第29話 ケイトの事情

 ケイトから衝撃の告白があった。

「僕は、フルネームをケイト ネメアという。この国ネメア国の王族だ。と言っても、庶子 平民の母の子なのと第8子になるので、王位継承に絡む事はまずありえない。兄が4人姉が3人妹が1人いる。ネメアは王位継承に男女の区別が無いから、王位継承権は8番目になる。」

「えぇー!王子様だったの?」

「だからと言って、敬語に戻るのは止めてよね。」

「あぁ、・・・でも何で冒険者に?」

「王位を継承しない王族には、いくつかの選択肢がある。1番多いのが、剣技を極めて騎士になる道。次が、魔術を極めて魔導士となる道。最後が、政治を補佐する文官への道だ。僕には、剣の才能が無かった。それでも、王族の地位で騎士団に入りそこそこの地位を貰う事は可能だろう。しかし、弱い指揮官に率いられた騎士はどう思う。騎士たちの士気は挙がらないだろう。ネメアは小さな国だ。騎士団の数も少ない。それだけに精強は軍団でなければ国が持たない。」

 言葉を切って、水を飲んだケイトは更に続ける。

「文官は、貴族の後ろ盾が無いと難しい。母が平民なので、僕には大きな後ろ盾が無い。魔導士とは魔法師が魔導士団に属した時点での称号だ。魔法を使える魔法師の中から優秀なものが魔導士になれる。」

 そこまで語って、何かを思い出す様な感じで少し遠い目をして続ける。

「魔導士団は、戦時には騎士団と一緒になって前線に立つ。攻撃魔法と言えば、火魔法魔導士団が挙げられる。後は、工兵隊としての土魔法師団、諜報を担当する部署には、風の向きを変えたり敵陣の音を拾う風魔法師団。しかし、水魔法師団だけは無いんだ。僕には水魔法しか無い。でも諦めきれなかった。この水魔法を使って、何とか戦闘でも役に立てる事を証明したかったんだ。」

「それで、このゴード神ダンジョンへ。でも、ウォータービーンズもウォーターカッターも良い攻撃だと思うけど?」

「普通のウォーターカッターは岩を少ししか削れない。ウォータービーンズも、もっと威力が無いんだ。この半年かけてやっと、岩にそこそこ傷を付けれる所まで威力を上げれたんだ。玉のスピードを上げる事と、水の圧縮を高めて硬くする事に半年かかった。今だから白状するけど、ウォーターカッターのエッジを尖らせろって言われた時は、頭を鉄板で殴られた様な衝撃だったんだ。」

「そうか。水魔法ってあまり研究されて無いのかな?」

「うん、水魔法だけでも、このダンジョンの10層までは行ける実力を付けたかった。これが、僕の事情だ。ツグトとは、これからもパーティを組んでもらいたい。お願いできないだろうか?」

「勿論、少なくともこのダンジョンの10層までは一緒に行こう。」


 こうして、パーティを続ける事を確認して、野営に必要な資材の話や、王都の話なんかをしながらこの日は眠った。


***

 月の日、前日の神の日に購入した野営道具を持って、再び5層に来ていた。野営道具を買った後に盾も更新していた。ゴッグ対策の大きな盾は必要なくなったので、防御用の小さな盾に更新した。左腕に嵌めて使うタイプのもので、皮でできており魔力を流すための薄い金属板も張り付けてあるので、大きな盾と値段は変わらなかった。大きな盾は、宿舎の飾りになっている。後、階層が進むに従って怪我をする事も考えて、薬草から作られたHP回復ポーションと怪我回復ポーションも2本づつ買った。低級のポーションでも薬草がそこそこの値段で買い取って貰えるのだから、当然、高価であったが攻略を進める上では必要と判断した。


