第2話 ゴブリンの集落

 お昼を食べた後、男性陣は木の陰で用を足したが、女の子のサラは、少し離れた所まで歩いていった。

 暫くすると、

「キャー!!」

 悲鳴が聞こえた。キースおじさんが飛び出していく。ヤマトと僕も、少し遅れて後を追う。追いかけだしたところで、右の林から一匹のゴブリンが襲ってきたので、対応する。連携など考えている暇がないので、一撃を頭に振り下ろした。しかし、キースおじさんの様に一発では剣が通らない。浅く傷付けて、打撃による衝撃でふらついているが倒す所まで行かない。気を取り直して、今度は首筋に振り下ろす。首から胸にかけて浅く剣が入る。首から血を噴き出しているが、構わずこん棒を振り上げるので空いた腹を切りつける。切りつけながら右横を通り過ぎ、振り返って構え直したところでゴブリンが倒れた。僕がゴブリンを倒したのを見て、ヤマトは先に走っていく。倒したゴブリンに止めを刺して、そのままにして後を追いかける。遠くにキースおじさんがゴブリンの群れと戦っているところが見えた。5,6匹の群れの様だ。いや、足元に2匹ほど倒れたゴブリンが見えるので8匹?これは、やばいと思った。急ごうとして足を踏ん張った所で、急に足元の地面が崩れた。崩れた所が子供一人が辛うじて通れる穴になっている。そのまま、穴に足を突っ込んでしまい、滑っていく。しばらく滑ると洞窟の中に放り出され、したたかに背中を打って動けなくなった。

「ヒー、ガハ、ゲホ」

 背中を打った事で、空気が吐き出され息を整えるのに咳き込む。呼吸が治まると異臭が鼻を突き、戻しそうになる。洞窟の中はヒカリ苔が生えており、しばらく目を慣らすと、少しづつ見えるようになってきた。周りを見ると、そこはゴブリンの育児室のようで、赤ん坊~子供のゴブリンが20匹ぐらい見えた。


 どうやら、ゴブリンの巣に入り込んでしまった様だ。その時、左のふくらはぎに痛みが走る。慌ててみるとゴブリンの赤ちゃん(見た目は芋虫)が僕の足にかぶり付いていた。ゴブリンは生まれた時から歯が生えており肉を喰らう。3か月で大人に成長し、急激に数を増やすので厄介な魔物だ。慌てて左に剣を持ち替え、振り下ろす。首が胴から離れ足から外れてくれた。幸い、防具代わりに皮のズボンを履いていたので歯は足に到達していなかったようだ。慌てて立ち上がった所で、

「レベルアップしました」

レベルアップの声が頭に響いた。4人で6匹(一人あたり1.5匹)、穴を落ちる直前に1匹、ここに来て1匹を倒した事で、トータル3.5匹となり、レベルアップしたのだ。


 周りを見渡すと、ゴブリンの子供が寄ってきた。先ほど倒したゴブリンは別の子供ゴブリンの餌になり齧られている。餌にありつけなかったゴブリンが包囲してきた。包囲が完成すると、じり貧になるのでその前に動き出す。一番右に居る身長80cm程のゴブリンに肩から袈裟懸けに切りかかる。子供ということもあるが、あっさり心臓まで剣が通り、一撃で倒れた。レベルアップのおかげで、筋力が上がっているようだ。


 右端のゴブリンを倒した後に左に向くと、ゴブリンが1列に並ぶ形になる。これで包囲を崩す事ができた。次のゴブリンを真上から切りおろして、後ろから左に姿を現した次のゴブリンを右薙ぎで首を刈る。先に倒した正面のゴブリンが、こちら側に倒れてきたので胸を思いきり蹴って後ろのゴブリンにぶつける。前にできた空間に踏み込んで右のゴブリンの胴を薙ぎ、左のゴブリンの喉を突く。蹴ったゴブリンをぶつけられ倒れているゴブリンの心臓を突いて腹に足をかけて思いきり引き抜く。喉以外を突くと筋肉が固まり剣が抜けにくくなるので、直ぐに抜かないとこちらが危険になる。その後も、包囲されない様に動き回りながら1匹づつ倒していく。気が付けば15匹のゴブリンの死体が転がっていた。残った、芋虫のように這いまわる赤ちゃんゴブリンが6匹いる。ここまで、夢中で戦ってきたが、ここで手が止まる。

「無理だ」


 襲ってくる魔物には、無我夢中で倒していけたが向かってきていない、しかも赤ちゃんゴブリンを相手に剣を振るえなくなっていた。きつく握りしめていた為にガチガチに固まっていた右手を左手で一本づつ剥がしていく。「カラン」と音を立てて剣が転がった。剣を強く握り過ぎだ。剣が当たる時だけ、強く握るように練習してきたのに、実際の場面では強く握りしめたまま、振り続けていたようだ。こんなことでは、剣を振り続けられない、生き残れないと思いながら、残ったゴブリンの赤ちゃんを眺めていた。

「クチャ、クチャクチャ」


 赤ちゃんゴブリンが、倒したゴブリンを咀嚼している。この辺りはやはり魔物だ。ゴブリンは、生まれたその時から歯や牙が生えていて、授乳では無く何でも食べる。その内、胸の魔石を食べたと思われる一匹が急に光りだして、大人のゴブリンに変化した。落ちていたこん棒を掴むとこちらを見て、にやりと笑う。慌てて、落ちた剣を拾いこん棒を振りかぶったゴブリンの胴を薙いだ。このまま、残りのゴブリンを置いておくと後ろから襲われる。心を鬼にして残ったゴブリンの赤ちゃんに止めを刺していく。吐き気がして来たが、吐いてしまうと体力がなくなると思い、必死に口を押える。合計で21匹のゴブリンを退治していた。戦闘中に3回レベルアップの音が脳に響いていた。座り込みながらギルドカードを取り出すと、


<ツグト>

レベル:5

HP:7

MP:12


と表示されていた。ちなみに、筋力や俊敏性はカードには表示されない。HPは1レベル上がると1~2程度アップする様だ。MPの方は、1レベルあがると2~3アップしている。村の成人のレベルが3~7ぐらいなので、そのレベルには達してしまった様だ。


 レベルがアップしても疲労がなくなる事は無いようだ。他のゴブリンに見つかる前に、この巣から出ないといけないので、疲労で重い体を引きずって、部屋から出て行った。

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