第3話 【閑話】振り続ける力(1)

 3話、4話は、ツグトが剣を振り続けられる力をつけたエピソードです。ストーリーは、5話から続きとなりますので飛ばして貰っても大丈夫です。


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 6年前、6才になった時に、父から一振りの木刀を渡され振り方を教わった。

「ツグト、この村の近くにある森には魔物が住んでいる。魔物は人を襲う。出会ったときに剣の振り方を知っているか知っていないかで、生き残れる確率が変わる。魔物は群れを作る。群れの魔物に出会った時は、剣の振る方を知っているだけでは無く、その剣を振り続ける力があるかで生き残れるかが決まる。お前は、この木刀を1000回振り続けることをまず目標としなさい。」

 そういって、6才には、まだ重い木刀を渡された。


 最初、木刀を振り上げ振り下ろしただけで剣筋がふらつき、よろけた。それでも振り続けるが、100回を超えた所で、体が悲鳴を上げた。手を見ると、たったの100回振っただけで豆が出来ていた。見ていた父が止めたので初日はそこで終了した。次の日の朝、朝食前に木刀を振るが、そのときには必ず父が横に付いて見守ってくれていた。最初は100回を毎日振り続け、100回が苦にならなくと、50回づつ回数を増やしていった。1年が経つ頃には、1000回振れるようになっていた。1000回が振れるようになると、父が振り方について指導し始めた。


「ツグト、剣筋がブレている。上から下にはまっすぐに振り下ろせ。」


「ツグト、剣を振り上げた所から更に力を溜める様に後ろに引いてみろ。剣を振り下ろすスピードが変わるはずだ。」


「振り上げた時には、握る力は優しく。剣が当たる瞬間だけ、強く握れ。常時、強く握っていると握力が持たないぞ。握力がなくなった時は剣を持てなくなる時だ。


 満足に真向切り(上から下に真っ直ぐ切り下げる)ができるようになったのは、8才になった時だった。

真向切りができる様になると袈裟切り(右上から左下への切り下げ)の素振りが1000回追加になった。6ヵ月後に2000回が振れるようになると左袈裟切りが追加になった。合計3000回だ。9才で3000回が振れるようになると、袈裟切りが袈裟切りから左逆袈裟切り(左下から右上への切り上げ)の連続攻撃に変更される。但し、往復一回は2回にカウントされるため袈裟から逆袈裟の素振りは500回に変更された。左袈裟から逆袈裟切りも追加され、半年が経つ頃、右薙ぎが加わり10才で左薙ぎが加わり合計5000回になる。その頃には、朝飯前では時間が足らないので朝飯前に1000回、朝ご飯休憩の後に2000回、夜に2000回を振るようになった。

 10才の半ばで5000回が振れるようになった時には、各振り方の連携に加え、突きの練習も追加になっていた。そんな、ある日朝の練習だけ付き合ってくれていた父が夜の練習に来て言った。

 「体を温める程度で素振りを止めて、組み打ちをやるぞ。木刀を構えて打ちかかって来い。」


 剣を構えて、今までの練習で培った真向切りを頭の上(と言っても身長差があるのでほぼ真正面だが)から振り下ろす。

 ガキッ!! 父が無造作に横にした木刀で受け止めるが岩を叩いた様にびくともしない。その後、袈裟切り、右薙ぎ、諸手付きと攻撃を仕掛けるが全て剣で受け止められる。しかも受け止めた剣をわざと弾くことなく止めているだけなので連続して攻撃できているが、攻撃させてもらっていると言った方がいいぐらいだ。

「父さん、攻撃が全く通る気がしないよ」

「ツグト、これがレベル差というものだ。今後、お前のレベルが上がったとしても必ず上のレベルの魔物や人がいる。レベル差のある相手の戦い方を覚えておけ。攻撃は弾かれるのを前提に軽く打ち込め。動き回って、攻撃しながら隙を見つけろ。隙が無ければ攻撃を繰り返して、隙を作るんだ。」


 その後、動き回りながら攻撃を続けるが、結局、その日は攻撃が通ることは無かった。

 そんな日が続き、打ち合いが終わった後に体を拭きながら、どうやったら攻撃が通るかを考えていた。

(真後ろからの攻撃は流石に避けられないよね。でも、真後ろを簡単には取らせてくれないしな。。)


 などと、動きの反省をしながら隙を見つける方法を考えるのが日課になっていた。

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