「ウォーターアロー!」

「飛べ、斬撃!」

 2匹で現れた大口ワームにそれぞれの攻撃を叩き込み、2匹共に光の粒子をなって消えた。ここに来るまで、1匹ずつ現れた大口ワーム合計5匹に練習で一斉に攻撃をしかけて、大口ワームの閉じた口の隙間に攻撃を当てる練習をして来た。検証した結果、ケイトがMP3のウォーターアロー、僕が30cmの斬撃(これもMP3)で大口ワームを倒せる事がわかった。最後の2匹では、どちらの攻撃も当たるようになってきたのでそれぞれ担当を分けて倒した。しかし、大口ワームの巣は未だ見つけられていなかった。

「時間的には、野営の為に4層へ戻るべきかな?」

 ケイトが聞いてきた。砂漠の層ではダンジョンの中でも太陽が見える。日が傾いてきたので戻る決断をすべきだろう。その時、風がやんで舞っていた砂が治まり少し先まで見通せるようになった。

「ちょっと待って、向こうに見える岩っぽいの5層のボスエリアじゃない?」

 2層の草原と同じような大きな岩が見えたのでケイトに言った。

「そのようだね。いっそ、6層を覗いてから5層で野営にしようか?」

「賛成!」

 5層のボスエリアで出てきたのは、大きな大口ワームだった。直径が1.5倍の1.5m長さが5倍の15mもある。ボスを見て、一旦、ボスエリアから出て作戦を立てる。

「あの中心って事は7.5mの所に核があるとして、真っ直ぐに攻撃を撃ち込んでも、途中で胴体が曲がっているから届かないよね。」

「最初は、ケイトのウオーターアローと僕の斬撃を一斉に撃ち込もう。攻撃したら口を開けるだろうから、ウォーターカッターを撃ち込んで。隙をみて、近寄ったら何とか切り裂けないかやってみるよ。」

 作戦を立てて、再度ボスエリアに入る。入った所で、野営の荷物を下ろす。身体強化を掛け、剣に魔力を流す。今回は50cmの斬撃を飛ばす。攻撃を合わせて放つ。

「ウォーターアロー」「飛べ、斬撃」

「ズン、・・・グォォー」

 攻撃があたると、想定通り口を開けてきた。2mはありそうな大口だ。

「ウォーターカッター」

 ケイトが攻撃を撃ちだすと共に走りだす。砂漠は足を取られ思ったように加速しない。最初に戦った時は、硬膜に阻まれたウォーターカッターが砂漠を湿らせてくれたので、何とかなった。それで、野営用品を買いに行った時に砂漠スイスイというものを買った。靴底に張り付けてッ靴底面積を1.5倍にするもので、これを付けると砂に足を取られない。若干走りにくいのはの仕方がない。それで何とか近づくと、ケイトが再度攻撃を仕掛ける。

「ツグト伏せて、ウォーターカッター」

 今度は、体を曲げて飛びあがる補助動作に入っていた様で、そのおかげで口から2mぐらいの所からウォーターカッターが内側から皮膚を切り裂き外に飛び出してきた。その傷に目がけて剣を突っ込み更に傷口を広げる。

「ズッズッ、スパン」

 1m弱の傷口を更に3mほど切り裂く。ここで無事な尻尾を振り回して攻撃してきたので慌てて後ろに飛び下がる。

「ブッブオン」

 飛び下がった所に風圧がかかる。尻尾を無茶苦茶に振り回しているので、うかつに近づけない。一旦、ケイトの所まで下がる。それでも口だけはこちらに向けている。

「もう一回切り込めたら届きそうなんだが、もう一回アローで攻撃してくれ。今度は左から攻めてみる。」

「わかった。」

 大口ワームは切られた右側の傷を守ろうとして、尻尾を右側で振り回している。そこで、今度は左から近づいていく。

「ウォーターアロー」

 ケイトの攻撃が口から今度は左側に突き抜ける。その隙に左に回り込んで空いた穴に剣を突っ込む。少し切り裂いた所で、慌てて尻尾を左に振ってくる。切り裂いた傷に足を突っ込み、攻撃を躱すとともに大口ワームの上に昇って、右側へ着地する。すぐに右側の傷口に剣を突っ込み更に切り裂く。

「ズッズッズッ、スパン」

 やっと、真ん中に到達した。大口ワームが光の粒子になって消えていった。

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