第10話 ゴブリンの集落(7)

 ゴブリンが新たに洞口に入ってこないのを確認して、座り込む。

「ズキッ」


 ゴブリンに殴られた足が痛んだ。ズボンを捲りあげて、状態を見ると青いアザになっていた。リュックを下ろし中から薬草の葉を出す。家を出るときの母の言葉を思い出した。

「森に入ったら、一人はぐれる事もあるんだ。いいから、薬草を持っていきな!」


 日帰りの行動でもあり、いらないというツグトに無理やり持たせた母に感謝しながら、薬草を手で揉んで患部に張り付ける。一緒に持ってきていた布を巻いて布の先を割き、結びつける。少し、痛みが引いていく。

「お母さん、ありがとう。必ず、生きて帰るからね」


 声を出して感謝の言葉を出すと、涙が出てきた。ここまで、必死で戦ってきたが、かなり一杯一杯だったようだ。涙を拭き、今の戦いを振り返る。ファイヤボールの打ってくるタイミングは、ゴブリンがしゃがむまで判らなかった。恐らく、詠唱が終わる時間を見計らって中のゴブリン達の方がしゃがんでいたのだろう。星明りがあるとはいえ、外の方が暗い。ヒカリゴケで光っている洞窟内は、外からよく見えるだろう。しゃがんだタイミングで、外のゴブリンメイジがファイヤボールを打ち込んでいたと思う。魔力玉でファイヤボールを跳ね返したのも見られているだろうから、もう、同じ手は使えないだろう。

 今回の戦いで8匹のゴブリンを倒せた。元が30匹程度として、残りは10匹。ゴブリンナイトとゴブリンメイジが居るが、隙をついてどちらかを倒せれば、活路が見いだせる。夜明けが近づいて外が明るくなれば、逆に中から外が見やすくなり、外からは暗がりが見えにくくなる。そのタイミングで、隙をついて外に出てみよう。それまでは体力を温存するために体を休めておこうと思い、少し横になった。

「ハッ」


 いつの間にか眠っていたようだ。こんな状況でよく眠れるものだと思いながら、重い体をおこす。しかし、少し寝たおかげで、少しは体が楽になったようだ。外を伺うと、まだ真っ暗だった。


 湧き水の所まで戻り顔を洗う、ついでに水を飲んで食料を探すが、腐りかけた生肉しかなかった。ゴブリンの肉も喰う気がしないので、腹を壊す恐れがあるものは最後の手段として、諦める。元の位置に戻り、外の様子を伺うと、少し明るくなってきているように見えた。

 壁伝いに音を立てないように、ゆっくりと進んでいく。やはり、夜明けが近いようで外の方が明るい。洞窟の陰になっている所をギリギリまで出口に近寄っていくと、外の様子が見えた。入口の見張りに2匹のゴブリンが居た。少し離れた所に、杖を持ったゴブリンメイジがイライラとした様子で歩き回っている。最後の攻撃が空振りに終わったことで、次の手が思いつかないのだろう。ゴブリンメイジに付き従う1匹のゴブリンが見える。見張りのゴブリンがゴブリンメイジの方を気にして後ろを向いているのを良いことに少し身を乗り出して、奥の状況を見てみる。ゴブリンナイトが居た。居たが、手足を放り投げて眠っている。ナイトの回りに昨日の戦闘で回収できなかった7体のゴブリンが心臓を抉られた状態で放置されていた。

(7体のの魔石を喰ったのか!?。いや他に3体のゴブリンも放置されている。火傷の跡があるので、昨日の逃げ帰った3匹を殺して、これも喰ったのか!!)


 ゴブリンナイトが更に上位種に進化しかかっている可能性がある。ゴブリンナイトが進化していたら倒すのが大変なるが、ゴブリン自体は3匹とゴブリンナイト、ゴブリンメイジの合計5体になっている。今やるしかないと思い定め、日陰の所に戻りながら息を整える。剣を抜き、身体強化をかけてから剣にも魔力を循環させる。出口から一気に外へ出て、まず、3匹のゴブリンを切り伏せ、ゴブリンメイジの喉を切り裂く。

「レベルアップしました」


 経験値の多い、ゴブリンメイジを倒したことで、レベルアップした。眠っている間にゴブリンナイトに一撃をと思ったが、ゴブリンナイトは即座に立ち上がってきた。昨日、対峙したゴブリンナイトより一回り大きい。これを放置して逃げ切れないかと道の方へ走りだしたら、すごい素早さで、道を塞いできた。身体的特徴は、ゴブリンナイトだが進化してないまでも、身体能力も上がっているようだ。逃がしてはくれ無さそうだ。走って振りきれないのなら、倒すしかないと覚悟を決める。

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