第36話 7層 高速ネズミ

 苦労して7層に辿り着いた。まだ時間に余裕があるので、少し7層の魔物を見ていくことにした。


 歩きながら、昨日の夜に考えていた事をケイトに話す。

「昨日の闘いなんだけど、スケルトンジェネラルに切られてアバラを何本かやられたけど、剣が当たっているので本当なら切れているハズなんだよね。」

「そういえば、打撲は酷かったけど切創は無かったね。」

「あれ、当てた状態で剣を振りぬかずに真っ直ぐに押してたんだと思う。」

「何で切らなかったんだろう?」

「それを昨日から考えていたんだ。殺す気なら、振り抜いて切りつけた方がダメージが大きいと思う。そもそも、どこの階層主もエリアから出たら追撃せずに消えるよね。ここのダンジョンって、冒険者を殺すのが目的じゃなくって、育てようとしてるように思うんだ。勿論、実力を見誤って死んでいく冒険者もいるんだけど、弱い所や足りない所を教えてくれている様な気がする。」

「神様、剣神ゴードが創られたと言われているので、そう言った配慮もあるのかな?」

「そう、剣神なので、特に剣の技術を教えてくれているのかなと。スケルトンジェネラルの剣技なんて、ピカ一だよ。」

「そこまでなのか。」

「家の親父や、ギルマスのエリウスさんの剣技もすごいとは思ったけど、どちらかというと技よりもレベル差による力、スピードの差が大きかった。スケルトンジェネラルの受け流しは、神の技?是非とも、盗みたい。申し訳ないけど、スケルトンジェネラルとやる時は、先に一人でやらせて貰えないか?少し撃ち合って駄目そうならパーティでの討伐に変えるから。」

「僕はいいよ。他の2人にも聞いてみる必要はあるけどね。」

「ありがとう。それは、僕から言うよ。」


 しゃべりながら暫く歩くと、魔物の気配がして戦闘態勢をとる。気配はするが姿が見えない。ここの魔物は高速で移動するネズミの様な魔物だ。体がネズミ並みに小さいので、攻撃力が弱い様に思うが、兎に角スピードが速く頭に着いた鉄の帽子で突撃してくるのでたちが悪い。しかも、2匹居るようだ。

「ケイト、来るよ。」

「わかってる。」

 盾で、鉄帽子の突撃を止めようと構える。最初に現れた高速ネズミは、右斜め前にある木に突撃したと思ったら、その木を足場にして方向転換して突っ込んできた。

「くっ、早い」

 咄嗟に左手の盾でカバーしようとするが、右からの攻撃に間に合わない。右手の剣の幅広の部分で受け流す。

「ガシッ」

 何とか、剣が間に合った。高速ネズミは、そのまま後方の草むらに飛び込んでいき姿をくらませる。直ぐに次の高速ネズミが現れ、木を蹴りながら軌道を変え左真横にある木を足場にして後ろにいるケイトの方に突っ込んでいく。

「スルッ」

「ズゴッ」

 ケイトの左に構えた盾にぶつかると、盾に流された水の魔力に滑って後ろの木に激突した。見ると、木に突き刺さって動けなくなっている。

「ケイト、止めを刺して。」

 ケイトがナイフを出して首に切りつけるのを見て、最初の方の高速ネズミに備える。後方の草むらに消えたはずであるが、全く逆の右前から姿を現す。

「いつの間に回り込んだんだ!」

 今後はジグザグに走りながら左の木に飛んで方向を転換する。左に飛んだ瞬間に体を左に向け、高速ネズミを切るのではなく、飛んだ軌道上に剣を置くように持っていく。少し角度を付けてやると、頭から剣にぶつかってくる。

「シュィーン、スパッ!」

 剣に沿って滑りながら、鉄帽子ごと2つに断ち割られていた。

「ふうっ、何とかなった。横への動きは、目で捕えられないけど正面から向かって来る動きには何とか対応できるよ。ケイト、そっちはどう?」

「魔石をドロップして消えたので、大丈夫。」

 こちらも魔石をドロップしているので拾って剣をしまう。


「ケイト、高速ネズミの動きって、見えた?」

「いや、飛んできたのに盾を向けただけで、見えた訳じゃない。迫ってきたので慌てて盾を出したらあたってくれたって感じ。」

「そうだよね。見て反応できないと、いつかやられるね。身体強化で目に魔力を集めたら見えないかな?」

「やってみる価値はあると思うけど、攻撃は避けきれないかもね。」

「僕は、魔力循環で怪我が治せるので、ケイトが怪我をして怪我ポーションが無くなったら撤退しよう。」


 撤退条件を決めて、先に進む。


 次に出てきたのは、幸い1匹だった。目に魔力を多めに流して動きを見る。横の動きが全く見えなかったのが、動きを追える様になった。動きを追って盾を合わせ様とするが、今後は盾の動きが間に合わない。辛うじて盾の端に捉えるが、端にあたった盾は急激に方向を変える。

「クッ」

 力を入れた腕が無理やり捩じられる。後ろに弾かれた高速ネズミは、今度はケイトに襲い掛かったようだ。ケイトも同じく盾を構えるが、盾の横をすり抜け胸当てに当たって滑っていく。胸の防具にも水の魔力を纏わせていた様だ。

 姿が見えなくなったので、魔力を探して気配を探る。右から魔力の動きを感じたので右に体を向ける。再度、スピードを上げて迫ってくる高速ネズミが見えた。目以外にも右腕に魔力を集中させて剣の振る速度を上げようとするが、同時に2ヵ所の強化をするのは制御が難しい。仕方なく、身体強化の魔力全体を上げて対応する。魔力が漏れだすが仕方がない。右、左と軌道を変えながら突撃してくる高速ネズミに剣を合わせて両断する。

「スパッ」

 何とか剣を合わせる事ができたが、身体強化を通常の倍ぐらい魔力を流すと魔力の漏れで消費が大きい。何とか目と腕の部分強化をマスターしないと直ぐにMP切れを起こしてしまいそうだ。

「ケイト、動きは見れた?」

「動きは追えたが、対応が間に合わない。」

「こっちも同じだよ。腕の強化をしようとしたけど、2ヵ所同時は難しい。今日は戻って、2ヵ所強化の練習をしようと思うんだけど、どうかな?」

「2ヵ所同時強化なんてできるの?」

「今はできないけど、何とか物にしないと、全身強化はMPが持たないよ。


 探索を打ち切って、帰途についた。

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