級かそれに近いレベルに力が強化されていると、貸して貰ったツルハシを振るうのに苦労は無かった。岩の壁にすんなりと刃が入り、掘る事が出来た。マリやミャオも問題無く掘削できていた。


 体験作業が終わり、作業場から出た。狭い空間に人が入ると、温度が高くなる様で暑かった。外に出ると涼しくって気持ちが良い。入る時には気が付かなかったが、入口の横に水が湧き出ていた。掘削の音で水の流れ出る音に気が付かなかった様だ。

「ラージンさん、この湧き水っても飲めるのですか?」

「あぁ、飲める水だ。このダンジョンで飲み水が出るのはここだけだ。ここから上に行く連中はここで水を補給している。長期間ここに居座れるのも、この湧き水と、ここにある窯のおかげだ。」

 そう言って、ラージンさんはテントの横にある窯を指さした。

「窯って?」

「パン窯だよ。このパン窯があるおかげで、小麦と塩を運ぶだけでパンが食える。」

「・・・パンが焼ける。。。でも石で作った窯は、ダンジョンが回収するのでは?」

「だから、3交代のパーティが一番目に付くところに窯を作ってある。一番気にかけているのは、警戒班で定期的にここも見回る。掘削組も掘削を終えて出てきたときには目に付くし、水を飲みにきた全員の目にも留まる。人が居れば、ダンジョンは石を回収しない。そのおかげで、街に帰るのも交代で誰かが、守り番で残らないといけないんだけどな。」

「それは、大変ですね。」

「おぅ、だから、お前たちのパーティが参加してくれると有り難いんだけどな。」


 飲み水とパン窯の説明を聞いたが、なるほど水の補給ができれば荷物を大幅に減らす事ができる。パンは重くは無いが、地味にかさばるので荷物が減らせる。今回は、滞在日数分の水を持って来ているので補給の必要は無いが、採掘場が暑かったので湧いてくる水を飲ませもらい。ゴンタさんの所に戻る。

「ゴンタさん、ありがとうございます。採掘に参加するかは、メンバーで話し合って決めます。」

「おう、そうしてくれ。」


 そんな話をしていると、広場の反対側に魔力の気配がした。

「向こうに、魔力を感じます。」

 ゴンタに言うと、直ぐに反応する。

「ゴーレム出るぞ、戦闘準備。俺たちの仕事なんで、ドリームのメンバーは手を出さないでくれ。」

 そう言って、直ぐに隊列を組んで、ゴーレムに備える。


「オーミ、弓を放て。キューボは鉄球をたたみ込め。ラージン、後衛の攻撃があたったら突っ込むぞ。」

 オーミと呼ばれたガタイの良い人族の男が、強弓を引く。矢じりは、尖ったものではなく、コブシほどもある石を括り付けている。石を投げつける様なものだが、強弓で弾くので威力が大きい。

「ガシィ」

 矢が当たると肩の岩が弾けた。そこに、キューボと呼ばれた、こちらもガタイの良い人族が鉄球を振り回して叩き付ける。

「ドゴッ」

 弾けた肩の下の腕のあたりに命中して、左腕が取れる。そこに、大剣を構えたゴンタが飛び込み胴を横薙ぐ。反対からはラージンが残った右腕の肘あたりに、戦斧を叩き込んだ。

「ガキィ」

「ズン」

 どちらの攻撃もダメージを与える。後は、一方的にゴンタとラージンが攻撃を加え、ゴーレムを石の山に変えていく。粉々に砕かれた所で、ゴーレムが光の粒子になって消えていった。

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