第38話
僕らと運転手しか乗っていないバスの中。
匂いが漏れないようにバッグに詰めたコロッケの香りは、期待に反して漏れ出てきていた。
一番後ろに二人並んで座る。
その空気は、電車の時のような物ではなく。ただ、気まずさのようなものをまとっている。
でも、僕はその空気ではなく先の夕の発言頭がいっぱいになっていた。
夕は、窓の外を見ている。
風景はどんどん、山の中に入っていく。
しばらくバスに揺られ、僕らはバスを降りた。
「着いたね」
夕は切り替えたのか、明る声で笑った。
僕も夕に合わせるように、取り繕う。
「うん。いい場所だね」
周りは自然に囲まれ、何件か旅館やさっき行った程ではないが商店街のような出店が出ていた。
ネットで見たより栄えていて、こっちでも色々見れそうだ。
「おお、色々あるね」
「チェクインしてから見てみようか」
僕がそう提案すると、夕は目を輝かせて頷いた。
旅館に入ると、若女将さんが出迎えてくれた。
「ようこそ、いらしゃいました。お待ちしていました」
「あの予約していた者なんですけど」
「ええ、存じています。こちらにどうぞ」
旅館の中は、ゆっくりと下時間が流れているように感じような、静かな時間が流れている。
「こちらがお部屋となります」
そう案内された部屋には花の部屋と書かれていた。
「夕食は六時頃にもお持ちしますがよろしいでしょうか」
「はい、夕も良い?」
うん。
夕はうなずいた。
「大浴場は十時半までお使いいただけます。露天風呂は十時までです。朝はどちらも六時からとなります。時間内でしたらご自由にお使いください。では、ごゆっくりおくつろぎください」
そう言って、女将さんは部屋を出た。
「凄い」
女将さんが出て行ったあとすぐに、夕は声を上げた。
「窓開けるよ」
夕は確認をとり窓を開けた。
「うわー」
窓を開けると向かえにあった森が全面に広がっていた。
息を呑むほどの絶景だった。
全面に広がる新緑、さわやかな風が吹いた。
「凄い良い景色だね」
夕はにこりと笑い、外を眺めていると夕のお腹が鳴った。
夕は恥ずかしそうにお腹を押さえて、頬を赤く染めた。
「さっき買った、コロッケ食べよっか」
はにかむように笑い、座ってお茶を淹れ始める。
僕もちょうどお腹がすき始めたので、バッグから取り出した。
やはり、少し冷え始めていた。
「食べたらお風呂に行こうかな」
お茶を淹れながら、この後の予定を考えてる。
最初は下の商店街に行こうとしていたが、そんなことよりお風呂が気になってしまった。
「そうだね、僕もお風呂に行こうかな」
せっかく、温泉旅館に来たのだから温泉にたくさん入らなくてはもったない。
「おいしそう」
少し遅いお昼ご飯になった。
コロッケは冷めてもおいしかった。
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