第2章 初めての町 シエル街

第13話 シエルへの旅路

 翌朝、ギルド前にヤールさんの馬車が止まり、父がシエル街に送る報告書やら魔石やらを渡して、出発することになった。ヤマト、サラ、ジャン、ミラと母、妹が見送りしてくれて、出発した。ヤールさんに荷台に座ってればいいと言われたが、お願いして御者席の隣に座らせてもらった。

「ここから、シエルへの街道は低級魔物しか出ないので、安心して乗ってれば良いよ。」

「ヤールさん、お願いがあるんですけど、御者の仕方を教えてくれませんか?せっかくの馬車に乗る機会なので、御者もできるようになれたらなと」

 ヤールさんにお願いすると、暫く考えた後にこういう。

「では、これからおじさんがする操作をお昼まで見て、発信,停止,左右の誘導,加速,減速の仕方を、どうしていたか答えな。合っていたら、御者のやり方を教えてあげる。」

「わかりました。よく見ときます。」

 機会があると、何でも知りたがる・覚えたがるのは悪い癖だと思いながらも好意に甘えて教えてもらうことにした。昼になって、休憩を取り母が持たせてくれた弁当を食べる。ヤールさんの分も併せて持たせてくれている。食後に、ヤールさんと話しをする。

「ヤールさん、手綱を鞭にして前進・加速、引くことで減速・停止、左右に引くことで右や左に操作しているようですど。。。基本的に手綱使いませんよね。ジャンとショールに『もう少し、右によれ!』とか『ジャン遅れてるぞ、そう少し頑張れるか?』とか言葉で指示出してましたよね。」

 ジャンとショールは2頭の馬達だ。

「おぅ、気付くわな。でもなツグトが語り掛けてもジャンもショール動かないぞ。いつも、馬の世話をしながら語りかけているから言うことを聞いてくれるんだ。又、最初は手綱で指示して声をかける事で徐々に言葉だけで言うことを聞くようになる。昼から、手綱握ってみるか?」

「ぜひ、お願いします。」

 昼から、御者をやらせてもらいことになった。教えて貰った通り、最初は「進め~」とか言っても動こうとしないので、鞭を当て動いたら褒めるを繰り返していると、その内声にも反応するようになってきた。途中で、ヤールさんに手綱を返して、夕方に開けた場所に止めて野営の準備をする。この季節、雨が降らない限りは、テントなど張らずに焚火を囲んで毛布かシュラフで寝る格好なので、竈を作ってスープを作るぐらいが野営の準備だ。ヤールさんが慣れた手つきで竈を作っている間に、薪を集める。スープの具になるような食べられる茸を集めて、干し肉を薄く削ぎながら入れた所に切った茸を入れる。後は、乾パンと水が夕食になる。

「ツグト、今日は魔物も出なかったから、かなり順調に進んでいる。このままなら明後日の昼には着けるだろう。夜だが、魔物除けの香木を焚火に入れるので、まず、魔物は近づいて来ないが熟睡せずに気配があれば起きる訓練と思って寝ろ。」

「明日も、御者の練習させてね。」

「おぅ、替わってくれると助かるわ。」


 その日は、そのまま寝て夜明け前に起きだす。夜が明ける迄の間、日課の素振りをする。木刀は持っていないので、剣を使っての素振りだ。ゴブリンとの闘いを経て、闘いであったシーンを思い浮かべながら体を動かす。あの時、こう動いていたらもう少し早く倒せたのでは無いかと考えながら剣を振っていると、いつの間にか夜が明けていた。

 朝は、昨日のスープに乾パンを入れてパン粥にして朝食を済ます。馬車を出して、暫くは何事も無く進んでいたが、昼前になって急にヤールさんが馬車を止めた。ヤールさんが僕に聞く。

「魔物の気配。わかるか?」

 そう言われて、魔力を感じようと感覚を研ぎ澄ます。

「前方右から、何か近づいてきます。」

「それが、マッドドッグの気配だ。他は感じないか?」

 他の気配が無いか探るが、左の方にかすかに魔力を感じる。

「左にかすかに気配を感じます。」

「右から、近づいてくる1匹は囮だ。左にマッドドッグのが3匹気配を消して様子を伺っている。右に対応している間に後ろから襲う算段だろう。すまんが、右の1匹の相手を頼めるか?単体の強さは低級魔物だ。ゴブリンと一緒で群れると難度があがるがな。」

「了解しました。」

 馬車を降りて、右のマッドドッグに向かう。マッドドッグは姿が見える距離になると、走って近寄ってきた。牙を剥いて、飛びかかってくる所を身体強化をかけ避けながら後ろ足に切る付ける。

「ギャン」

 鳴きながら、こちらに向き直る。

「ギャンギャン」、「ウォー」

 後ろの方で、ヤールさんが闘い始めたようだ。こちらは1匹なので、できたら早く片付けて助けに行きたい。足を切られて用心深くなったマッドドッグに一気に近寄り右から袈裟懸けに切りかかる。左に避けたところで剣を止め左から顎を蹴り上げる。喉から腹を見せて浮き上がった所で、喉を切り裂く。マッドドッグが動かなくなったのを確認して、ヤールさんの方へ走って近寄る。状況を見ると3匹のマッドドッグが胴を割かれて倒れていた。

「3匹を一瞬で、流石ですね。」

「囮の方を受け持ってくれたから、助かったわ。両方からの攻撃はやっかいだからな。」

 そう言っているが、ヤールさんならどちらも瞬殺しそうだ。

「こいつらは魔石を取って、毛皮は売り物にならないのが腿肉だけは食えるので解体するぞ。」

 そう言われ、解体方法を教えて貰いながら、4匹を捌いていく。血抜きをして、毛皮を剥いで腿肉を切り分ける。8本の腿肉を壷に入れ、残りの部位はまとめて油をかけて焼く。焼き終わったら、馬車で出発した。昼ご飯は、乾パンに干し肉とピクルスを挟んだものを水で流し込む。夜は、また野営だ。しかし、今日の晩御飯は、マッドドッグの腿焼きのご馳走だ。腿肉にかぶり付きながら、マッドドッグの倒し方などを聞く。

「僕が、囮を相手に苦戦している間に、瞬殺でしたね。」

「レベル差があれば、胴体を切り裂くのが一番楽だ。的が大きいので適当に振り下ろせば当たるからな。でも、真似するんじゃないぞ。あれは、レベル差があるからできる事で、儂が冒険者の限界を感じて引退した理由でもある。ランク上の魔物を相手にすることが増えると通用しないことが増え、命の危険を感じたので冒険者を辞めたんだ。」

 ヤールさんは、自分の体験を教える事でレベル頼みの闘い方が如何に危険かを語ってくれた。


 次の日の昼には、シエルの街に着いた。


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第2章 初めての町 シエル街」 始めます。当面は週1更新です。

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