第8話 ゴブリンの集落(5)

 ゴブリンの集落前から延びる2つの道から、別々のゴブリンの集団が迫っていた。ゴブリンナイトの討伐に時間がかかり過ぎた。と言っても、今の実力ではこれ以上やりようが無かったのだが。道を避け、森に逃げたらと考えたが、木々をすり抜けながら追手を巻くのは地形が判らないので危険だ。かといって、30を超える集団にゴブリンナイトとゴブリンメイジを加えた相手に、この広場は勝手が悪い。

「せっかく、外に出てきたが、中に戻ろう。」


 中に戻り通路で戦えば、包囲されることない。その前に、倒したゴブリンナイトの胸を一刺しにして魔石を取り出し、リュックに放り込む。ゴブリンナイトの魔石を食べられて、これ以上強い魔物になられたら目も当てられない。ゴブリンの巣の入口に駆け戻り、入口近くで倒した3体のゴブリンの死体を通路に投げ込む。攻めて来られた時の障害物にする為と、食べられる魔石を減らす為の作業だ。入口に飛び込んで、先に放り込んだゴブリンの死体を脇によける。とりあえず、一匹しか通れないにする。その後ろに下がって息を整える。

「グギャ、グギャギャ」

「ギャ、グググギャ」


 広場からゴブリン達の声が聞こえる。静かになったと思ったら、

「ザッザッ」


 揃った足音が聞こえてきた。入口に2列縦隊で入口に近づいてくるゴブリンが見える。入口を入って、10メートル程進むと邪魔になるゴブリンの死体がある。その直前で2列10匹のゴブリンが停止した。指揮官がいると、勝手には突っ込んで来ないようだ。暫く見ていると、何とゴブリンの死体を掴んで後ろに運び始めた。仕方が無いので、死体を持っていない方のゴブリンに切りかかる。死体を持っていたゴブリンも死体を置いて、こん棒をこちらに向けてくる。身体強化をかけて剣に魔力を流し込み、剣を横になぐ。右のゴブリンの首を切り裂き、その勢いで左のゴブリンの腕を切りつける。1匹が倒れ、左腕を抑えるゴブリンの喉を一突きにする。左のゴブリンが倒れる前に胸を思いきり蹴りつけて後ろにいるゴブリンに飛ばす。後ろにいたゴブリンが勢いを受けきれず体制を崩したところに、横に並んだゴブリンを袈裟懸けに切りつける。前に倒れてくるゴブリンを蹴り上げて、後ろのゴブリンにぶつける。体制を崩していたゴブリンの喉を一突きにして、隊列が崩れた中に飛び込んでいく。何とか10匹のゴブリンを倒すことができた。育児室で見たゴブリンの急成長の姿が頭によぎり、通路に放置しておくと魔石をとられる事を恐れて、近くの部屋に10匹の死体を放り込んだ。


 戦闘中にレベルアップの音声が頭に響いたので、今暫くはMPは大丈夫そうだ。次の攻撃に備えて、体制を整えて通路で待つことにする。

「ゴウッ」


 暫く待っていると入口からファイヤボールが飛んできた。慌てて剣に魔力を流し込み縦に切り裂く。2つに分かれて後ろに飛んで行ったファイヤボールは壁にぶつかって消えた。間隔を空けて2発ファイヤボールを打ち込まれるが、同じように剣で切り裂き対処する。その直後に、また10匹のゴブリンが今度は駆け足でやってきた。剣を構え、身体強化し先頭の2体を切り裂く。次に掛かるために前に出ようした所で、残りの8匹は駆け足で引き揚げて行った。

「偵察かいっ」


 ファイヤボールの効果を様子見にきたようだ。暫く待つが、動きは無かった。出口を見ると、外は真っ黒で日が完全に沈んだようだ。急にファイヤボールを打ち込まれると厄介なので、倒したゴブリンの死体を積み上げて壁にする。一発なら、耐えられるだろう。その壁の後ろに座り込んで、水筒の水を飲んだ。空腹だが食べるものは無い。少し休むと、疲れが一気に出てくる。HPは回復するので元気なハズだが、精神的な疲れは蓄積している。闘いが続いていたので気を張り詰めていたが、気を抜くと倒れてしまいそうだ。ゴブリンナイトとの闘いは、ギリギリだった。MPが切れそうと思っていたが、最後まで持ってくれてよかった。ギルドカードを確認すると、以下の様になっていた。


<ツグト>

レベル:10+

HP:-/-

MP:-/-


 レベル10を超えたので表示が10+になっており、HP,MPの表示はされなくなっていた。MPの消費を確認できなくなったが、この戦いを通じてMPの減り具合が判るようになっていた。魔力は丹田(へその下あたり)にある。MPの消費については、丹田に溜まった魔力を意識することで、減り具合がある程度判る。魔力切れを起こしたことで、さらに魔力の減り具合がはっきり判るようになった。


 身体強化をする場合は、この、魔力を全身に巡らせ循環させる。身体能力が強化され、例えば足に力を入れると足に巡らせた魔力を消費して通常能力以上の力を発揮する。動かない限りは、魔力を消費しないので、燃費が良い。それに対し剣に流した魔力は常に剣から発散し続ける。オンオフを切り替えたいが流すのに若干の時間が必要になるので、闘いの際は常に流し続ける必要がある。剣にも、魔力循環できないか?MP切れを起こした時に切実に思った。


 片手剣を右手に握ってみる。握った剣を構え、親指以外の指から両刃の下側に沿って魔力を流す。剣の先迄流した所で親指の魔力を体の中心に戻してみる。剣の先にあった魔力が両刃の上側を通って親指に流れてきた。そのまま剣の歯に沿って循環をさせる。そのまま剣に魔力を循環させ、MPの減りを感じてみる。ほぼ、減っていないことが実感できたので、横の壁を切りつけてみる。壁が削れて魔力が消費される。減った分を丹田から引き出して消費される感覚があった。MPの減りについては、これで何とかできる目途が付いた。


 ストレッチで、体をほぐしながら外の様子を伺う。特に動きはなかった。

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